013 ダミアンの思惑
ちょっと短いのですが、幕間みたいな感じになったので投稿します
砂塵が舞う、朽ちた煉瓦造りの建物が並ぶ一角。そのワイルドファング団のアジトに、髪も服もボロボロになったジュリアンが足を引きずって、戻ってきた。薄暗いアジトの奥から、セラフィナが冷たい視線を送る。
そのセラフィナの瞳に押しつぶされそうになりながらも、ジュリアンは今し方の出来事を話した。
「ジュリアン、帰ってきたのね。あなたのその話、その機体…形は変わったけれど、前に戦ったデューンウォーカーに違いないわ」
ジュリアンは、セラフィナの言葉に肩を落として答えた。
「ああ、その通りだよ。あの動き、尋常じゃない動きをしてた。この西部にも、あんな動きをするデューンウォーカーはそういやしない」
「それはそうとして、何度言ったらわかるの?やられるたびに作り直すのも大変なんだから、もっと慎重に扱いなさい!」
セラフィナの鋭い言葉に、ジュリアンは小さくうめいた。
「わかってるって、姉貴…。でも、相手が思いのほか強かったんだ。ワームじゃ無理だよ、あんな奴の相手。近寄るヤツから、縦に横にと真っ二つにされていったんだ。勝てる通りが見つけられないさ」
セラフィナは苛立ちを隠せない表情で腕を組んだ。2度も邪魔をしてくれたデューンウォーカーに対して、明らかに苛立ちを感じていた。
「いい加減、目障りだわ、そのデューンウォーカーにパイロット。一体、何度邪魔をすれば気が済むのかしら」
そこに、苛立ちを滲ませた声が響いた。
「全く、ここ数日、オリジンライトから作れる保存食ばかりで、流石に食い飽きてきたな、ジュリアン?」
奥から姿を現したのは、屈強な体格の長兄のダミアンだった。彼は不機嫌そうに保存食の入った袋を弄んでいる。この場所に設置されている生成端末は比較的自由な異常生命体をデザインできたが、食料に関しては非常用のカロリーが確保された保存食のようなものしか作ることはできなかった。味は甘いだけで、それ以外のフレーバーはなし。3日と続けると限界を感じる味だった。
ジュリアンは、セラフィナとダミアンの不満そうな視線を感じ、焦ったように口を開いた。
「あの、今回の相手は強化ワーム程度じゃ全く歯が立たなかったんだ。せめて、雷竜か何か、もっと強力な戦闘向けの異常生命体を作ってもらえないと……」
異常生命体の調教は、発生時に使用者の血を与えることで、異常生命体に使用者のDNAを読み取らせ、自分を家族だと錯覚させることができる。一度家族だと認識すれば、その異常生命体は、ある程度ではあるが、使用者の言うことを聞くようになる。知能程度はデザインによるが、うまくすれば人間の子供程度の知能を与えることはできる。
ダミアンは鼻で笑った。ジュリアンの血は相性の問題で、強力な異常生命体を従えることはできない。そのため、ジュリアンをダミアンは格下にみている。
ただ、ジュリアン自身は特別な特色を持っていて、複数の対象を従えることができた。これはジュリアンにしかない特殊な能力で、もっぱら村や輸送車両の強奪などはジュリアンの仕事になっていた。ジュリアン一人で、うまくすれば手下の人間十数人分の働きができた。
「ジュリアン、お前に扱える異常生命体じゃ無理だな。せいぜい、繁殖力の高いワームを増やすぐらいがお前の役目だ」
「ダミアン、気楽に言わないでちょうだい。ワーム一体作り出すのも手間がかかるんだから」
セラフィナはそう言って、苛立ちを露わにする。彼女が作り出す異常生命体は、普通の人間が作り出すそれとは一線を画していた。アウトサイダーたちが作り出す異常生命体は、せいぜいが異常に発達した脚力を持つ馬や、人を乗せて飛べる巨鳥といった、元々の生物の能力を少し強化した程度のものに過ぎない。しかし、セラフィナが作り出す異常生命体は、炎を吐く巨大な龍や、金属の皮を持つ猿など、独自の特殊能力を付与することが可能だった。
その能力の秘密は、彼女が持つ独自の生命工学の知識にある。元々、セラフィナは東部の軍事施設で働いていた科学者だった。そこで彼女は、異常生命体のデザインと、それを制御するための技術を研究していた。しかし、その知識を悪用が露見し上層部に追及され、兄のダミアン、弟のジュリアンと共に西部へと脱出。その際に、オリジンライトへの入力用端末と、彼女が研究してきたすべてのデータを持ち出したのだ。
