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005 オリジンライト掘り

 ダイダラからの脱出劇を終え、ハワードとヴィハンは西へ向かっていた。彼らの目的は、ハワードの減刑に必要なオリジンライトをあと二つ探し出すこと。ハワードに求刑された刑期は100年。期限は残り8ヶ月。この絶望的な状況にもかかわらず、ハワードはどこか気楽なものだったが。

 

 どこまでも続く一面の砂漠を、ヴィハンの運転する巨大なキャリアカーが重々しく進んでいく。熱と陽炎で歪んだ地平線が揺れ、遠くの岩山が蜃気楼のようにぼやけて見えた。轍が刻まれた砂の道は、まるで巨大な蛇が這った跡のようだ。車体の下からは、砂に噛みつくタイヤの轟音が絶え間なく響く。その単調な音と、時折窓にぶつかる砂粒の乾いた音が、終わりの見えない旅を物語っていた。

 

「ヴィハン、オリジンライトの有りそうな場所なんてわかるん?なんか、運転まかせちまってるけどよぉ。」

 

「そんなものがわかるようなら、俺は今頃大金持ちだ。正直、行く当てすらなく運転してるに近い。」

 

 ヴィハンは嘆息するとハワードへ返事をした。古馴染みであると同時に、連邦保安局からのお目付役でもある彼は、デューンウォーカーのブロンコとそのキャリアカーに仕込まれた発信機を意識し、定期的にスキャンされる居場所を気に病んでいた。今はまだ泳がされているが、残り1カ月を切ったら、保安局のものが付いて回るだろうという、あまり愉快な気分になれない状況を想像していた。

 目の前に移る一面の砂漠は、この果てない冒険の険しさを思わせるものだった。

 

 後部座席では、ホイザーが今日の昼食を用意しようとしていた。まだ食材は豊富にあったが、足の早いものから消費しようと、手際よく作業を進める。ケモ種である彼女の味覚は、一般人のハワードやヴィハンとはどうしても異なり、どうしても塩味は薄く、高タンパク、高カロリーなものを好んでしまう。その結果、出来上がる料理はいつも、二人の頭を悩ませるような代物だった。今日は、そのギャップを解消しようと、ホイザーは普段より慎重に調味料を調整している。

 

 まな板の上で、分厚いフクローの肉が軽快な音を立てて細切れにされていく。彼女は慎重にスパイスの入った小瓶を手に取り、僅かに匂いを嗅いでから、肉に振りかけた。その顔は真剣そのものだ。肉を炒めるために熱したフライパンに、パチパチと音を立てながら肉が投入される。いつもならここで大量の砂糖を投入するところだが、今日はヴィハンが以前「肉料理にはせめて塩をいれてくれ」とこぼしていたのを思い出し、ぐっと堪えた。代わりに、乾燥させたキノコや野菜を加えて風味を増す。

 

「ふむ……これで、どうでしょうか?」

 

 ホイザーは、肉の塊を菜箸で持ち上げ、出来上がりを確認するように匂いを嗅いだ。満足のいく香りに、彼女の耳がぴこぴこと楽しげに揺れる。

 自分としては満点の料理だが、人間たちに合わせると違う所が心苦しい。いっそ、二人と自分専用の2種類を作ることを考えたが、何故かハワードから同じものが食べたいという強い要望があり、今に至っている。

 

 とりあえず、料理が出来上がったので並べていく。それに合わせて、キャリアカーも運転を止めてヴィハンが後部座席に入ってくる。

 

「おぉ~!ウマそう!!さすがホイザーちゃん!!」

「見た目は毎回、美味しそうなんだがな。」

 

 ハワードが叫び、ヴィハンが小言を漏らす。ホイザーはドキドキしながら、二人が食べるのを待った。二人がそれぞれに肉を一切れずつ切り分けて口に運ぶ。

 

「大丈夫、イケるわコレ!」

「うむ、わたしはもう少し味付けは濃くても良いが、旨味でしっかりと味が感じられる。」

 

「よかったです!」

 

 ホイザーは耳をピコピコ動かしながら、喜んでいる。彼女自身も料理を口に運んで、満足する出来栄えだった。

 

 昼食が終わり、少しの休憩を入れたあとに再びオリジンライトを探す、あてどない旅に戻ることになった。

 

 ハワード達が探し出そうとしているオリジンライトは、もはや西部の手つかずの場所にしか残されていないと思われている。多くの場合、地表よりも少し下の砂漠に埋もれていることが多く、運が良ければ手で掘れる程度の位置に埋まっている。

 

