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006 ブロンコからリーパーへ

 あれから一週間が経ち、ハワードたちはようやく大きな町「フォールクロウ」へ訪れていた。目的は、ガンパウダーファミリーを壊滅させたことによる賞金を受け取るためだ。あのときは連邦保安官を呼んでいたので、痛くもない腹を探られないように先に出てしまったので賞金は受け取ってはいない。

 

 連邦保安局は、治安維持が追いつかない西部にかぎり、苦肉の策として賞金首制度を導入している。このため、西部では誰もが銃を取り、自衛のために戦うことが当たり前になっていた。

 特に、専門的に賞金稼ぎを行っているバウンティハンターは軍人上がりか、特殊な境遇で戦うことを余儀なくされた人種が多い。その中では、たまたまデューンウォーカーを手に入れたハワードは特別な存在だろう。

 

 町は、日干しレンガや金属の廃材を寄せ集めて作られた建物がひしめき合い、西部の厳しい環境を物語っていた。埃っぽい道を、ガソリンエンジンの唸りや、人々の喧騒、そしてデューンウォーカーの鈍い駆動音がごちゃ混ぜになって響いている。

 この街はオリジンライトの恩恵を受けていて、様々なものを作れる。とはいっても、特定の波長の光を当てなければならないため、その微細な光の調整ができる太古の墜落した宇宙船から機材を引っぺがしてきたに違いない。

 もし、この街にもとから墜落した宇宙船があれば、巨大なルーフのようなものが町全体を覆っているハズだから。

 それが無いということは、あとから宇宙船の端末なり機能なりを後付けした場所に違いない。割と西部ではよくある光景だ。これが東部の場合、遺構となった宇宙船に他から採掘してきたオリジンライトを使わせるようにしている。

 

 墜落した宇宙船は大きい物で3隻、小さなものは100隻を超えて東部に分布している。どれもこれも、外装は破損しているが、内装や設備などにダメージがあるものは少なく、今日の人類の発展は宇宙船と共にあったと思ってよい。もし、宇宙船がなければ、文明の発達を待たずに砂の惑星に飲み込まれて人類の歴史は終わっていたに違いない。

 

 この町の中央にある連邦保安局の建物は、他の建物とは一線を画すかのように、堅固な石造りで建てられていた。警備のデューンウォーカーも見えるだけで4体いる。どれも劣化版じゃなく、宇宙船内で作られた正規版のデューンウォーカーだ。

 石造りのその重厚な扉をくぐると、ひんやりとした空気が肌を刺す。受付のカウンターには、疲れた顔の職員が座っており、ハワードは差し出した指名手配書のホログラムといっしょにガンパウダーファミリーとの戦闘記録も提出した。

 

「確認します。少々お待ちを」

 

 職員の男が端末を操作する間、ハワードは辺りを見回した。壁には、指名手配犯のホログラムがずらりと並んでいる。その中に、かつてガンパウダーファミリーを率いていた男の顔があった。

 

 やがて、職員が端末から目を上げ、ハワードに顔を向けた。

 

「間違いありません。現在は拘留中のガンパウダーファミリーの壊滅、お疲れ様でした。こちらが賞金となります。」

「毎度、どうも~。」

 

 職員がハワードへ手渡したのは、連邦政府が発行する電子マネーチップだった。小さなチップだが、その中には巨額の価値が詰まっている。ハワードはチップを受け取ると、満足そうに指先で転がした。

 何気なく見ると、帰るころには賞金支払い済みとなったガンパウダーファミリーのホログラムは大きな×がつけられていた。

 

 賞金を受け取ったハワード、ヴィハン、そしてホイザーの三人は、今後の使い道について話し合っていた。ホイザーの願いは「冷蔵庫の大きいものが欲しい」というささやかなもので、即座に受理された。キャリアカーに乗せられていく冷蔵庫。

 しかし、その次が難航した。

 

 ヴィハンは、より高精度で広範囲をスキャンできるスキャナーの購入を提案する。

 

