014 グルートドラッヘ
荒野を走るキャリアカーは、煙の柱を見つけて速度を落とした。煙が立ち上る先には、小さな村があるとマップ上には示されていた。しかし、見える範囲には廃墟とかした建造物が見えるだけだった。
ハワードは嫌な予感を覚えつつ、ヴィハンへと声をかける
「急げヴィハン!煙の柱が見える!きっと何かあったんだ!」
「わかった、こちらでも確認している。寄ってみよう」
キャリアカーが村に近づくにつれて、焦げ臭い匂いが強くなる。村は見るも無残な姿で、建物は軒並み黒く焼かれ、炎による災害が起こったのだと一目で分かった。村の中には人がいる痕跡は残っておらず、焼死体もいくつか見えた。
ヴィハンはキャリアカーを停め、ハワードたちにコックピットから降りるよう指示した。
「ハワード、ガブリエル、ホイザー、降りてくれ。村の様子を確認する。もしかしたら、生存者がいるかもしれない」
ハワードたちはキャリアカーから降り、焼けた村を歩く。瓦礫の中には、村人たちの無残な姿が転がっていた。その姿を見るたびにホイザーは震えながら、涙を流していた。
「ひどい…!どうしてこんな……!」
ガブリエルもまた、怒りを露わにする。
「一体何が起きたってんだ……!」
ハワードは黙って瓦礫を片付け、生存者を探した。その作業の途中、焼け焦げた壁に文字が刻まれているのを見つける。まるで、ナイフで土壁に傷をつけたような文字でこう書かれていた。
【死神のデューンウォーカーへ、まっすぐ西へ迎え。そこで待つ。ダミアン】
そのメッセージを読んだハワードの表情が、怒りに歪む。
「死神のデューンウォーカー……、リーパーのことか……!おいおい、俺たちをここに誘い出したってのかよ……?」
ヴィハンは冷静に言った。
「おそらく、我々がここに来ることを予期していたのだろう。そして、この惨状を作ったであろうダミアンは西へ向かった。奴は、次の街を狙っている」
「ふざけやがって…!ヴィハン、西へキャリアカーを走らせてくれ!俺は先回りして奴を止める!」
ハワードは怒りに任せてそう叫ぶ。しかし、ヴィハンは首を横に振った。
「ダメだ、ハワード。単独行動は敵の思う壺だろう。我々は全員で向かうべきだ。それに、今の君は冷静じゃない」
ヴィハンの言葉に、ハワードはぐっと拳を握りしめた。彼の言う通りだった。今の自分では、冷静な判断ができない。
「わかった…全員で向かおう。ホイザーちゃん、街の被害を食い止めるために、キャリアカーから支援を頼む。ガブリエルは、俺と一緒に最前線へ出るぞ」
ホイザーは不安そうな表情を浮かべたが、ハワードの言葉に頷いた。ガブリエルもまた、力強く頷く。
決意を固めたホイザーは、ハワードへその想いを伝える。
「任せてください、ハワードさん!あんな卑劣な真似、絶対に許しません!」
2人はそれぞれのデューンウォーカーへと乗り込み、キャリアカーを先頭に、西へ向かった。
数時間後、一行は西部の小さな街に近づきつつあった。街はすでにダミアンによって襲撃されており、遠くからも黒い煙が上がっていた。街へと近づくと、街の広場で巨大な黒い影が蠢いていた。それは、ホイザーが言っていた、熱線を吐く火龍グルートドラッヘだった。その隣には、食料を詰んだバックパックを背負っているデューンウォーカーの姿があった。
ハワードたちの接近に気がつき、グルートドラッヘが頭を向ける。それに気づき、デューンウォーカーも向き直った。
「てめぇがダミアンかッ!?なんでこんなことを…!」
ハワードはリーパーのコックピットから叫んだ。ダミアンはリーパーの姿を見ると、にやりと笑った。
「てめぇこそ、俺たちの邪魔をしやがったよな?それとこれとどう違う」
「どう違うか、だと?ふざけるな!お前がやったことは、絶対に許さねぇ!」
