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第七話 「危機は突然なり」

 弥生十六歳。

 今年も弥生は試合に出場することにはなっていたが会議とはかぶらなかったおかげで弥生は京都に赴くことができた。

 桜と合流した弥生だけれど今年二人は京都を回ることはない。

 

 京都駅からいくつか電車を乗り継いだ先にある国内でも有数の巨大なデパート、その中のカフェの屋外テーブルに座っていた。

 晴れた天気であるが二人の上に広がるパラソルが影を落とし、熱さは感じない。


「いやあすまないね。去年あんなことを起こしてしまったから……」


「大丈夫。俺ももっと君といろんなところに行きたいから」


 桜の謝罪を弥生は攻めることはせず、むしろ彼女と京都以外で一緒にいられることに喜びを感じている。京都を回るのも確かに楽しいが、心のどこかで少し飽きたような感覚を持っていた。だからこそ京都前に彼女から送られてきた「京都以外の所にもいきたい」という提案を素直に受け入れた。前日から心が躍ったのは言うまでもない。

 店員によって弥生が頼んだレモネードが運ばれてくる。

 桜と一緒に飲み始めたいと思った弥生は水滴が浮かんでくるレモネードを眺めながら昨年のことを振り返る。

 

 ***


 試合が終わり、記者会見や表彰式が始まるまでまだ三十分ほど余裕があった。

 だから弥生は向かってくる身内や師匠を半分無視して会場内を走り回り、桜を探す。彼女もまた自分を見てすぐに帰るような人間ではないはずだと弥生は確信して。

 

 十五分探し回っても彼女は見つからなかった。会場は広く、それに加え帰ろうとする観客も増えてきたせいで移動は困難になっていく。

 諦めようとする弥生が角を曲がったそのとき、

 

「うお!」


「いた……」


 弥生がぶつかりそうになったその少女は金髪のショートヘア。

 すぐに彼女がだれかわかった。彼女も自分がだれかわかった。


「桜さん! いた!」


「弥生! 会えた!」


 喜びを分かち合おうとした弥生だがその時間はない。彼女と話せるのは5分そこら。

 弥生がききたいことはひとつ。すぐさま口を開く。


「なんでここに……」


 弥生の質問を桜は予期していたらしい。考える素振りもなくすぐに返答。


「京都から抜け出してきたからに決まってるだろ? 君からもらったメールで調べたら『武御雷祭』ってのがあって、行けそうだったから来ちゃった!」


 彼女の元気さと思い切りの良さは弥生の想像の上を行く。弥生が彼女に会いたがったっていたように、彼女もまた弥生に会いたかったと思ってくれて弥生はこの上なくうれしかった。

 それを伝えようとしたそのとき、上空のスピーカーから弥生を呼び出すアナウンスが発せられた。

 どうやら5分も時間がないらしい。


「行くべきじゃないか? 君のやるべきことはある」


 桜も弥生の身を心配。初めての一人旅をして、やっと彼に会えたというのにすぐに分かれてしまうのは彼女にとってつらいはずなのにその悔しさだとかを全く表には出さない。ずっと笑顔。


 いや、悔しいはずだ。残念で、悲しくてならないはず。


 弥生は10回を超える彼女との会合で察することができた。だから弥生もそれに応えたいと思った。

 一言。彼女に勇気を与えるものを。

 

「ありがとう。君のおかげで勝てたんだ。あのとき、俺を照らしてくれてありがとう」

 

 何も考えない。ただ、心に浮かんだ感情を精いっぱいの言葉で表した。


「うん」


 ただ一言、小さく少女は微笑んだ。元気な桜とは違う、まるでなにかを噛みしめているような。


 この年はそれだけの会話だった。


 ***


「まあ、あのあと家にこっぴどく叱られてね。ずっと監視されることになったのさ」


 桜の目の前に出されたスムージーをストローで啜りながら一年前の出来事を振り返る。あのあと東京に彼女を回収しに来た陰陽師によって桜は京都へと引き戻され、京都から出ることを禁じられた。しばらくは京都の街中を歩くときも監視の目がつけられるというおまけつき。

 それが一年も続いているのだから気が滅入りそうにもなる。けれどこの程度()()()()()()()()()()()()()()およそ耐えられるものであった。


 京都ではなくこのショッピングモールに来たのもそれが理由。あの町では監視の目がありつらかったため別の所に来たのだ。


 彼女の味わう姿を弥生は見つめる。

 一年ごとに顔を合わせる二人ではあるが、十六歳になった彼女は一年前よりもより大人びているように見えた。シャープになった顎に、明るさは残しつつも落ち着きを含んだ表情。メイクやヘアスタイルによる印象の変化もあるだろう。


 あたらしい彼女の姿に弥生は平静を装いつつも内心ドギマギしていた。


 たびたび見せる笑顔も可憐さを秘め、かわいいという言葉だけでは足りない。

 彼女と目を合わせるたびに心臓がドクンと高鳴る。

 落ち着くために目をそらそうとしたそのとき……


 突如屋内から銃声が鳴り響く。


 一発二発ではない、小銃による乱射だ。それも複数の。

 

