第四話「夜の旅人」4
このまま何もせずに王宮へ帰るわけには行かない。従者のクオンが女王である母に内密で父との面会を繋いでくれた。危険を承知で行動してくれたその意思に報いるためにも、疲れた身体を奮い立たせ、もう一度立ち上がったエリサは目的地を探す夜の旅を再開した。
無我夢中で追い掛けていたせいで現在位置すら分からないまま、再度歩いて行くエリサ。
すると、虚ろ眼になった微かな視界の中で、四つ葉のクローバーの看板をついに捉えた。
諦めかけていた感情が浮上し、ようやく救われた気持ちに包まれた。
「やっと見つけた……。ここで間違いないよね」
喉が渇き、上手に声が出ない。それでも、エリサはこれ以上、探し歩かなくて済む解放感に救われた。
慎重に店の中に入って行き、バーカウンターへと向かって歩いて行く。
内装は他の店とそう大差はなく、観光客で賑わっている飲み屋の一軒程度にしかエリサには思えない。だが、ここは国外追放された父親が身を寄せている場所。
エリサはより一層、父親が此処で何をしているのか気になり始めた。
(クオンは詳しく教えてくれなかったけど、このバーの地下は秘密のアジトになっていて……。そこには父様だけでなく、沢山のメンバーが集っている集会所になってるって……。よく分からないけど)
一人で歓楽街に乗り込んだ不安に苛まれながら、何とか平常心を保ち、カウンターの前に立つエリサ。そして、テキパキとした手際でカクテルを作る、タキシードに身を包んだ女性と視線が交わった。
「あら、随分初々しい人がこんなお店に来て、どうしたのかしら?
お酒を飲めない年頃の貴族様が立ち寄る店ではなくってよ」
エリサの顔を見て、軽くあしらい手を止める女性バーテンダー。
接客業らしく明るい笑顔を浮かべているが、何か試しているような鋭い視線を送る女性へエリサは怯むことなく近づき、迷わず合言葉を囁いた。
”ルミナスカムバック”
その言葉を聞いた女性は微笑を浮かべ、警戒心を解くと、そっとカウンターの奥へとエリサを導いた。
「本当にこんなところまで来るなんて、勇気があるわね。下の階に降りて。後はメンバーが案内してくれるわ」
「親切にありがとうございます。突然押しかけてきたのに信じてくれるんですね」
「冗談でも貴方のような王宮の人間がこの繁華街まで来ることはないわ。特別な事情があることは直ぐに分かるわよ」
自分がエリサ・ベレスティーと察して言ってくれているのかはエリサには判断付かなかったが、合言葉が合っていたことに一先ず安堵して、カウンターの奥にひっそりと続く、狭い隠し階段を降りて行った。
手すりを掴みながら、一段ずつ階段をゆっくり降りて行くと、シェルターの内部にいると錯覚してしまいかねないほど、地上の喧騒が聞こえなくなった。
代わりに聞こえて来る、怪しい男達の話し声。
女民国家のシカリア王国にあっては、男性と出会うだけでも本来、珍しいこと。だが、エリサは少なくとも、男性を含む観光客の出入りが以前よりも増加傾向にあることを知っている。
王宮から少し離れたこうした歓楽街には比較的、観光客が集う場が実在している事実は知識として頭に入っていた。
そのため、必要以上に驚くことはなかったが、それでも普段以上に緊張が走り、身を守る術もなく、より先に進むのが慎重になった。




