第四話「夜の旅人」5
階段を降りた先には複数のテーブルと椅子が並んだ、地上階のバーとはまた違った広い部屋の風景が広がっていた。
地下であることから天井は低く、バーカウンターのようなものもなく、煌びやかで豪華な造りの地上を見た後では家具も質素で殺風景に見える。
それにここにいる人達とは有象無象が集まった様な個性的な身なりをした人間が多く集まっている印象をエリサは受けた。
「王宮から参りました。ですが、こちらに敵意はありません。
話し合いに来ました、ボスはいらっしゃいますか?」
クオンから父親の名前は伏せて、ボスに会いに来たと伝えるように教わっていたエリサは冷静にはっきりとした口調で声を掛けた。
フードを外して姿を現したエリサの言葉に賑やかだった談笑は一斉に止み、大人達の鋭い視線がエリサに向けて真っすぐ注がれる。空気が一気に張り詰め、血が凍るような恐怖を覚えるエリサ。
それでも、王子として毅然とした態度を崩さずにいると、胸が大きく色気を醸し出す、派手な格好をしたスタイルの良い一人の女性がエリサに近づいてきた。
「王宮の人間が来たら通すようにって言ってたけど、まさか本物の王子様?」
「やっぱり分かりますよね。僕はシカリア王国第一王子、エリサ・べレスティーです」
女性の質問に対して、誤魔化すような言葉は使わず、正直に素性を明かすエリサ。その態度に気を良くしたのか、酒臭い男性も続けて近づいてきた。
「ハッハッハッ!! 俺達のボスはとんでもねぇな。まさか王宮の人間が来ると言って、王子様を招待するたぁ、こりゃ一本取られた!」
「あんた声が五月蠅いよ。王子様がびっくりするでしょうが。本当にあたしもびっくりしたよ。まさか王子様が一人でのこのこやって来るなんてね」
豪快な笑い声を上げる大柄な男性と強い口調で言葉を吐き出す女性。
反応は至極当然のものだったが、殺気立つような悪い印象は感じない。
それが分かり、その場凌ぎの演技で乗り切ったエリサは安心して、ここに集う人達の納得が得られるように態度を崩さず言葉を続けた。
「手紙には一人で来るようにと書いてありましたので。大事な話があるなら、王子として断るわけにはまいりません」
「分かったよ。エリサ王子の英断に免じて会わせてあげるよ。
あたしはベルレーヌ・キャンベル、あたしについておいで」
「俺の名はポール・ブレイカーだ。ここには愉快な仲間が集っているからよ。ゆっくりしていくといいぜ。だが、俺の嫁に惚れるんじゃないぜ」
「馬鹿丸出しなことを言ってるんじゃないよ。酔っぱらってないで邪魔だからあんたは黙って座ってな」
強い口調でベルレーヌが言い放つと、顔を赤くさせ、酒に酔ったポールは不安定な足取りで大人しく引き下がった。
ここが悪の秘密結社のアジトだと言われても納得してしまいそうな、異様な光景を目の当たりにしたエリサは気の強そうな印象を受けた、ベルレーヌの後を付いていき、暗い廊下を歩いてドアの前に辿り着いた。




