第七話「スターサテライト」1
――あの、王子。ケインズ様からお誘いの手紙を頂きました。
夕食後、クオンはエリサの自室を訪ね、一通の手紙を手渡した。
「天体観測……? 研究所の屋上で今晩するみたいだね」
昼間にも会ったのに何の用事だろうと思いつつ、クオンから手紙を受け取ったエリサ。直ぐに手紙を開くと、特別講義として天体観測を執り行うと達筆な字で書かれており、会場は王立研究所の屋上と明記されていた。
「星を観る会ですか。急なお話しですね。行かれますか?」
「うん、ケインズ先生が思い付きで始めることはよくあることだから。クオンも一緒に行こう。僕の付き添いってことで」
「いいんですか? 私まで参加しても」
「ケインズ先生のすることだから。快く歓迎してくれるよ。昼間に差し入れをしたサンドイッチも好評だったからね」
「そうでしたか。それでは私もご厚意に甘えて参加させていただきます。すぐに支度をしましょう」
過ごしやすい温暖な秋の季節はあっという間に通り過ぎ、暗い夜の空に月が昇る夜間は特に冷える。
エリサは舞台ステージ衣装のような王宮服の上にフード付きのダウンジャケットを羽織ると、マフラーを巻いて天体観測に臨むことにした。
「すっかり重装備ですね」
冬の始まりを実感するような服装にファッションコーデしたエリサにクオンは微笑みを浮かべ、反応した。
「夜更かしをして風邪を引きたくはないからね。クオンは着替えなくていいの?」
「仕事着で過ごすのが一番落ち着きますので。カーディガンだけ羽織って同行させていただきます」
馴染み深いエプロンドレスの上にクリーム色のカーディガンを羽織ったクオンが支度を終えたエリサを出迎える。
男性とは思えないスマートな体型をして、清純な魅力を纏ったクオン。その穏やかな表情はキラキラと輝いて、上機嫌にも見えた。
女民国家であるシカリア王国は昔から諸外国よりファッションを楽しむ文化が親しまれており、ファッショナブルに流行を取り入れる人が多く、そうした華やかな衣装を身に付けた姿も観光客に好評となっている。
王宮貴族のファッションに関しても、パーティーなどを催す際は、派手なものやスタイルを良く見せようと露出度の高い服装を好む傾向もある。
エリサやクオンはそうした傾向に強く影響を受けているわけではないが、人前に出て恥ずかしくない、王宮のファッションセンスを踏襲した服装にするよう心掛けている。
天体観測を楽しむために、双眼鏡を持ち、二人は自室を後にすると、王宮警護隊に行先を告げて研究所の屋上へと向かった。
宮殿を出ると、冷たい風が肌を襲い、夜の闇がより強く身体を覆い尽くしていく。
国有管理されている研究施設の近辺は夜間、特に人の気配がなく、不気味な程、静かさに包まれている。
沈黙が続くと、恐怖が忍び寄って来ているような不快感を覚えてしまうため、クオンは聞くのを躊躇っていた話題を恐る恐る尋ねた。
「王子はまた、アントニオ様と会われますか?」
「すぐにってわけにはいかないけど、会う予定だよ。どうして?」
「それは……。危険であることに変わりありませんから。歓楽街を歩くことも、王子自らがレジスタンス組織と関わり合いを持つことも」
「分かるよ、クオンの言いたいことは。でも、自分の置かれた境遇を受け入れることも大切なことだと思うから。母様のことも、父様のことも。当然、革命の手伝いをするつもりはないけどね」
「はい、王子が自ら手を汚す必要はありません。一度受けた穢れは一生消えることなく身体に染みついてしまうんですから」
再会の機会を繋いでくれたクオンを不安にさせるわけにはいかない。そう思い、エリサは迷いのない言葉を贈った。
アントニオの下へと導いたことへの責任をクオンは感じていたがそれは杞憂に終わった。クオンから見えるエリサの表情は子どもの頃とは違い、もう王子として恥じない、大人びた横顔に見えた。
王立研究所の屋上へと二人が到着すると、そこには既にケインズとチャックが天体望遠鏡をセッティングして、童心に戻ったように活気のある表情で星の位置を観察していた。