「これがあれば、半年かかる作業が1週間で終わるかもしれん。おまえさんの残り時間を考えると、これが一番優先だろう?」

 

「それは次にしてくれ。今優先すべきは俺の機体だ」

 

 ハワードは、自分のデューンウォーカー「ブロンコ」の強化を主張した。

 

「現状、何が問題なんだ?」

 

 イライラを隠さずにヴィハンが問いかける。それに涼しい顔でハワードは返した。

 

「近距離と遠距離を切り替えるのに、致命的な隙ができるのが気に食わない」

 

「お前が自分で選んだ武装だろうが。どうにかしろ!」

 

 ヴィハンは切り捨てるように言った。

 

「長く使ってしっくりこないんだから、買い替え時だって言ってるんだよ。」

 

 ハワードは食い下がる。

 

「じゃあ、何に変えるんだ?」

 

 ヴィハンが呆れて尋ねた。

 

「次はシックル!サイズだ!死神の持ってるやつ!もうね、男の子のロマンが詰まってるわけよ!」

 

 ハワードは熱弁を振るう。その目はキラキラと輝いている。

 

「近距離はそれでいいとして、結局、遠距離武器との持ち替えは発生するじゃないか。そこはどうするんだ?」

 

 浪漫と聞いてヴィハンは呆れ顔だ。だが、あの顔をしているハワードがどういう状態かは理解している。

 

「遠距離は……切り捨てる!」

 

 ハワードの言葉に、ヴィハンは頭に手を当てて首を振った。

 

「さすがに、それは……?」

 

 ホイザーも呆れ返っている。

 

「いや、ただ遠距離を捨てるわけじゃない。代わりにブースターを取り付けて、速度で敵をかく乱して、ヒットアンドアウェイの戦法にしようと思ってるんだよ」

 

 急に早口になるハワード。

 

「操縦者の負担がデカそうだが、耐えられるのか?」

 

 ヴィハンは不安げだ。

 

「大丈夫!大丈夫!任せておけってね」

 ハワードは自信満々だった。こういう時のハワードはたいてい謎の自信に彩られていた。

 

 3人はデューンウォーカーの改造ツールや武器を用意しているショップへと移り、こうして、ハワードは愛機ブロンコの大改造に着手した。以前使っていた武器はそのままキャリアカーに残し、装甲は軽量化を優先しつつも頑丈なものへと変更された。新しく手にしたのは、両手で扱う大ぶりのシックルサイズだ。これは高速振動することで、あらゆるものを切り裂く性能を秘めている。

 高機動で一撃離脱を試み、気が付けば死屍累々の屍の山を築く。そんな情景がハワードの脳内に描かれていた。

 

「ふっふっふ、これで俺の暴れブロンコ死神リーパーへと変貌を遂げたのだ!」

 

 ハワードは、新しく生まれ変わったブロンコ改めリーパーを眺めながら、満足そうに呟いた。

 

 ハワードの愛機ブロンコは、大改造を経てその姿を大きく変えていた。

 

 生まれ変わったリーパーは、鈍い金属光沢を放つ巨大な鎌をまるで死神のように掲げ、やや前傾の姿勢を取りながら立っていた。以前は背面にのみ取り付けられていたブースターは、肩とふくらはぎにも追加されており、理屈上は、これらのブースターを自在に操ることで空中機動すら可能になるはずだ。装甲は軽量化を優先したため、以前よりも薄く、しかし頑丈な特殊合金に換装されていた。

 

「ふっふっふ、これで俺の暴れブロンコ死神リーパーへと変貌を遂げたのだ!」

 

 ハワードは満足そうに機体を眺めながら呟いた。

 

