第八話「華麗なるファイブスターナイツ」2
「そういえば、ディオーナに聞きたいことがあって来たんだ。西地区の産婦人科学研究所がテロリストの被害に遭ったそうだけど、犯人は捕まったのかな?」
軽いランニングを隊員と一緒に終えた後で、平和を願う国民から聞かれたことを今度はディオーナに問い掛けるエリサ。
いつもの調子でエリサに接していたディオーナの表情が瞬時に険しいものになり、手を焼いているのだと間接的にエリサに伝わるほど変化した。
「依然として捜査を継続してはいますが、まだ捕まっていません。犯人達は国内で規制されている爆発物まで用意をして犯人の目星が付く証拠も残さず用意周到でした。夜間に仕掛けられたため、対応の遅れがあったせいもありますが、捜査は難航していますね」
警戒が薄い夜間を狙って仕掛けられた爆発物。近代兵器とも密接に繋がる爆発物については厳しく規制されているため、それを使用した犯行については想定されていないことが多い。
諸外国から密かに持ち込まれた銃器や爆発物が使用される事件は増加傾向にあり、王立警護隊も手に負えず頭を悩ませているところだった。
「そうなんだ……。ディオーナが言うなら間違いないんだろうね。
国民にも不安が広がっているから、早く解決してくれるといいんだけど」
テロ行為が続くことを望んでいるわけではないが、ルミナスリバティーの頭領である父が計画した作戦であることはディオーナであっても知られてはいない。今のところ、父の計画に支障をきたすことも、危険が及ぶこともないことを知り、エリサは心の中で安堵を覚えた。
「仰る通りです。今後のテロへの警戒も強まっていますから、国民が不安に思うのも当然です。狙われているのが重要な産婦人科施設ですから、許しがたい犯行です」
正義感の強いディオーナは当然とばかりに強い言葉でテロリストに対して憎悪を募らせる言葉を走らせる。エリサはそれをディオーナの立場から考えて、仕方のないものとして受け止めるが、内心は複雑なものだった。
「母様の反応はどうなのかな? 産婦人科施設が狙われたのは多くの観光客を受け入れているにもかかわらず、一緒に暮らすことも子どもを作ることも許さないからだと思うけど」
「女王様は男女が共生する社会への転換より、規制を強化する方が事態の収束を図るには重要であると考えているでしょう。非人道的なテロという攻撃的な手段でもって、大きな変革を迎えることはあってはならないことですから」
エリサの踏み込んだ質問にも答えるディオーナ。
女王の心情を察して代弁をしたディオーナの言葉。
簡単にはアントニオの理想とする社会への転換は成し遂げられそうにない。
テロ行為の影響はあったにしても、そう認識せざるおえなかった。
「そんなことよりも、王子の剣技が鈍っていないか心配です。一戦、付き合って頂けますか?」
ディオーナは話題を切り替え、エリサに提案した。
ルミナスリバティーについても聞いておきたいエリサだったが、その欲求は押し込め、ディオーナの懸念を払拭するため、剣を交わすことを受け入れた。
「ディオーナがそれで満足してくれるなら、構わないよ」
「よかった、感謝いたします。容赦はしませんが王子の身体に傷をつけるような無礼は致しませんので、全力で向かってきて下さい」
礼儀正しくお辞儀をしてディオーナは言うと、形稽古や模擬戦で使用する居合刀を準備してエリサにも手渡した。
「そんな怖い目をしないで。真剣な顔で見つめられると、怖気づいて力が出ないから」
「申し訳ございません。いつも言っていますが、何時いかなる時でも真剣に取り組むのが私の掟です」
「分かったよ。秘技を使用するのはなしだからね」
「勿論です。正々堂々と行ってこその真剣勝負ですから」
修練の練度や騎士としての経験に圧倒的に差があり、始める前から勝負は決しているにも関わらず、真剣に模擬戦を始めようとするディオーナに苦笑いを覚えるエリサ。
これはディオーナなりの愛情を持ったスキンシップであり、コミュニケーションの手段なのだと割り切ってエリサは位置に着いた。
周りの隊員達も休憩ついでに二人の模擬戦の模様を見守る。
きめ細かく美しく手入れされた白髪が日光に照らされ、ふわりと風に触れる。
エリサは居合刀を握る手に力を込め、正面に立つディオーナを見つめたまま構えを取った。




