第七話「スターサテライト」3
「ケインズ先生は本当に何でも詳しいですね。もしかして、この国が女民国家を目指した理由も知っているんじゃないんですか?」
感心しながらケインズの語りを聞き終えたエリサはついでとばかりに質問した。それは長年に渡るシカリア王国に残る謎。エリサが密かに取り組む、研究課題の一つであった。
「わしにも女民国家が出来た経緯まではさすがに知らぬ。しかしだな王子。
ヒントになるかは分からんが、何事にもより良き世界にしようという善意から始まっている。国を良くしようと考えることも然り。
世界から見れば、女性しかいない国は理想郷のように見えることもある。現実はこの有様じゃがな。だがな、悲観することはない。
時代の変化と共に人は時代錯誤な価値観を捨て、新たな理想を掲げ、多くの民が望む方向へ世界を変えられるのじゃ。
人はそういう可能性を持った生物であることを忘れてはならんよ」
国の成り立ちから、長きに渡り、維持され続けてきた女民国家。
それが崩されようとしている今、危機感を覚える人は数多くいる。
だが、人が望むように世界を変えられると信じる心もまた、努力すれば夢はきっと叶うと信じる人の心だった。
エリサはケインズの言葉を噛み締め、母と父が和解する日を静かに願った。
「さて、天体観測も大詰めじゃ。王子よ。あの星の名を知っておるか?」
ケインズの指差す先。そこには一際大きな光が瞬いていた。
「ベツレヘムの星ですか?」
王宮に生まれ、勉学に勤しんできたエリサは自身の知識を駆使して回答を言い当てた。ケインズはエリサの回答に満足すると、さらに言葉を続けた。
「左様。このシカリア王国を含む、多くの国々の間では確かにその名で伝えられておるな。だが、本当の名はそうではない。あれは迷彩型人工衛星”サテライト”という名を持っておるのじゃ」
「人工衛星? サテライト? 一体、それは何なのですか?」
エリサの疑問は当然のものだった。シカリア王国に保管されている図書には記載されていない、人工衛星の存在。科学技術がリセットされた関係で各国にある書物を漁っても古代文明時代の叡智を知ることは叶わない。
そのため、諸外国の一部では古代文明時代の遺産を掘り起こし、産業の活性化を強引に進めようとする動きが盛んに行われていた。
だが、エリサが求める知識は失われた文明のあれど、純粋な探求心によるもの。聞いた事のない人工衛星の存在に刺激的な興味を抱いたエリサはケインズに話の続きを求めた。
「外宇宙へと旅立った人類が現在の地球の姿を鑑賞するために残されたのが皆がベツレヘムの星と呼んでいる人工衛星じゃ。
それ以外の用途もあるが、高度な通信環境が必要なくなった現在は、かつてあった多くの人工衛星は廃棄されなくなっている。
あの巨大な”サテライト”こそが外宇宙で暮らす人類と我々とを繋ぐ唯一の鍵と言っても良いじゃろうな」
エリサの情報整理が追い付かない内に説明を終えたケインズ。
歴史が眠る迷彩型人工衛星”サテライト”の真下、天国にいちばん近い丘へと到達したケインズにしか知り得ない、”サテライト”の存在。
国が統治する秩序の下で普通に産まれ、普通に暮らし、普通に死んでいく人生であれば必要のない知識であるため、わざわざ危険を冒してまで遥か東方にある丘を目指す者はいない。
それ故に、ケインズ・グレイという男は強固な探求心を持ち、頑丈な肉体を持ち合せていると言える。
「今はまだ、この世界には未知なるもので溢れておるということだけ、知っていればよい。我々にとって必要のない知識まで求める必要はないのじゃからな」
少し寂しげな表情を浮かべ、空を見上げながらケインズは呟いた。
何気ない日常が繰り返される、シカリア王国。
その中にあって、最も大きな渦の中心にいるエリサは広大な宇宙の景色に想いを馳せるのだった。




