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ハト

作者: 通りすがり
掲載日:2025/08/09

今から20年以上昔、僕がまだ小学校3年生だった頃の話だ。

当時通っていた小学校の体育館の裏には、「平和のハトの像」と呼ばれる白い鳩の像が設置されていた。高さは約1メートルほどで、翼を広げたその姿は、子供が乗るのにちょうどいい大きさで、僕たちの格好の遊び場になっていた。像の周りには木々が生い茂り、秋になると落ち葉が地面を覆い隠す。だから、像の周囲は昼休み後の掃除の時間に、僕たち生徒が掃除をすることになっていた。

僕のクラスがその担当になったのが、小学3年生の時だった。校舎裏という人目に付かない場所で、先生の立ち合いもない。当然、真面目に掃除をする子ばかりではなかった。僕もその一人で、同じ掃除当番の班の友人二人と、箒でチャンバラをして遊ぶのが常だった。

ある日のこと、いつものように箒でチャンバラに興じていた僕は、振り上げた拍子に、勢い余って箒が手からすっぽ抜けてしまった。箒はそのまま、かなりの勢いで平和のハトの像にぶつかる。慌てて駆け寄ると、箒がぶつかったと思われる場所の塗装が剥がれ、下から鈍い赤銅色の地金が覗いていた。

「やばい…」

友人の一人が先生に言った方がいいと提案したが、もう一人の友人が「怒られるから黙っておこう」と顔を青くした。僕もその傷が小指の先ほどの大きさで、遠目で見ればはっきりと分からないだろうと高を括り、誰にも言わないことを決めた。先生に言おうとした友人も、渋々ながら同意した。



しかし、その日を境に、僕たちの身の回りで奇妙な出来事が起こり始めた。

街中にハトがいることは珍しくない時代だったが、妙にハトの鳴き声が聞こえるようになったのだ。聞こえるたびに周囲を見渡すが、どこにもハトの姿は見当たらない。

そして、何もないところで急に転んで足を怪我したことがあった。その時、ふと視線を感じて顔を上げると、一羽の白いハトがじっとこちらを見つめている。子供心にも、あのハトの像と関連付けてしまい、言いようのない不安が募った。

実は、それは僕だけでなく、あの場に一緒にいた友人二人も同じだった。後で知ったのだが、二人も周囲にハトの気配を感じたり、同じように怪我をしたりしていたらしい。

そして、あの平和のハトの像にも変化が表れ始めていた。僕が箒でつけた傷が、少しずつ、しかし確実に広がっていたのだ。それは最初の傷から下へと、まるで血が流れ落ちるかのように伸びていく。塗装の下の赤銅色は、乾いた血の色のように見え、僕たちをさらに怯えさせた。

その傷を認識した学校側は、ハトの像の修繕を行うことにした。それを聞いた僕たちは、心底ホッとした。あの傷さえ修繕されれば、僕たちの身の回りに起こっている怪異もなくなるだろうと。



数日後、ハトの像は無事に修繕され、元の全身白い姿に戻った。それから、僕たちの身の回りで起こっていた奇妙な出来事もぴたりと止んだ。これで以前のように安心して暮らせる。僕たちは心底安堵した。

だが、それで終わりではなかったのだ。

それからしばらくして、またあの体育館裏の掃除当番になった。何気なくハトの像に目をやった僕は、違和感を感じていた。全身白いハトの像に、まるで点のような汚れがついているように見える。嫌な予感を感じながらも近づいて確認する。

それは、例の傷があった箇所だった。

そこの塗装が、また小指の先ほど剥げ、下の赤銅色が覗いていた。友人二人もそれを見て、顔を青くしている。そしてその時、どこからともなく、すぐ近くからハトの鳴き声が聞こえた。

「クルルゥ……」

恐怖に耐えきれなくなった僕たち三人は、自分たちがしたこと、そして身の回りに起こったことを先生に告げた。先生は、そんな僕たちに優しく問いかけた。

「自分たちがしたことを、ハトの像にちゃんと謝ったのかい」

僕たちは、誰一人として謝っていないことに気づいた。先生は、「まずはハトの像に謝ろう」と言い、僕たちは先生と共に、ハトの像に誠心誠意謝罪した。

それから、ハトの像の傷が広がることはなく、僕たちの身の回りにも怪異が起こることはなかった。しかし、僕は今でも、街中で白いハトを見るたびに、背筋が凍るような感覚を覚える。そのハトのどこを見ているのか分からない黒い目が、まるで僕の行動を見張っているかのようで。


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