第二十一話「トライクレッシェンド」7
ルミナスリバティーの研究所内への侵入は地下にいたケインズには筒抜けだった。
研究所内に何台も仕掛けられた監視カメラ。
そこに黒いローブを羽織った怪しい人影が映り込んでいたのだ。
侵入者の存在を確認したケインズはすぐさま助手のチャックと対策を練っていた。
「この研究所に侵入して来るとはいい度胸をしている。後悔させてやらねばな……」
「どうするんですか? 王宮に知らせるような通信機器の類はここにはありません。この地下から伝書鳩を放つのも難しいです」
腕を組み、悪人面で監視カメラの映像を確認するケインズ。
一方、チャックはルミナスリバティーの襲撃を前に及び腰だった。
「チャックよ、もっと簡単な方法がある。
出入口を封鎖して、警報装置を作動させるんじゃよ。
地下通路を活用すれば、王宮にテロリスト共の侵入を許したことを知らせることができるじゃろう」
「まだ館内に残っている職員もいますが。
確かに、それが最も手っ取り早い方法ですね。
僕だったら、いかに犠牲者を出さないかを一番に考えてしまいますが……」
「それは甘い考えじゃ。
拳銃を所持したテロリスト共の侵入を許した時点で被害は免れん。
大事なことは犠牲を払ってでも奴らの陰謀を阻止することじゃよ。
それが、結果的に次のテロを未然に防ぐことにも繋がる」
「今、彼らの作戦を邪魔して犯人達を捕らえる。
それが今後の作戦を頓挫させることにも繋がるのですね」
「その通りじゃ。理想を掲げて行動を起こすのは間違ってはおらんが、テロなどという非人道的な手段で変革を起こそうとすれば、やがて大きな紛争を招くことになる。許されてはならん愚行なのじゃよ」
冷静沈着に状況を分析するケインズ。
犠牲を伴う作戦には消極的なチャックだったが、ケインズ以上の名案が浮かぶわけでもなく、ケインズの作戦に反対はしなかった。
人類が犯してきた忌まわしき戦争の歴史を見てきたケインズは、テロイズムの危険性を誰よりも知っている人物。
繰り返されてきた悲劇の数々を知るケインズが、愚行と断言するのは当然のことだった。
王宮にこの事態を知らせるため、チャックは数人の研究員を連れて地下通路へと向かった。
残ったケインズは警報装置を作動させ、ルミナスリバティーのメンバーを袋の鼠にしようと、全ての出入り口の施錠を遠隔装置で行う対策に打って出た。
そんなケインズの万全な対応策を知らないポールとベルレーヌは地下へと繋がる階段を探し続けていた。
「どこを探しても地下への道が存在しねぇ……。
そんなはずはねぇだろ」
必ずあると高を括っていたポールは汗を拭いながら焦っていた。
ベルレーヌもそれは同様だが、見つからないからこそ鋭い勘で危険性を感じ取っていた。
「この研究所は他の施設とは明らかに違う……。
私達の常識が通用しない、高度の技術が使われているわ。
ポール、これ以上の探索は危険よ」
冷静さを失い始めたポールを落ち着かせようと言葉を掛けるベルレーヌ。
時折、銃殺された職員の悲鳴が響く研究所内では正気を保ち続けるのがやっと。
ベルレーヌは一秒でも早く、この研究所から逃げ出したい気分だった。
そして、唐突に鳴り響くけたたましいまでの警告音。
耳を塞ぎたくなる中、”緊急事態発生、安全な場所に避難してください”とアナウンスが掛かる。
赤く光るランプの表示灯が逼迫した状況が迫っていることを伝えてくれる。
ルミナスリバティーのメンバー全員に動揺が走った。
やがて、時限爆弾を設置したメンバー達と合流を果たすが、出入り口が封鎖されていることにようやく気が付いた。
「妙に警備が薄いと思ったが、俺達を閉じ込める算段だったのか」
「でしょうね……。しかもこれは随分前から巧妙に準備をされていた。
いずれここを標的することは計算に入れていたようね」
「信じられないことだが、古代文明時代の研究施設を使いこなせる技術者が管理しているということか……」
重要度の高い研究所にも関わらず万全の警備体制を敷いていないのには理由があった。
人員の数で警備の厳重さを図る一般的な彼らの常識とは異なる、高度な技術を活用した警備体制。
それによって研究所内に捕らえられたポール達は一気に窮地を迎えた。
「もう、爆弾で壁を破壊してでも脱出するしかないわよ」
「そうしたいのは山々だが、それは最後の手段だ。
職員達が何人もいたんだから、非常用の出口くらいは準備していたはずだろう。まずはそれを探そう」
爆発物を使い、脱出を図れば、一気に増援がやって来る可能性がある。
地下通路の存在を知らないポールはまだ時間が残されているだろうと考えたが、それは甘い考えで実際には悪手であった。
テロリストの侵入の際などの緊急事態には非常扉も全てロックされる上に、建物は強固に作られているため、近代兵器の威力では簡単に壁を破壊することは出来ない。
破壊が可能だったとしても、それを引き換えに爆音によって周囲に爆弾の使用を知らせるようなものだった。
「……焦っておる焦っておる。さぁ、もうすぐお迎えがやってくるぞい。
無能なテロリスト共よ、どんな悪足搔きを見せてくれるか見物じゃな」
監視カメラを覗きながら、狂気に満ちた表情でポール達を嘲笑うケインズ。
普段の温厚な性格とマッドサイエンティストな危険な一面の両方を兼ね備えたケインズはまさに容赦のない狩人と化していた。




