第五話「レジスタンス組織の頭領」6
「着いたよ。後は自分で歩けるよね?」
壮観な王宮を目の前にしてエリサの方に振り返るリムル。
あれから三十分近く歩き、何事もなく王宮に辿り着いた。
「うん、案内してくれてありがとう。繁華街の事情に詳しいみたいだけど、貴方はこの国にやってきて長いの?」
「最初に来たのは一年ほど前だよ。あたしを含むルミナスリバティーのメンバーの一部は街の治安を守る傭兵の役職を任されている都合上、十日間以上の滞在を容認されてる。だから、一度犯罪を犯してまた犯行を繰り返すためにやってくるどうしようもない奴も直ぐに分かるってこと」
「そういうことなの……」
「観光客が増えて国の財政は潤ってるかもしれないけど、問題は山積したまま放置されてる。馬鹿な女王のせいで、ならず者は後を絶たずやってくるんだよ」
リムルが人を刺しても罪にならない理由をエリサは知った。
街の秩序は王宮の警備隊だけでは管理できないため、歓楽街にアジトを持つルミナスリバティーに対応を一任されているのだ。
「それと、念を押しておくけど、ルミナスリバティーがテロ事件に関与してるって話は、女王や王立警護隊の人間に告げ口したりしたら、許さないから」
「僕の事、信用してないんだね」
「当然でしょ。すぐに信用する程、あたしは馬鹿にはなれない。
メンバーの中には能天気に年中酒の入った奴もいるけど、信用するに値するのは立派な成果を上げた人間だけだよ。
それに、密告されて逮捕されたら観光客であれば永久国外追放。シカリア王国の国民なら長い刑務所暮らしか絞首刑にされるんだから。あたしらを地獄に堕とす片道切符を持ってるってことは、忘れないでよ」
「分かったよ。僕も父様に会うことを女王に隠して、リスクを負って会いに行ってる。迷惑は掛けないよ」
裏社会の非情さを垣間見たエリサは言葉少なげに案内してくれたリムルと別れ、王宮へと戻った。
慣れない疲れを身体に背負い込んだまま、自室の前までやって来ると、どういうわけか、クオンが膝を抱えた姿勢のまま小さな寝息を立て、眠っていた。
「クオン、こんなところで寝てたら風邪を引いちゃうよ」
心配でずっと帰りを待っていたのだろうと察したエリサは軽く肩を叩き、優しく声を掛けた。
「王子……。無事に帰って来られたのですね」
切なげに瞳を開き、不器用な微笑みを浮かべるクオン。
エリサはクオンの安心した顔を見て、自分には心配で待ってくれている人がいるのだと胸を熱くさせた。
「まぁね、案内役がちょっと無愛想な子だったけど」
「リムルのことですか。確かにあの子は特殊です。それより、アントニオ様とお会いになられましたか?」
「うん、会ったよ。クオンが言った通りの人だった」
「それはよかったです。それならもう、お分かりでしょう。もうじき、時代は変革の時を迎えます。ゆっくりで構いません。後悔のない選択をお願いします」
レジスタンス組織のリーダーに君臨する父とシカリア王国の女王たる母。
政治的に対立する二人の間で板挟みになっているエリサ。
変革の時を迎えた際、エリサはどちらの味方に付くのか。
はたまた、どちらの味方にも付かず、どちらかが破滅へと向かうのを見届けるのか。
エリサはクオンの言葉通り、後悔のない選択を迫られていた。