 東部のものはすべて政府の管轄下にあり、東部の発展のために使用されている。西部では、無法者たちがオリジンライトを掘り出しては好き勝手に利用しており、ガンパウダーファミリーの支配していた街のように発展した街に無法者たちが後から乗り込んできて支配している場合もある。

 

 その場合、頼みの綱は連邦保安局だが、西部は広すぎて中々動けない事がほとんどだ。治安を守るのは東部だけで手いっぱいという体たらくなのだ。

 そのため、賞金首指名手配し、賞金稼ぎ達を当てにすることもあるが、巨額の賞金を用意することと、強力な賞金稼ぎがみつかることの二つの条件が為されないとならないため、西部は悪党どもにとっては天国の様な場所になっていた。そのため、この時代では、デューンウォーカー乗りの護衛を雇ったりして旅や行商などをすることが当然となっていた。

 

 デューンウォーカーは生産性が低く、東部にある太古の墜落した宇宙船群のなかで、現在では砂漠の地下からとれる鉱石類を中心にした劣化版のデューンウォーカーが多く出回っている。希少鉱石などをふんだんに使用したモデルはオリジンライトから生成されるものを直接使用するなど、高コストになりがちで、東部の要人警護や、名のある傭兵団などで一部使われている程度になる。

 

 ハワードの乗っているデューンウォーカーは劣化版などではなく、オリジナルに近い性能を持っている。そのため、基礎的な能力がとてつもなく高い。並みのデューンウォーカーでは、ロングバレルガトリングを両手で持つのが精一杯で、精密な照準を付けながら打ち続けることなど不可能と言えた。

 

 キャリアカーはだいぶ遠くなったダイダラの姿を後ろにしながら、砂漠の奥へと走らせるのだった。

 

 

 

 

 

 その頃、一人の男が帰還した。

 熱い砂漠の風が吹き荒れる中、無骨な日干し煉瓦でできた5棟ほどの建物が、まるで大地から生えたかのように建ち並んでいた。その周囲には、錆びた金属の破片や、使い古された機材が無造作に転がっており、生活の痕跡と無法者たちの荒々しさを物語っている。これが、無法者集団「ワイルドファング団」のアジトだ。

 

 その中の一つに男が入っていく。男はワームの中に隠れて命からがら逃げ帰ったジュリアンだ。彼の顔には恐怖が色濃く残っていた。ワイルドファング団は、団を率いる長男ダミアン、冷静沈着な長女セラフィナ、そしてジュリアンの3人を中核とし、十数名の構成員からなる無法者集団だ。

 

 ワームの体液をまとわりつかせるままにジュリアンは、兄であるダミアンに竜が倒されたこと、そしてワームをものともしないデューンウォーカーが現れたことを報告した。

 

「酒が切れた」

 

 不機嫌に呟いて、手近なものに適当な村を襲ってかっさらってこい!と大声で命じる。報告を聞き流そうとしていたダミアンの顔色が徐々に変わる。

 

「竜が死んだだと?お前に任せていた竜がかっ!?」

 

 大声で怒鳴られ、ジュリアンが身をすくませる。ジュリアン自身は普通の体格だが、ダミアンは2m近くある大柄な男だ。スキンヘッドの頭にいくつもの傷が刻まれている。

 そのダミアンが竜を倒せるほどのデューンウォーカーだと聞き、自身の戦闘狂の血が疼き始める。

 

「竜を倒すか……。なかなかやるな、そいつ。」

 

 ダミアンが舌なめずりをして、拳と拳を打ち鳴らす。

 

「あの竜がやられるなんて、お前の指示が悪かったんじゃないのかい?」

 

 ジュリアンから見れば姉となるセラフィナが弟へ問いかける。話しながらも彼女の両手は、せわしなく宙を舞っていた。干し煉瓦の壁に囲まれた、質素な部屋の一角。そこには、周囲の景観から浮き彫りになったかのような巨大な端末が置かれていた。それは、墜落した古代の宇宙船から剥ぎ取られたもので、見るからにロストテクノロジーの一品だ。この建物の下にはオリジンライトがあり、ワイルドファング団はそれをつかって異常生命体を産み落として自分達の戦力としているのであった。

 

 端末の表面は、時間による風化と、砂漠の過酷な環境に耐え抜いた証として、無数の傷とくすんだ金属光沢を放っている。キーボードは実体を持たず、光で壁に投影されたキーが、彼女の指先が触れるたびに瞬き、小気味よい電子音を響かせた。今入力しているのは、次にオリジンライトから生み出させる異常生命体のデザインだった。