ダミアンとジュリアンは東部のマフィアの一人だった。ダミアンは根っからの悪党だが、ジュリアンは長いものには巻かれろ的な子悪党である。二人はセラフィナから話を持ちかけられ、マフィアから金を奪って西部へと逃げ出した。ダミアンにはその時から懸賞金がかけられているが、ここ数年は子飼いの異常生命体と共に暴れた結果、その頃の懸賞金に激しい上乗せがされている。
ダミアンは重々しい足取りでジュリアンの前に立つと、低い声で言った。
「俺が行こう。いい加減、その生意気な連中を始末してくる」
セラフィナは、ダミアンの言葉に小さく頷いた。
「頼むわ、ダミアン。食料の件も、早急に解決したい」
「はっはっは!任せておけ。俺とグルートドラッヘならまとめて丸焼きにしてくれるわ!!」
ダミアンは、ニヤリと笑い、アジトの外へと歩き出した。彼の眼前からは、巨大な生物が蠢く気配が感じられた。
*****
一方、イートゥンを後にしたハワードたちは、キャリアカーで西部の荒野を再び進んでいた。見渡す限りの砂漠と荒野が広がっている。今のところは特にめぼしい反応もなく、次の大きな街へと向かって走らせていた。
キャリアカー「スヴァルニム・ジャーハーズ」の中で、運転手のヴィハン以外は後部座席に座り、ハワードが改めて旅の目的をガブリエルとジウメイに話していた。
「俺の目的は、あと二つのオリジンライトを見つけることだ。俺は刑期執行中の身でな、今は仮釈放されて1年の期限付きでオリジンライトを3つ見つける必要があるんだ。ああ、もう残り8ヶ月は切ってるな、ちくしょう。オリジンライトは残るは2つだ。一つは当てがあるが、今は多分無理だ。できれば、他の場所で2つ見つけるのがベターだが、当てはない。それまではヴィハンと一蓮托生ってこった。」
ハワードはガブリエルとジウメイに改めて告げた。ガブリエルは腕を組み、遠い目をしながら言った。
「中々に大変な仕事だな。西部は広しといえど、オリジンライトは誰もが血眼になって探しているからな。先に探せないと、後から権利を手に入れるのは不可能だろうしな。アウトローどもみたく、力づくってわけにもいかんだろうし」
ジウメイは、搭載されたスキャナーを見つめながら言った。
「この広い西部でオリジンライトを探すなら、スキャナーを強化するのが必須なのでは?今の性能では、広大な砂漠に埋もれた微かなエネルギー源を探し出すのは、至難の業ですよ」
ハワードは運転席のヴィハンに声をかけた。
「次はスキャナーを強化すっか、ヴィハン」
ヴィハンは静かに頷いた。
「ようやく、重要性に気づいてもらえたか。そうするとしよう。しかし、今回手に入れた9000万¥の報酬は、当面の生活費とデューンウォーカーのメンテンス費用としてプールしておく。手に入る資金を全て改造費に当てるわけにはいかんからな。各自で自由に使う金も必要だろうしな」
「報酬といえば、あのワーム、最後に逃したのはちょっと悔しいな」
ハワードはポツリと言った。
「そういえば、あの逃げた男、気になることを言ってたぜ。『ワイルドファング団がお前らを必ず殺してやる』〜みたいなこと。あれは何だったんだ?」
それを聞いたホイザーは、顔面を蒼白にして身を縮こまらせた。
「そ、それはワイルドファング団に目をつけられたということですよ、ハワードさん!ワイルドファング団には、あのダミアンもいるんですよ!ど、どうしましょう!?」
慌てふためくホイザーをよそに、ハワードは携帯端末を取り出し、ダミアンの懸賞金情報を調べ始めた。
「ダミアン…2億5千万¥か。結構な悪党だな。こいつは何を飼ってるんだ?」
ホイザーは震える声で答えた。
「熱線を吐くグルートドラッヘという巨大な龍を飼っています。二足歩行で鈍重ですけれど、あたり一帯を焦土に変えてしまう恐ろしい異常生命体です」
ハワードは端末のホログラム映像に映し出された、禍々しいシルエットの龍を見て、軽く笑った。
「なんだか、子供向けの番組に出てくる怪獣みたいなやつだな」
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