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第八話 「力は発現せり」

「グアアアアア!」


 痛みで叫ぶ声が弥生の耳に入る。だがそれは桜があげたものではない。

 野太い声からしてテロリストが発したものだ。彼はこう続ける。


「あ、熱い! 熱い! 身体が焼けるようだぁ……!」


 ようやく目を開けることができた弥生の目に入った光景は、


 身体を掻きむしっているようにもがき苦しむテロリスト。そして手を広げたまま突っ立っている桜であった。桜自身何が起きたのかわかっていないらしい。

 弥生はすぐに判断。テロリストの正面、桜をかばうように立つ。

 そして、

 

「軍式無刀流・骸衝!」


 テロリストの胸に掌底を喰らわせた。衝撃は胸から全身へと伝わり、気絶。

 すぐに桜へと駆け寄る。


「大丈夫か?」


「あ、ああ……でも、さっきのはいったい何だったんだ?」


 自分の手を見つめながら桜は呟く。彼女の華奢な手のひらはまるで蛍のような光がともっている。

 二人が呆然としているのも束の間、テロリストが持っていたトランシーバーから通信が入った。


『おい! なにがあった!』


 どうやら先ほどの光に気づいた仲間がテロリストを案じているらしい。つまりすぐに仲間が集まってくるということだ。

 焦る弥生。刀がない今それらすべてを対処できるか。


 判断に逡巡していると突如弥生は肩を叩かれる。

 咄嗟に振り向けば弥生の背後にいたのは青い作業服を着た清掃員であった。

 ただの清掃員だと思ったが彼の眼光はおよそ清掃員のものではない。獲物を狙う捕食者のような、人型ロボットの人造の眼のような。


「少年、大丈夫か?」


 清掃員は無慈悲な声色で弥生へと尋ねる。この状態で絶対にいるはずのない清掃員の正体を弥生は一瞬で判断。


「…………『軍』ですか?」


 弥生の言葉で清掃員は目を見開く。どうやら当たりのようだ。


「なるほど関係者か、なら話は早い。すでに『軍』はこのモールを包囲している。ここからは()()の任務だ」


 弥生が思った以上に『軍』は優秀なようだ。弥生ですら気配を察知できないから優秀なうえ強いと見える。

 清掃員は服の裏からグラース銃と日本刀を取り出す。薬指にはめられた指輪を口に近づけ、呟いた。


「作戦開始」


 清掃員は店の外へと繰り出した瞬間左へ銃口を向け発砲。

 だが銃声は彼が放つ一発だけではない。数発の銃声がモール内に響いた。そのすべてがテロリストが放ったものではなく、弥生たちの目の前の兵士が撃った銃声の同類だとわかる。


 その銃声でテロリストの数40名のうち5名がやられる。

 だがこれはただの反撃ののろし。銃声のほうを向いたテロリストの背後に、隠れていた『軍人』が出現。10名のテロリストの背中に向けて防弾チョッキのうえから斬りつける。

 

 テロリストは残り25人。

 内15人はさきほどから出てきた軍人の射程範囲内にいるため、続けざまにその15人を反撃をさせる暇なく撃破。

 同時にテロリスト5人へ外から狙った狙撃手が彼らに銃弾を浴びせ、残り5人。


 5人は集まった多数の人質を囲むように立っており、一人はテロの首謀者。

 30秒も経たずして仲間の大多数がやられたことに首謀者は動揺を隠せないでいた。


「やはり奴らがやってきたか……我々の怨敵、阻むもの(ハーリス)……!」


 苦々しい素振りをするテロリストだがすぐに動かなかった時点ですでにテロリストの敗北は決まっていた。この数秒の間に残りの5人を制圧する陣が整えられてしまったからだ。


 5人に向けられるいくつかの銃口、さらには死角から接近する複数の人影。


「もうよい! こいつらを楽園へ……」


 テロリストが焦って人質に銃を向けるも……

 30人を超える軍人が人質にあたらない角度から一斉射撃、痛む余地なく5人は息絶えた。


 軍人のうち一人が薬指を口に近づける。


「任務完了」



 ***



「こちらシフォンケーキでございます」


 クリームの乗ったおいしそうなシフォンケーキが差し出されても弥生の目の前にいる桜はめずらしくすぐには食べようとしなかった。

 なにやら考え事をしているらしい。


(まあしかたないか。今さっき殺されそうになったんだから)