 そして次の瞬間野太い声がモール中に響き渡る。


「このモールは俺たち『淡占会(たんせんかい)』が乗っ取ったあ! ここにいる人間は全員集まれ!」


 危機を察知した弥生は一瞬で判断。心臓も落ち着き、冷静さを取り戻す。すかさず今いる状況を確認。

 ふたりがいるのはモールの四階のカフェの屋外テーブル。柵越しに下を見るも飛び降りることはできない高さ。屋外には二人のほかに客はいない。桜の手を引いて屋内からは見えない地点へ身をひそめる弥生。どうやら指示には従わないらしい。

 桜も動揺することはなく弥生を追う。二人とも隠れながら屋内を観察すればぞくぞくとモール内の人間が歩いていた。時々に見える武装した兵士のような人間はおそらくこのテロを引き起こした仲間だろう。


「う~ん。電波がつながらない。彼らの仕業だね」


 一方桜のほうも携帯ですぐさま通報を試みるもできない。そうとう計画を練った反抗のようだ。


「『淡占会』といったか。聞いたことがある……」


 脳内の記憶を探し回る弥生に桜が助言。


「たしか宗教団体の一つだったね。巷で噂の()()()()()()の下部組織だったかな?」

 

「思い出した。家の人が言ってたな……たしか数ヶ月前に『軍』が秘密裏に処理したと」

 

 弥生の言葉に桜が疑問を持ったのか、彼に質問する。己の記憶と差異があったから。


「そうだったか? 内部分裂で抗争が起きて自然消滅と発表されていたが……」


「表向きには、な。『軍』は一般人に知られていない秘密裏の組織だ。介入すると情報も操作される。完璧に叩き潰したと聞いたのにまだ生きていたとは……」


「そんな組織なら目的はおそらく……」


 桜のつぶやきと同時にモール内から先ほどの野太い声。


『我々の目的は、我々をつぶした『紅丸紋章』への復讐である! 私の愛しい子羊の犠牲はここにいる愚か者どもの命を持って償ってもらうのだ!」


 おそらく首謀者らしき人物の声明に人質は動揺しているのだろう。ざわざわ声が弥生たちの耳に入ってくるのだから。

 

 『軍』が介入した、ということは奴らはそれほどまでに危険な組織だ。その残党ならばあの武装も頷ける。つまり一少年だけではこの状況を打開することはできない。

 これからどうするか迷っているも事態は進む。

 屋内から再び叫びテロリストの声がモール内に響き渡る。

 

「これより! モール内の捜索を行う! 今出てくれば『儀』ののちに送ってやろう!」


 どっちにしろ殺される。

 確認することもなくここに居座ることを弥生と桜の二人は決意。


 だが動かなければほかの人間が殺される。『軍』といえども準備はあるだろうし姿を見せない今もしかしたらこの時代を察知されているかどうかすら怪しい。


「せめて刀さえあれば……」


 弥生は悔しさをにじませながら苦々しく呟く。刀があれば一瞬とまではいわないが彼でも制圧できる。伊達に武御雷の名を背負っていない。


 しかし時は来てしまった。


「オイ! そこにいるのは誰だ!」


 屋内からの怒号で弥生と桜は驚きつつもさらに奥へと身を隠す。壁を背にして、されど見つかればその瞬間に反撃できるよう。

 桜も弥生から離れ、邪魔にならないようにする。


 神経を研ぎ澄ます弥生だが彼らの発見を待たずして中にいたテロリストが怒号を再び上げた。


「こんなところに隠れていやがった!」


 テロリストの言葉に続いて幼い少女の悲鳴が二人の耳に届いた。

 どうやら店内にもう一人隠れていたらしい。


「出てこなかったということは『儀』はいらないらしい。さあ楽園へと往くがいい!」


 何が起きているかは弥生はわからないが少なくとも先ほどテロの首謀者といい店内の男といい絶対にいいことは起きていない。それどころか銃声が聞こえたということは敵は銃を持っている。

 つまり壁の後ろではいま……


「くそ……」


 弥生は女の子を助けようと出ようとしたが躊躇ってしまった。武器である刀がないからだ。

 それにテロリストが何人いるかわからない。戦いに慣れているからこそそういった戦術的不安が彼の足を止めたのだ。


 だが、


 弥生の視界の端に金の髪が左から右へと移動するのを捕らえた。


 それは


「桜さん!」


 彼女は弥生から静止する声を振り切って屋内へと入り、テロリストの前へと飛びだす。両手を広げ、少女を守るように。

 テロリストはすでに引き金に指をかけていた。弥生は彼女を助けることはできない。

 

 桜のほうも弥生ほど戦術的視点を持ち合わせておらず、まさか銃口を向けられるとは思っていなかったらしい。

 彼女の顔は驚愕と恐怖が浮かんでいた。


 痛みに耐えるため反射で目を閉じる桜。彼女を助けようと手を伸ばした弥生も間に合わないと悟る…………


 そのとき弥生の視界が真っ白に光り、何も見えなくなった。

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