ハワードは叫びながら、リーパーをダミアンへと向かわせた。背面にある4つのブースターを稼働させ、一気に距離を詰めていく。その手には必殺のビームサイズを構えていた。その動きに合わせて、ガブリエルもドレッドノートを動かす。しかし、ダミアンは動じない。
「来たか、死神のデューンウォーカーよ。覚悟しろ!お前らも、この街の連中も、まとめて燃やしてやる!燃やせ、グルートドラッヘ!!」
ダミアンはそう叫び、グルートドラッヘに指示を出した。グルートドラッヘの口から、赤々と燃える熱線が放たれる。ハワードは咄嗟にリーパーの腕部装甲を展開するが、熱線は装甲を貫通し、リーパーを焼き焦がした。
「くそっ…!なんだこの火力は…!」
リーパーの装甲は熱によって真っ赤になり、コックピットには熱を感知する警告音が鳴り響く。熱線はまるで生きているかのように、リーパーを追尾する。ハワードは必死に熱線を避け続けるが、そのたびに、街の建物が崩壊していく。まだ街の中には生き延びている人々もいて、考えて避けないと死人が増える一方だった。
「ハワードさん!避ければ避けるほど、街に被害が出ます!」
ホイザーがキャリアカーのスピーカー越しに叫ぶ。ホイザーは走るキャリアカーの中から、ガトリングによる火力支援を行なっていたが、巨大なグルートドラッへにはあまり効いた様子が無い。逃げると悲劇が広がっていくことにはハワードも気づいていた。しかし、熱線はあまりにも強力で、まともに受けることはできなかった。
「ガブリエル!俺が奴の注意を惹きつける!その隙に、ドレッドノートで攻撃してくれ!」
「了解した!」
ガブリエルはドレッドノートを動かし、グルートドラッヘにミサイルを連射する。ドレッドノートの後部に備えられた大型ミサイルポッドのハッチが開くと、中から無数のミサイルが噴き出す。炎を吹き、白煙を引きながら空を切り裂き、グルートドラッヘへと殺到した。ミサイルの群れは、まるで一匹の蜂の群れのように、グルートドラッヘへと向かう。しかし、ミサイルはグルートドラッヘの分厚い皮膚と鱗に阻まれ、ダメージを与えこそしたが、致命傷には程遠い。
「こいつ…本当に生き物なのか…!?」
ガブリエルは驚きを隠せない。グルートドラッヘの皮膚は、まるで鋼鉄のように硬く、ドレッドノートの攻撃でも貫通させることが困難だった。熱線はリーパーの動きを封じるように放たれ、ハワードは避けることに精一杯だった。
その隙を狙って、グルートドラッヘの熱線に気を取られているハワードの背後から、ダミアンの乗る機体「ダンビラ」が襲いかかった。ダンビラの手に握られた巨大な剣が、リーパーの背中に向かって振り下ろされる。鈍い金属音が響き、リーパーのブースターが一つ使い物にならなくなった。
「テメェ!やってくれたな!」
ハワードはそう叫び、リーパーのビームサイズを構えた。すかさずダンビラの剣とビームサイズの刃が激しくぶつかり合う。火花が散り、甲高い金属音が響き渡る。ダミアンはニヤリと笑い、致命傷を避けた。
「俺に構っていていいのかぁ?ドラッヘを忘れてるんじゃあないか?」
ダミアンの言った直後に、グルートドラッヘから熱線が放たれ、間一髪のところでリーパーは回避する。
この状況の不利さを悟り、ハワードはキャリアカーの二人に助けを求める。
「くそがっ!ヴィハン、ジウメイ!!何か使えるもんはないかっ!!」
ハワードの通信に、ジウメイが応える。
「ハワード!一つだけ方法があるわ!私が高出力対応改造した時に、エネルギー残量を急速に減少させてしまうデメリットを代償に、火力を跳ね上げる改造を施したわ!今なら、リーパーのビームサイズに、そのエネルギーを注ぎ込めるはずよ!」
「ジウメイ……それなら……ッ!」
「ええ、一撃必殺よ!でも、成功すれば、グルートドラッヘの装甲を貫通できるはず!」
ジウメイの言葉に、ハワードは決意を固めた。
「よし!やってやるぜ!ガブリエル!ホイザー!俺に時間をくれ!」
「了解!」
「わかりました!」
