第一話「再生する世界の片隅で」2
朝食を終えたエリサはクオンを引き連れて自室へと戻った。
喧騒が流れる城下町とはかけ離れた、時の流れがゆったりとした王宮。
そこに身を置くエリサは堕落した生活を送ることはなく、次の行動へと意識を向けていた。
「クオン、ケインズ先生が昨日から帰国しているんだよね?」
「はい、今回は随分長旅だった様子で、昨日はお疲れのようですぐに就寝されましたが、お元気そうでしたよ」
「それなら、挨拶に出向くとするよ。研究室の場所は以前と変わっていないよね?」
「勿論です。簡単に持ち出せる資料の量ではありませんから」
「そうだよね、研究室に訪問してお昼には帰るからよろしく頼むね」
「分かりました。昼食の準備をしてお待ちしています。王子、お気をつけてお出掛けください」
ケインズ先生こと、ケインズ・グレイは勤勉なエリサの師匠であり、シカリア王国の核となる周産期医学から生殖医学、その他、様々な研究を担っている生物学者である。
また、歴史研究にも詳しく、既に老齢となっているにも関わらず、度々国外への出張を繰り返しており、国に留まっていることは少なく、冒険家のような一面がある。
男性であるケインズにそこまで自由が許されている背景には数々の功績を残し、替えの利かない類稀な知識量を蓄えているからに他ならない。
数年ぶりの再会となるエリサは成長した姿を見てもらいたいと、師に早く会いたい一心で自室を後にした。
人通りの少ない王族専用の裏口から王宮を出たエリサは天を仰ぎ、空が曇り始めているのを感じた。
乾燥した大地を潤う恵みの雨が近い。そう感じながらフードを被り、顔を隠して王宮の北側に位置するオアシスを抜けた先にある研究施設を目指して歩いていく。
大きな湖と豊かな自然が広がる貴重なオアシス地帯は国有管理されているため、観光客は迂闊に出入りすることの出来ない場所。それでも、オアシス内にある公園の一部は国民に開放されているため、女性達の憩いの場になっていて、貴重な水の供給源となっている。
余計な事に時間を取られたくないと思い、そのまま足早に遊歩道を通り過ぎようとするエリサだったが、備え付けられたベンチで談笑を楽しむ女民達に見つかり、話しかけられた。
「「エリサ様、ご機嫌麗しゅうございます」」
清廉な女性の声が重なり、揃ってお辞儀をしたかと思うと、一気に囲まれてしまい、渋々足を止めるエリサ。
「皆さん、御機嫌よう。随分と寒さが厳しくなってきましたね」
「はい、ですが恵みの季節でもあります。菊芋が大きく実って、食卓が賑やかになりました」
「そうですか、実りの時を迎えられたのは、皆さんの献身的な努力のおかげです」
朝晩は特に寒さが厳しくなり、冬が近づきつつある十一月。
一方でこの季節は収穫祭の時期でもあり、皆の表情は安堵に満ちて明るかった。
しかし、一人の女性が歩み寄り、一つの懸念を口にした。




