第十話「せめて人間らしくあるために」6
「どうして僕にそのことを……」
「一緒に演奏もした仲間だ。これだけ仲の良いところ見せちまってるんだから、隠すつもりはねぇよ。それに国の中枢にいる王子のお前さんだからこそ、聞いて欲しかったのかもな」
事の重大さを考えれば考える程、エリサは幸せな二人がどれほど追い詰めらた、危険な状態に置かれているのかを認識した。
「革命運動に参加しているくらいですから、後悔はしてないんですよね?」
確かめるようにエリサは問いを放った。
シカリア王国の法に従えば子どもを産むことは出来ない。
いずれ二人は引き裂かれ、ベルレーヌは罪を犯した罪人として罰せられることになる。
それでも、二人は愛し合ってしまった。
きっと後悔なんてあるはずがない。そう思いながら、エリサは確かめるために聞いた。
ポールは大きく息を吐き、胸ポケットから煙草を取り出した。
エリサに吸っていいかどうか確認した後、マッチで火を起こし、煙草を吸うポール。
頭上を見上げ、紫煙が吐き出されると、ゆっくりと白い靄を描きながら溶けていった。
そして、一呼吸掛けて気持ちを落ち着かせたポールはエリサの問いに答えた。
「禁忌を犯してしまったことは分かっている。だがな、俺はベルレーヌとの子がたとえ男であっても祝福される国に変えたい。
ベルレーヌはな……。どんな子どもでもいいわけじゃねぇ、俺との子どもが欲しいと言ってくれた。だからな、俺はベルレーヌとの子がどんな子でも生きられる国に変えたい。そのための革命なら、喜んで手伝ってやるよ」
口にしたのはポールとベルレーヌが抱く革命運動に参加する覚悟そのものだった。
たとえ明日が無くとも、やり遂げなければならない境地まで二人は来ている。
誰の警告だって、もう届きはしない。エリサはその事が痛いほど分かった。
「男であれば生きられない世界を変える。男女が平等である社会を当たり前にしなければ、この国はいつか滅びに向かうだろう。
女しか産まれない国なら男は要らない。それでも国は成り立つだろう。しかし、その歪んだ体制に気付いてしまったら、もう止められはしない」
「多くの観光客がこの国を訪れるようになって、男女との交流も増えて、人々はそれに気付いてしまった。だから、革命を支持する人が増えていると」
「そういうことだ。俺とベルレーヌはもう引くことの出来ないところまで来ちまったから、協力する以外の選択肢はないがな」
エリサはポールの話しを聞き、アントニオから告げられた言葉を思い出した。
”俺は一年以内に革命を完遂させる。お前を男として王位継承権を持たせるためにだ”
あの時に語られた言葉は滅茶苦茶な理想に聞こえたが、真実はそうではない。ポールやベルレーヌを始め、多くの人の願いを叶えるために先頭に立っている。だからこそ、ここまで強い言葉を言い放ったのだと、エリサは今になって気付かされた。
「僕はまだ、女王の意志を裏切って男として生きていくと決めたわけじゃないよ」
「分かっているさ。責任重大な決断だからこそ迷ってしまうこともな。
だがな、王子。あんたの性自認は男のはずだ。
なら、女にならなきゃいけねぇなんて世界は狂ってる。そんな世界であってはいけないんだよ」
切実な願いを込めて、ポールはそう言葉にして訴えかけた。
話の重苦しさから、先程までの熱が一気に冷めていく。
エリサは込み上げて来る情動を必死に堪えた。
そうしなければ、涙腺が刺激され、涙が零れ落ちてしまいそうだった。
シカリア王国の女性を愛してしまったジャーナリスト、ポール・ブレイカー。彼の決意に満ちた言葉を心に深く刻み、エリサの夜は過ぎていった。




