第六話「開かれる記憶の扉」4
「ケインズ先生、折り入ってお話ししたいことがあります。お時間大丈夫ですか?」
食事が一段落したタイミングを見計らって、エリサはケインズを訪ねた本題へと話を移した。
「急ぎの用事が出来れば息子が飛んでくるじゃろう。それまでは問題ない。
勉学についてなら答えるのは容易じゃが。何やら、それとは違う悩みを抱えておるのかな?」
エリサの目付きが真剣なものへと変貌を遂げたのを察知したケインズはエリサの思考を読んだ。
「流石、先生です。察しが良くて助かります。話したいのは僕の両親についてです。昨晩、父と会って来ました」
「アントニオ殿とか。そんなこと、わしに明かしてよかったのか?」
迷いのないエリサの言動には警戒心が感じられなかった。それを不審に思ったケインズはその心を確かめようと尋ねた。何故なら、ケインズはエリサの母親、マリアンナ女王に学者として雇われている身。本来、国外追放されたアントニオと再会を果たしたことを安易に打ち明けていい相手ではなかった。
「これは信頼している師匠であるケインズ先生にしか話せないことです。相談に乗ってくれますか?」
裏表のない真っ直ぐな瞳がケインズに突き刺さる。
リスクを承知で打ち明けた、覚悟を持った王子の言葉。
エリサにはまだ、シカリア王国を未来を背負う程の覚悟はない。
それでも、シカリア王国に根深く続く問題と向き合おうとする心は徐々に芽吹きつつあった。
それを感じ取ったケインズは大きく息を吐き、白衣から煙草を取り出し、マッチで火を付けた。
「後ろめたいことをなさった自覚を持って、何をお尋ねかな? 王子」
「はい。ケインズ先生は知っているんじゃないですか? 僕の父様と母様の確執を。何故、国外追放されなければならなかったのか」
女王を母に持つ、エリサの重い過去。
それと直接的に繋がる、アントニオの国外追放。
エリサは長きに渡り、母が口を閉ざしてきた真相をケインズに求めた。
ケインズは事の重大さを鑑み、ニコチンを頼って精神を落ち着かせると、大きく息を吐き、白い煙を研究室に吹かした。
「そうか……。二人が何故、このような醜い関係に堕ちてしまったのか、それを知りたいと申すか」
「当然です。今のままでは僕は何を信じればいいのか分かりません。
父様は今、レジスタンス組織のリーダーをしています。
男女が共に共存する社会を本気で望んでいるんです。
そのためならば、革命も辞さないという、強い覚悟を持って」
何が正義で何が悪なのか。何が正しくて何が間違っているのか。
政治的に対立し合う運命にある母と父。
互いが衝突する危機にあると知ったエリサは何を信じればいいのか、その材料を集める以前に二人の関係について知りたいと思った。
「アントニオ殿がそのようなことを……。
王子、何事も紆余曲折があって今がある。
ゴシップネタは好みではないのだが、王子の頼みとあらば、お話ししましょう。ですが、わしとて外部の人間。全てを知っているわけではありません。
それを承知の上、疑いの目を持って最後まで聞いて下され」
ケインズは国外追放を受けたアントニオがレジスタンス組織の頭領をしていることを知り、古い記憶を呼び起こす。
ケインズはシカリア王国での日々を思い出し、それを繋ぎ合わせると、エリサのために話し始めるのだった。