ガブリエルはドレッドノートのミサイルポッドを、グルートドラッヘの顔面に向かって一斉に発射した。衝撃と爆炎で、グルートドラッヘの視界が一瞬遮られる。その隙に、ホイザーがキャリアカーの火器管制システムを操作し、街に設置されていた水のタンクを破壊した。水はグルートドラッヘの足元に流れ込み、熱線を放った直後で高温になっていたグルートドラッヘの体に、大量の蒸気が立ち上る。
「今です、ハワードさん!」
ホイザーの言葉に、ハワードはリーパーのビームサイズを構えた。
「行くぜぇぇぇぇぇ!!!」
ハワードは叫び、ビームサイズのエネルギーを最大まで高めた。刀身から放たれる光は、これまで見たこともないほどに強く、あたりを照らす。
行動時間を示すメーターが急激に減少していく。
「これは長時間は使えそうにないな。一気に終わらせてやるぜ!ブースター全開だッ!!」
ハワードはリーパーをグルートドラッヘへと突進させ、その巨大な体に、ビームサイズを深く突き刺し、一気に喉元まで切り開いた。火龍から血飛沫が大量に吹き出し、あたりにばら撒かれる。周いに血が吹きかけられて黒い煙が立ち上る。ダミアンは、呆然とした表情で、自分の最高戦力が息の根を止められたのを目の当たりにしていた。
「まさか…!グルートドラッヘがやられただと…!?」
ダミアンは信じられないといった表情で、目の前の光景を見つめていた。ハワードは、エネルギーを使い果たしたリーパーのビームサイズを地面に落とし、ダミアンへと向かっていく。
「さあ、ダミアン。逃がさないぞ」
ハワードの言葉に、ダミアンは一瞬怯んだ。しかし、すぐに不敵な笑みを浮かべ、ダンビラの中からスピーカー越しに声をかける
「テメェ、なんて名だ?」
「ハワード・ヒューズ。賞金稼ぎだよ、賞金首」
「ハッ…!いい名だ!覚えておくぜ、ハワード・ヒューズ!」
ダミアンはそう言い放つと、煙幕弾をハワードの足元に放り投げた。白い煙が周囲を包み込み、ダミアンはデューンウォーカーを走らせてそのまま逃げ去っていった。ブースターを使うエネルギーも無くなっていたハワードは煙幕が晴れるのを待ち、ダミアンを追いかけようとするが、すでに彼の姿はどこにもなかった。
見ると、他にも煙幕弾を使ったのか、周囲には煙が立ち込め、元からの黒煙と白煙が混ざり、視界は相当に悪くなっていた。
「くそっ…!逃がしちまった…!すまねぇ、皆」
ハワードは悔しそうに拳を握りしめた。しかし、ダミアンを倒すことは叶わなかったものの、グルートドラッヘを破壊したことで、街の危機は去った。炎を吐き、街を蹂躙していた怪物は、今やただの肉塊となり、その巨体から黒い煙を立ち上らせていた。街の人々は恐怖から解放された。煙幕の間から途切れ途切れに見えるその光景を見て、ハワードは安堵の息を漏らす。同時に、心の中で誓った。必ずダミアンを見つけ出し、今度こそこの手で決着をつける、と。
「ハワードさん、ご無事ですか!?」
ホイザーが通信機でハワードの安否を確かめる。向こうも煙幕でこちらを直接見ることができないようだ。
「ああ、なんとか…」
ハワードはそう言って、コックピットの中で静かに目を閉じた。左手の操縦桿を握る力が、無意識のうちに強まる。ダミアンの嘲笑が、耳の奥でこだましていた。
グルートドラッヘは倒せた。街の危機も去った。だが、肝心な獲物は取り逃がした。
勝利の喜びは、じわりと広がる悔しさによってかき消されていく。自分は結局、ダミアンの掌の上で踊らされただけだった。あの男は、最初から自分たちをこの場所に誘い込み、時間を稼いで食料を奪い、そして悠々と去っていった。その事実に、ハワードの胸中には苦いものが広がった。
「次こそは…絶対に、逃がさねぇ…」
唇から漏れたその言葉は、誰に聞かせるわけでもなく、彼自身の心に深く刻まれた。
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