 軍が制圧したあと、モール内にいる人間は『軍』によって催眠がかけられ、テロそのものがなかったことになった。幸いにも外部への連絡手段が立たれたおかげで警察などにもテロのことは知られていない。本当になかったことにされたのだ。二人が今いる場所も先ほどのカフェ。従業員も、殺されかけた少女も普段通りのように過ごしている。


 二人だけがテロの出来事を覚えていた。


 桜はずっと手のひらを見つめている。テロの恐怖よりも先ほど発現した何かについて思案しているらしい。

 暗い彼女を弥生は見たくなかった。何か彼女を笑顔にしようと弥生も考え、あることにたどり着く。それは彼女のためになるであろうもの。


「……もしかして、さっきのあれは『陰陽術』ってやつなんじゃないかな?」


 弥生の言葉に桜が驚く。信じられないと言わんばかりに。

 口に出した弥生だがその後に続ける言葉がどんどんと浮かぶ。彼女を救えるだろうもの。だから必死にかんがえを伝える。


「君も陰陽術が使えるんだよ! 君は落ちこぼれじゃない!」


 1年に一度しか会えなくとも弥生は桜が家が嫌いだということをなんとなく感じ取れていた。その不安の種を積むことができると弥生は考えた。

 ずっと救われてばかりだった弥生が今度は彼女を救いたいと願ったのだ。


「そうかな……」


 初めて見る彼女の不安げな表情に弥生は突き刺すように告げる。彼女を助けたいと本気に思って。


「そうだ」


「……わかった。みんなに言ってみるよ。今日の出来事」


 弥生の真剣な目を受け桜も自分に力があると受け入れたらしい。軽く手を握って決心する。


「ありがとう。君にはいつも……」


 いつも、その先を彼女は話さなかった。代わりに弥生が見る笑顔をくれた。彼女らしい眩しい笑顔のはずだが、弥生はその笑顔は不思議と何か違和感を覚えた。


 二月上旬。曇り。


 

 ***


 

 弥生16歳。

 

 時期は二月中旬、彼は規模が少し大きめの大会に出場し、優勝した。

 彼は今表彰台の一番上に立ち、巨大なトロフィーを持ちながら大会の運営から金メダルを首にかけている。目の前に無数にきらめくカメラのフラッシュになんとか耐えながら時間が経つのを待つ。うっとおしいカメラマンもインタビュアーもどうでもいい。

 もうすぐ桜さんと会えるという期待が胸にあるからだ。


 一通りの役目を終え、大衆から解き放たれた弥生が廊下を歩いていると彼を待つ人たちがいた。


「父上」


 その中のうち一人は弥生の実の父、武御雷霧綱(きりつな)。身長二メートルを超える屈強な肉体、幾多の戦場を生き残ったようにしか見えない眼光は彼がこの国最強の剣士なのだという事実を後押しする。


「圧勝であったか。父としても誇り高い。このまま精進してくれたまえ」


 厳格なイメージのある武御雷家であり、もっともその通りだが父から息子に向ける愛情は本物。弥生も父に対し敬意を持っている。父からの激励にも心から喜ぶ弥生。

 しかし彼は気づく。

 父、そして彼の部下や秘書に紛れて見慣れない美少女がいたことに。

 彼女の銀髪は刀が煌いている光沢のようで、彼女の黒い目は漆を塗られた鞘のように奥深さを感じる。まさに刀がそのまま美少女となったような人物であった。

 弥生が彼女と目を合わせれば、父がそのことに気づく。嬉しそうに父は口を開いた。



「紹介しよう。君の()()銀刃寺(ぎんじんじ)沙耶香(さやか)だ」

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