 この端末はオリジンライトへの入力を一部可能にしていた。それが、異常生命体のデザインだった、それ以外は緊急用の保存食程度しか入力できなかったが、ワイルドファング団は出来上がった異常生命体を自分たちの命令通りに動く生き物としてデザインし、近隣の街を襲っていた。

 賞金も手配されている立派な賞金首どもだ。

 

「指示は間違ってなかった。ブレスも吐いてたし、全力で攻撃してたんだ。その上で負けたんだよ」

 

 怯えたジュリアンが言葉を絞り出す。その声には、恐怖と混乱が入り混じっていた。

 

 兄であるダミアンは、眉をひそめて黙り込んでいる。その表情は、弟の言葉をどう受け止めればいいのか測りかねているかのようだ。

 一方、紅一点のセラフィナは、宙に投影されたキーボードから視線を外し、鋭い眼差しでジュリアンを見つめた。彼女の無機質な視線は、まるでジュリアンの言葉の裏に嘘がないかを探るように、冷たく光っていた。信じがたい出来事に、二人の間には重い沈黙が流れる。

 

「あ、あと……、やつの武装は、異様に長い銃身のガトリングと、アホみたいにデカい両手剣だ」ジュリアンがさらに情報を付け加えると、ダミアンの脳裏に、ある情報が浮かんだ。

 

「その武装…この間、ガンパウダーファミリーを潰したやつの特徴にそっくりじゃねぇか。オリジンライトを解放して、連邦政府直轄にしたって話だ。もしかすると、ここも狙われているのかもしれねぇな」ダミアンは眉間に皺を寄せ、続けた。「どっちへ向かっていたか分かるか?」

 

「西へ進んでたよ。ダイダラがテラフォーミングしている方向だ」ジュリアンの返答に、ダミアンは腕を組んで考え込む。

 

「面倒な野郎だな。俺たちを狙ってるとも言い切れねぇが、俺たちの方角から逸れてるとも言い切れねぇ」

 

「来る前に、先にやってしまおうか?」セラフィナが鋭い視線を向け、ダミアンに尋ねた。

 

「戦いてぇのは山々だが、竜を倒せるのは並大抵のビーストじゃ無理だ。幸い、そいつは俺たちを狙っているわけじゃなさそうだ。俺たちの戦力を整えてから、きっちりしばき倒す方がいいだろうぜ」

 

 ダミアンはそう言うと、喉の奥から絞り出すような、下卑た笑い声を上げた。その笑い声は、彼の内に秘めた狂気と冷酷さを物語っている。分厚い首筋には血管が浮き上がり、ジュリアンとセラフィナを射抜くような鋭い眼光は、獲物を前にした獣そのものだった。

 

 あれから1週間。オリジンライトのありかは、一つも見つからないままだった。

 

 キャリアカーに備え付けられたスキャナーを使って地中を探査しているが、それらしい反応があってもすべて空振りだ。鉱床など、それなりに売れる情報ではあるが、今は求めているものではない。

 

「ヴィハン!もっとまともな情報が出たら掘らせろよ!ブロンコが砂まみれだぜ!」

 

 ハワードはデューンウォーカーで砂を掻き、掘り進んだが、今回もまた鉄の鉱床が見つかるだけで、はずれだった。苛立ちを隠せないハワードに、ヴィハンは冷静に返す。

 

「気にするな、どうせ自動メンテナンスで砂粒まで掻きだしてくれるんだ」

 

「気分の問題だ、気分の!」

 

 ハワードがそう叫んだ時、ホイザーが休憩がてらに、ミントをほんの少し絞った水をコップに入れて持ってきてくれた。

 

「あー、最高だぜ。この気の利かせ方。ヴィハンのヤツにも見習ってもらわんと」

 

 ハワードはデューンウォーカーのコックピットを開放し、外の熱気を浴びながら言った。その言葉に、ヴィハンの返事が飛んでくる。

 

「俺がそういうのをやるようになったら、寝首が飛ばないか気を付けた方が良いな。それはそうと、次の賞金でも手に入れたら、精度と範囲の優れたスキャナーを購入しよう。今のままだと、当たりはずれも甘いし、範囲も狭いから取りこぼしの可能性も無くもない。一旦、ここらで大きな町へと向かうとするか。」

 

「了解だ、こんなんじゃ非効率的過ぎて話にならん。」

 

 そんなこんなで、オリジンライトの地道な捜索は続いたが、芳しい結果は得られることなく終わっていくのだった。

今回の話を読んで、何か思ったことや感じたことがあれば是非ともコメントや感想を残してください。

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