第七話「スターサテライト」2
「ケインズ先生、チャック先生」
「おおっ! クオン君も連れて来てくれたのか。これは実に愉快。王子、今宵は星が綺麗じゃ。ゆっくり見ていくといい」
太陽光パネルが列を成して並ぶ王立研究所の屋上。
そこに四人は自然と並び、どこまでも遠く広がる、満天の星空を見上げた。
「今日はよく晴れておったからな。裸眼でも冬の大三角が見つけられるじゃろう。王子、まずはおおいぬ座のシリウスを指差してみよ」
人工的なプラネタリウムとは違う、自然が創り出した輝き。
広大な宇宙から自分に似合う宝石を探すようにエリサは光を放つ、九光年先にあるシリウスを指差した。
「正解じゃ。あれがシリウス。プロキオンとペテルギウスと合わせれば綺麗な正三角形が出来る。これを冬の大三角と言うのじゃな」
まるで物知り爺さんのように饒舌に語るケインズ。幅広い分野に精通するケインズは天体観測についても詳しかった。
「王宮の中にばかりいるので、こうして屋上で空を見上げるのは新鮮ですね」
クオンは双眼鏡を手に曇りない瞳で空を見上げ、感嘆の想いを声にする。
ただ、空を見上げているだけで、心が洗われるような何とも不思議な感覚をエリサも同様に感じ取っていた。
「本を読んでいると行って見たくなるようなロマンチックな光景が沢山出てきます。でも、こんなに身近に綺麗な景色があったんですね」
現実の慌ただしさを忘れてしまうような景観。
エリサは流れ星が一瞬、視界を通り過ぎていくのを見た。
反射的に願いを思い浮かべようとしたエリサだが、瞳に涙が滲みそうになり止めた。
それは、一番叶えたい願いがあまりにも遠く、実現困難な願いだったからだ。
「クオン。どうやら僕は、男になるよりもずっと尊いと感じる、願いがあるみたいだ」
「王子……。私も同じです。でも、それを口にしてしまったら叶わなくなってしまいそうだなって、考えてしまいます」
まるで以心伝心したように、願いを口にするのを止めたエリサとクオン。
”争いのない世界”、長く続いた平和な世に生きて、それを願うことはあまりに悲観的であると、二人は悲しい程に気付いてしまったのだった。
そんな二人の様子を見ていたケインズはせっかくじゃからと切り出し。
これまで研究して知り得た、世界の歴史を静かに語り始めた。
「遥か昔、古代文明が栄えていた頃は大気が汚染され、星を眺めることが叶わなかったそうじゃ。
その原因を作ったのは全て、愚かな人類そのものじゃ。
度重なる戦争。大量生産大量消費による環境汚染。
増えすぎた人類は自然に対して慈悲深くあることを忘れ、便利な道具を数多く生成し、世界を光の渦に導いていった。
光に溢れた街は星を見えなくし、人は星が隠れて真っ暗になってしまった空を見ることを止めてしまった。
やがて、宇宙へと進出した人類は戦争を繰り返すことを止め、地球環境を元通りに戻すために、外宇宙へと旅立って行った。
そして、地球を汚染する科学技術はリセットされ、地球環境保全と再生のため、数千年の時が流れた。そうして、自然に優しい原始の姿へと地球は巻き戻ったのだ。
これが、今我々が此処に来たる世界の歴史じゃ。
だが、人間は過ちを繰り返す。ようやく取り戻した自然をまた無意味な争いによって破壊しようとしている。実に愚かな行為じゃ。
これでは外宇宙に旅立った者達の想いも浮かばれんじゃろうな……」
まるでプラネタリウムのナレーションのように穏やかな口調で語り終えたケインズ。
ずっと空を見上げてきた男の生涯は歴史を探求し続けることだったと言っても過言ではない。
それほどにケインズは世界の真理に近づいていた。




