第五話「レジスタンス組織の頭領」5
父との邂逅を終えたエリサは階段を上がり、再び地上へと舞い戻った。
賑やかな酒盛りが依然として続く酒場から静かに外へ出ると、この季節特有の冷たい風が吹いていた。
「今度は王宮までちゃんと案内してくれるんだよね?」
アントニオから再度、案内を頼まれたものの、能面のような無感情さを貫くリムルに話しかけるエリサ。
マントを羽織り、黒い双翼を隠した少女は近寄りがたい気配を放っている。
エリサにとって自分よりも小柄で年下のリムルが本当に王宮まで案内してくれるのか半信半疑なところだった。
「アントニオの指令だから、不本意だけど送り届けるよ。クオンは甘いから帰りが遅いのを心配してるだろうし」
「クオンとも知り合いなんだね」
「うん、この国に来る前からアントニオに聞かされてきたから。本当にアントニオの言う通り、疑うことを知らない真っ直ぐな子だよ」
「年が近いのに、そんな言い方しなくても」
生意気な態度にも取れる、素っ気ない対応を続けるリムルの姿に呆れ顔になってしまうエリサ。
悪い人ではないことは理解できたが、簡単に心を開いてくれそうにない。
そう思い、エリサは口を開いて、強い口調で次の言葉で切り返した。
「貴方は父様の命令だったら何でも従うの?」
「命の恩人だもの。それの何がおかしい?」
「おかしいよ。人間誰だって間違えることはある。間違いを正してあげるのも周りの人間の役目だよ」
「何が正しいかなんて後にならないと分からない。それに、この世界は何が正しいか正しくないかなんて関係ない理屈で成り立ってる。誰だって現状を憂いで藻掻きたくなるものだと思うよ。この街で暮らしている人達は特にね」
エリサの言葉に躊躇うことなく言葉を返すリムル。
ルミナスリバティーに所属するリムルにはエリサの言葉は響かない。
この国に蔓延する歪みを正さなければ、現状は変わらないのだとエリサは痛感した。
年齢に見合わない態度に嫌気が差すが、先導して歩くリムルに後ろから大人しく付いて行くエリサ。
すると、路地裏の奥から柄の悪い男性二人組と女性が何やら揉め事をしている声が響いた。
「大人しくしてりゃ、痛くはしねぇよ。何ならもっと仲間を引き連れて来てやってもいいんだぜ」
「触らないで! やめてください!」
「こっちは客なんだよ。金を払うって言ってんのに、何で俺達とは相手してくれねぇんだ」
大柄な二人組の男に絡まれ、困っている様子の女性の姿が視界に入る。
女性は肩を晒した黒いドレスのような衣装を着ていて露出度が高く、スカートも短い。いかにも男を誘っているような身なりをしていた。
一方、片方の男は胸板を晒し、虎柄の上着を羽織っていて、もう一人の男性はピアスを付け、アクセサリーをジャラジャラと首に掛けている。
品性の欠片もなく、強引に身体を要求していることが伺える状況で、かなり飲んでいるのか顔を紅潮させていた。
「尊敬できる大人も中にはいるけど、ああいうのを見てると虫唾が走るね」
リムルが足を止め、腹を立てて三人の様子を眺める。
エリサはリムルから漂う殺気を感じて、さらに恐怖を感じた。
「どうするの?」
「王子様は見ないフリをして王宮に帰るかい?」
「そんなことはしないよ……。この街には警備員が巡回してるんだから、頼めば解決してくれるよ」
「だから、そんな他力本願な構え方じゃ、この街の治安は悪くなる一方だよ。軽くわからせて来るから、王子様は黙って見ているといいよ」
「リムルちゃん!」
「この程度の揉め事を見掛けるのは日常茶飯事。警備員も面倒臭がって無視してるよ」
エリサの制止の声も聞かず、三人の前に飛び出していくリムル。
後は王宮に戻るだけのはずが、一触即発の事態に巻き込まれたエリサは話がややこしくならないよう、ひとまずリムルの行動を見守ることにした、
「お楽しみのところ失礼するよ」
音もなく接近したリムルに鋭い視線を男達は向ける。
それに対してリムルは容赦なかった。
次の瞬間には目にも止まらぬ速さでナイフを取り出し、疾風の如き早業で男達の脇腹を斬り払って見せた。
血飛沫が宙を舞い、人気のない路地裏に断末魔が響き渡ると、男達は地に這いつくばり、女性は怯えた表情を浮かべ、慌ててこの場を去っていった。
「弱い奴がさらに弱い奴を虐める、どうしようもない世の中だね。
切り刻まれたくなかったら、もう二度とこんな事はしないことだよ」
苦悶に満ちた表情を晒す男性二人を置いて、路地裏を出てエリサと何食わぬ顔で合流するリムル。エリサはリムルの高い身体能力を見せ付けられる形となったが、この場で私刑を急ぐ必要があったとは思えなかった。
「やり過ぎだと思うけど……」
「そう思うのは、レイプ被害に遭った女の痛み、苦しみを知らないからだよ」
吐き捨てるそう言葉を言い放つと、リムルは王宮へと向かって歩いて行く。
エリサは傷の手当てをしてあげたいと思ったが、リムルに置いて行かれるわけには行かず、仕方なくその場を立ち去った。