 ハワードがガレージで悦に浸っている間に、ヴィハンも行動を起こしていた。キャリアカーを密かに移動させ、カーショップへと来ていた。

 機体改造に賞金のほとんどが使われたが、これまでのスキャナーの効率の悪さを鑑み、道中見つけた鉱床の情報を売って得た資金を足しに、スキャナーの性能を若干向上させた。以前は半径20メートル、深さ1メートル程度だった性能が、今や半径50メートルを深さ3メートルまで見通せるようになった。さらに、スキャン結果から鉱物の種類を簡単な判断で識別できるようになったのが大きい。以前は影の形から当たり外れを検討するしかなかったが、これからは結果を見ることでオリジンライトとそうでないものを簡単に見分けられる。

 

「これで少しは楽になるはずだ。欲を言えば、ドローン射出型のスキャナーにしたかったが、無い袖は振れないからな」

 

 ヴィハンは、無いよりはましという程度の性能上昇しか図れなかったスキャナーに不満そうに口を尖らせた。だが、もとより機体で戦って勝つのが商売の賞金稼ぎである以上、機体を最優先にするのは仕方のないことだと割り切っていた。それがまさか趣味丸出しの近接戦闘特化型になるとは思いもよらなかったが、そこで悩んでもハワードという男と付き合っていくには飲み込まなければならない要素の一つなのだと、ヴィハンはため息をついた。

 

 彼はキャリアカーの運転席を倒し、今日の寝床を作り始める。日中、太陽に熱された車内の温度が少しずつ下がり、静かな夜が訪れようとしていた。

 

 

 ホイザーが来てから数日たったが、ハワードは今も後部座席の空いたスペースにハンモックを吊るして寝ていた。ソファベッドを倒して寝ているホイザーがその下にはいる。ソファベッドの大きさは二人で眠るには十分なのだが、こういう時、ハワードは意外とシャイなのだった。

 ちなみに、運転席でホイザーが寝て、ソファベッドで男二人が寝るというホイザーのアイデアは、即座に却下された。

 

 静かな夜が訪れ、キャリアカーの中は沈黙に包まれていた。窓の外は漆黒の闇が広がり、時折、遠くで吹き荒れる砂漠の風の音が、遠吠えのように響いてくる。ハワードが吊るされたハンモックは、微かに揺れていた。

 

「ホイザーちゃん、眠れてる?」

 

 ハンモックから顔だけを覗かせたハワードが、下のホイザーに声をかける。

 

「ええっと、まだ起きてますけど?」

 

 ホイザーが少し体を起こして答える。それにたいし「そっか」とハワードが声をかける

 

「ここに来てそれなりに立つけど、大丈夫?生まれ育った町でやり残したこととかない?」

 

 ハワードは心配そうに尋ねる。ホイザーは少し考えた後、「大丈夫、何もないです」と静かに返事をした。

 

「そっか……。君がここにいる間は、俺が何からでも守るからな。安心して眠ってくれ……ほにゃほにゃ。」

 

 途中で言葉が途切れて、ハワードは寝息を立て始めた。どうやら、そのまま寝入ってしまったようだ。ホイザーは、ハワードの顔が、わずかに月明かりに照らされ、耳まで真っ赤になっているような気がして、思わず微笑んだ。

 

 このキャリアカーの中は、故郷の町よりも、何よりも安心できる場所だった。ケモに生まれついたからと、蔑む目はない。人間にはできない仕事だと、汚れ仕事を押し付けられたりもしない。守ってあげると言って、裏切られたことなど数えきれないほどにある。

 

 それでも、守ってくれると不器用ながらも伝えてくれる不思議と信じられるハワード。そして、運転席で静かに眠る案外優しいヴィハンの存在。自分は今、この上なく幸運な環境にいる。だからこそ、二人のために何かしてあげたいと、ホイザーは強く想わずにはいられなかった。

今回の話を読んで、何か思ったことや感じたことがあれば是非ともコメントや感想を残してください。

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「ふっふっふ、これで俺の暴れ馬ブロンコは死神リーパーへと変貌を遂げたのだ!」何度も口にするあたりハワードのテンションの爆上がりを感じる。もしくはヴィハンの反応が塩対応すぎたので擦っているのか。
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