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ふゆのきらきら

「すみません、あなたのメガネをかしてくれませんか?」

「へ?たぬき?」

 都会の片隅で、仕事終わりの私の前に現れたのは、確かに一匹のたぬきだった。目を瞬かせ、擦っていると、たぬきはいなくなっていた。まわりを見渡すも動物の気配はない。

「あ、これ、疲れているんだわ」

 仕事の帰り途中でたぬきの幻覚をみるなんて、限界が近い気がした。今日こそ湯船につかって早く寝よう。家までもうすぐというところで足がもつれてしまった。倒れ込む寸前、誰かが支えてくれていた。

「すみません。あの、大丈夫ですか?」

 私はなんとか立とうと力を入れようとしたが、うまくいかず、また男も私が動いたことでバランスをくずしたのか、一緒に転んでしまった。

「ま、待って、動かないで。あいたっ」

 私の下敷きとなった男から自分の体をどかそうと頭では考えるも動けそうもなかった。

「痛い……あいたたた。この格好なかなか慣れなくて。膝こぞうがいたい」

「ひざこぞう……」

 まるで子供のような口調に気が緩み、続けて話しかけた。

「あの、私になにかようですか?」

「すみません。あなたのメガネをかしていただけないかと思って」

「え、メガネ?」

 この男はさっきのたぬきか?助けてくれたお礼にメガネを貸すことにした。

「壊さないでくださいね」

 私のメガネは度数が高い。メガネを外したとたん、視界も目の前の男もぼやけて見えなくなった。

「うわー、すごい!すごい!すごい!」

 ぼやける視界で男は大きな声ですごいと連呼をしていた。何がすごいのだろうか。

「あの、なにがみえるんですか?」

「おほしさまです」

 ぼやけた視界で空を見上げたが真っ黒な空しか見えなかった。たとえメガネをかけていたとしてもこんな都会で星なんて見えるはずがない。

「僕の目だけじゃこんなにたくさんの星なんてみられない」

 私の横ではしゃぐ男の人はまるで子供のようで、おかしくて笑ってしまった。

「ふふっ。へんな人ですね。」

「あ、笑いましたね。でもメガネありがとうございました。また借りに来てもいいですか?」

「いいですけど、どうやって……」

「ありがとうございます、ではまた」

 男はたぬきの姿に戻って消えていった。

「やっぱり疲れているのかな。でもいいことしたかもしれないな」

 私は部屋の鍵を静かに開けた。

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