第五話「レジスタンス組織の頭領」2
「父様はここで一体何をしているの?」
「簡単に言えば、困っている人を助けて回っているだけさ……。
王宮の人間からすれば、そうは見えないだろうがな。
それも段階を踏んで説明するとしよう。その前にこれを返さないとな」
エリサはボスと呼ばれ、謎めいた不気味な組織に所属している父親のことを詳しく聞こうとするが、アントニオはソファーに置かれた鞄を手に取り、エリサに軽く投げて渡した。エリサは反射的にカバンを掴み、それが自分が無くしたものであったことに驚かされた。
「どうして父様がこれを?」
「この辺りの繁華街は危険が多いからな。心配になって仲間に案内を頼んでおいたのだが……。ひねくれているというか性格に難があるようでな。信頼して送ったのだが、逆に迷惑を掛けてしまったようだ」
要領を得ない曖昧な説明をエリサに発するアントニオ。彼の視線はエリサのすぐ後ろに忍び寄っていたリムルに向けられていた。
「この子が……? もしかして、僕の鞄を盗んで逃げた、あの黒い羽を生やした子どもなの?」
「あぁ、そうだ。名をリムル・サム・クリエッタという。メンバーの中では最年少だが、旅の途中で鍛えたおかげで腕の立つ用心棒に成長している」
振り返り、ボディーガードのように無言で佇む自分よりも小柄なリムルの姿をまじまじと見つめるエリサ。
すばしっこい盗人はエリサよりも年下の少女、リムル・サム・クリエッタだった。
黒いコートを着ている姿では背中に生やした翼を確認することは叶わないが、エリサは記憶を呼び起こし、暗がりの中、追い掛けていた人物がリムルだったのだと知った。
「子ども扱いしないで。能天気な顔して、すぐ騙されそうだったから。ちょっと教育してあげただけだよ」
悪びれる様子もなく素っ気なく鞄を盗んだ理由を話すリムル。
その声色は少女そのもので、口調の節々には刺々しい敵意が滲み出ていた。
「リムル。エリサは俺の子どもで大切な客人だ。今後は無礼のないようにな」
アントニオの強い言葉に渋々、そっぽを向いて小さく頷くリムル。
忠誠心が高いのか、しっかりと主従関係が成立しているのだろう。主人に対しては大人しい忠犬のようなリムルの姿に不思議な感覚を覚えたエリサ。
アントニオはリムルのことを我が子のように見ているのか、リムル以外の組織のメンバーとは明らかに異なる、接し方の違いをしていた。
「リムルも立派な組織のメンバーの一人だが、こうして俺の近くに置いているのを不思議に思うのは当然だろうな。こいつは旅の途中で引き取った子でな。組織の中で俺の正体を知っているのはお前とクオンを除外すればリムルと副団長だけだ」
団員は数十人、協力者を加えると数百人に及ぶ組織の中で仮面の内側にある本当の姿を知る者は僅か二人。アントニオは自身の求心力を家柄や身分に頼るのではなく、自らの起こした行動と実績によって手に入れてきた、突飛なリーダーなのだ。
「そうなんだ……。一瞬しか見てないけど、空を飛べる人がいるなんてビックリした。そんなの御伽噺でしか聞いたことないよ」
王宮にある図書館で数多くの書物を読破してきたエリサでも、有翼人の存在は伝承などで描かれた伝説上の生き物としてしか認識していなかった。
翼を生やした種族がこの世界に実在すること自体、衝撃的なことだった。
「リムルのような翼人は東国の山々でひっそりと暮らしている種族だ。
標高3000メートルを超える危険な山々にわざわざ訪れる人は少ない。世界的に知られていないのも当然ということだ」
アントニオはリムルが同席している手前、口にしなかったが。鴉のように不気味な黒い翼を持つ者は珍しく、リムルは黒い翼を宿してしまったせいで村の中で差別的な扱いを受けていた。他にも黒い翼を持っているものがいた中、リムルがアントニオと出会い仲間に加えられ、保護を受けているのは幸運な出来事だったのである。
「さて、せっかくここまで来てくれたのだから、俺が立ち上げたこの組織について話さなければならんな」
「うん……。危険を冒してまでこの国に滞在してるってことは、目的があるんだよね?」
「そうだ。このルミナスリバティーには崇高な目的がある。
皆が願ってやまない、平等な国に作り替えるためにな」
そう話を切り出し、自らが立ち上げたレジスタンス組織、ルミナスリバティーについて、アントニオは説明を始めた。




