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第五話 「一撃は誰がためなり」

 弥生十五歳。

 今年も京都で会議が開催された。寺田が出席者である父の代理として京都に赴くので、弥生もそれに同伴し、桜と会うことはできた。


 けれどこの年は違った。

 

 午前九時。新幹線に乗って京都駅に着く時間、弥生は駅にはいなかったのだ。

 未だ弥生は東京にいる。正確には東京の中心にある巨大な闘技場。弥生の家である武御雷家が管理し、たくさんの試合や決闘が行われている場所で、弥生は腰に木刀を差しながら廊下を歩いていた。


 そう。

 年齢の都合上昨年まで出場できなかったとある剣術の大会に弥生は出ることになったのだ。

 それも武御雷家が主催なのだから弥生は断れるはずもなく、活を入れてくれた弥生の家族とは裏腹に桜と唯一合えるタイミングを失った弥生に元気はない。立場上わざと負けることもできず、彼は試合を勝ち進んでいった。

 勝てば勝つほど桜に会えないことが残念でならず、もどかしい気持ちが増大していく弥生。


 ついには決勝までたどり着く。


(午後に京都に行けるか? いや、表彰式なり記者会見なりで忙しいな。本当に腹立たしい)

 

 弥生が参加した大会はこの国では非常に有名。加えて武御雷家の御曹司が参戦するともなればあらゆるメディアが来るのは当然。

 おそらく試合が終わったとしても夜まで誰か知らに拘束されるだろう。


 ただ桜に会いたかった。


 試合には絶対に持ち込んでいけないような私情。それを抱きながら弥生はついに決勝の場所へと足を踏み入れた。


『ウオオオオオオ!』


 何十メートルもある高い天井、人間の視界には入りきらないほどの広い会場、席を埋め尽くし選手の入場に声を張り上げる無数の観客。

 その中から聞こえる黄色い声援はおそらく弥生のビジュアルに惹かれた女性のものだろう。

 これほどの人数が集まったのは弥生ともうひとり。初出場かつ無名にもかかわらず、この大会を勝ち進んだ期待の新生を自分の目で見るため。


 その人物は弥生の目の前の出場口から姿を現した。


 整えられていない髪、そばかすのある顔。決して良いとは言えない顔つきだが、達人である弥生ならわかる。

 正服のうえから、そして歩き方から目の前の少年は強者だということを。


「はじめまして。おらの名は切原権之助だっぺ」


 丁寧なあいさつをした少年の口ぶりはまさに田舎っ子。


「ああ、はじめまして。武御雷弥生だ」


 不機嫌とはいえ礼儀を忘れるほど愚かではない。


 二人の間合いはどんどんと縮まっていく。歩いているときも相手の観察は怠らない。

 中央にいる審判の前で二人の少年は刀を構える。この大会には防具というものはない。木刀とはいえ当たってしまえば無傷では済まないだろう。けれどそれ以上に観客は、そして決闘者自身が激しい戦いを望んでいるのだ。


 床に示されたマークの上へ立ち、お互い刀を構える。

 

 ふたりが構えを取れば会場が静まった。審判はいるが合図をしない。始めるのはふたりの意志のみ。


「「いざ参る!」」


 切迫。


 権之助の上段斬りと弥生の振り上げが交差、竹刀どうしがぶつかり乾いた音が闘技場内に響き渡る。

 衝撃でお互いの刀が弾かれ、のけぞる二人。体勢を先に建て直したのは弥生。いつも自分よりも力も速さも上の人間に稽古をつけてもらえる彼はただで弾かれたりはしない。権之助の一撃を正面から受けた弥生はそのエネルギーを回転へと昇華。そのまま一回転。

 権之助の脇腹へと剣を叩き込む。


 が、

 権之助は無理な体勢のまま刀で弥生の一撃を防いだ。

 しかも弥生のこの一撃は彼の先生にも通じうる技。まさか防がれるとは思えず弥生は目を見張る。

 されど権之助自身も目をかっぴらきながら弥生の攻撃を防いでいた。おそらく彼自身も全力で止めたのだろう。

 防がれつつもそのまま押し込む弥生。権之助を吹き飛ばす。

 

 飛ばされた権之助だがすぐに着地、弥生のほうを向きなおす。


「まさかこれほどの実力とは、さすが武御雷の人間だっぺ……」


 賞賛の言葉を述べる権之助だが弥生のほうも目の前の剣士への評価を上げる。だてにここまで登ってきてはない。


 再び二人の距離が縮まる。今度はまさに攻防一体。

 権之助が攻めれば弥生は防ぎ、次に弥生が攻めて権之助が防御。


 その繰り返しだ。

 けれど戦いのレベルは上がっていく。剣戟の音がどんどんと大きく、頻度も上がってゆく。お互いにどんどんと相手の技を見極めていっているからだ。


 観客もそれに魅入る。多少のつぶやきはあるものの、スポーツ大会とは違い大きな声を出す者はいない。


 十数の剣戟ののち互い攻撃を選択、剣が交差し、鍔迫り合いが始まる。

 力はほぼ互角。

 すると権之助が口を開く。


「おらのじっさまが言ってたっぺ。侍たるものは必ず刀を持つ意味をもたなければならねえって……弥生君。君が剣を持つ理由はなんだっぺ?」


 権之助の真剣な問いを最初は無視しようとする弥生。だが突如脳内によぎる忘れかけた記憶。


『なんで刀振ってんの?』


 それはかつて桜と初めて出会ったときに彼女に言われた質問。

 今とはシチュエーションも違うし質問の内容も違う。権之助からのものは刀を持つ意義、桜からのものはただの疑問。にもかかわらず弥生にとっては同じように思えた。


 彼の迷いが握っている刀へと表れる。

 

「今だっぺ!」


 込めた力が緩んでしまい、その一瞬で権之助に押し込まれる弥生。後ずさりした弥生の脇腹に向かって権之助の横薙ぎが繰り出される。

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