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011 ヴィハンの嫁

 異常生命体の金属ゴリラとワームの群れの襲撃を返り討ちにし、賞金首【破砕のジョー】を倒したハワードたち。商人のウィンディからも報酬を受け取ったハワードたちは、すぐさま東部寄りの海辺の街「イートゥン」を目指した。


 ハワードの乗るリーパーを先頭に立たせ、キャリアカーには鹵獲したジャガーノートを載せて砂漠を走る。新しく仲間にしたガブリエルもキャリアカーに同乗し、今か今かと町に到着するのを待ち構えていた。


 砂漠の先に海が広がっている。その先にとてつもなく巨大な船の残骸が見えてきた。その姿は、まるで大昔の巨人が空から落としたおもちゃのようだ。風雨に晒され、錆びつき、蔦が絡みついた船体は、それでもなお圧倒的な存在感を放っている。それは、はるか昔、人類が宇宙からこの星へと辿り着いた証であり、この街「イートゥン」の誇りでもあった。

 街は、この巨大な船の残骸に寄り添うようにして広がっている。船の影に隠れるようにして建てられた家々、船の残骸から切り出された金属で造られたと思われる建物、そして船の周りに群がるようにして人々が集まっている。

 不時着した移民船の巨大な残骸は、朽ち果てた今でも街のシンボルとして、人々に未来への希望の象徴として残り続けているのだった。


 時は遡り、そもそも、何故ハワードたちがイートゥンを目指したかというと、ヴィハンが急に言い出したことが原因だった。


「嫁を迎えに行こうと思う」


 いきなりのことで飲んでいたビールを吹き出すハワード。対面に誰もいなかったのが幸いだった。いきなりのことに面食らったのはホイザーも同じである。事情がわからないガブリエルは「そうなのか」と言うだけだったが、残りの二人はそうもいかない。


「お、おまえ!嫁なんていつ出来たんだよ!!俺しらねぇぞっ!?」


「えっ、えっ!?ヴィハンさんって結婚されてたんですか!?」


 二人の質問に極めて冷静に返事をするヴィハン。その落ちつきぶりは、敢えて言ったのではないかと勘ぐりたくなるほどだった。


「そうだ、2年前に結婚した。式は上げていないが、契りは交わした。ハワード、お前が収監されてたから知る由もない。今まで言わなかったことは謝る。言う機会がなかっただけだ。」


「普通、そんな大事なこと黙ってる訳あるか!?言えよ!どんな時でもいいから言えば良かったじゃんよ!!」


「言って、お前がいじけない保証は?」


「ない!?ないよ、そんな可能性!?ありえない!しね!!」


 あまりの感情のジェットコースターぶりに正気を失ったハワードを「まぁまぁ」と宥めるホイザー。「やはりな」と言わんばかりの表情のヴィハンの間にガブリエルは何が起きているのだと、目を白黒させている。


「それで、なぜ急に嫁さんを迎えにいくと言う話になったんだ?」


 唯一、客観的立場で話せるガブリエルが質問をヴィハンへ投げかけた。


「俺の嫁、ジウメイさんは俺よりも腕の良いエンジニアだ。大破したジャガーノートを修復、回収するにあたり彼女の手を借りたい。ついでに言えば、このキャリアカーの改修併せて行いたいし、何よりも機体が2体に増える。整備、補修は俺一人の手には余るからだ」


 そう言った理由で、彼らはここ海辺の街イートゥンへとたどり着いたのだった。


 イートゥンに到着したハワードたちを、一人の女性が出迎えた。彼女こそ、ヴィハンの妻であるジウメイだった。事前に無線で連絡を受けていた彼女は、街の入り口で待っていたようだった。外見は20代後半、ヴィハンと同じようにどこか浮世離れした雰囲気を持つ彼女だが、その瞳は澄んでいて、底知れぬ知性を感じさせた。


「ヴィハンさん、もう!今まで旅に連れて行ってくれなかったんだから、ちゃんと話を聞かせてもらいます」


 ジウメイは少しばかり不満そうな口調でヴィハンに文句を言いつつも、ハワードたちの後ろに積まれた二機のデューンウォーカーを見て、目を輝かせた。


「あら……!この大破した機体は、もしかしてジャガーノート!?東部の量産型の軍用機じゃないですか!!それに、もう一機は…!ヴィハンさん、あなたは本当にすごいわ!これって発掘モノですよね?私、初めて見ました!!」


 ヴィハンの妻であるジウメイは、ハワードたちが手に入れた二機のデューンウォーカーに、並々ならぬ興味を示した。その食いつきぶりは、久しぶりに見た夫を差し置いてかぶり付くように見定めている。


「この機体、6本足だけれど本来の足をくっつけるよりも、4本にしてその分を火力に集中した方が良さそう。いっそ、中途半端な機動力を捨てて火力に集中させた方がいい。火力支援機として射撃武器を備え付けて、砲塔を増設して。こっちの機体は元々の設計を弄りましたね。ウェポンラックにある巨大な剣とガトリングガンが元の武装ですか。今は高機動にものを言わせて高速振動刃のサイズで一刀両断するスタイルにした訳ですね。でもそれってやはり遠距離に対する決定的な弱点がありますね。それに単騎としては優秀でも、それだけではどうしようもならなくなるタイミングも出ますね。やはりジャガーノートは……」


 ジウメイは独り言のようにブツブツと喋りながら、両機に対する考察を重ねているようだ。そんなジウメイに対し、ヴィハンが何事もなさそうに話を続ける。


「ああ、今回は賞金首の報酬で1億5千万円も手に入ったんだ。この報酬を使って、この二機を完全に修復し、改造する。ジウメイさん、君の腕を頼みたい」


 ヴィハンがそう言うと、ジウメイはにやりと笑い、頷いた。


「任せてください!腕が鳴ります!でも、これだけの作業、しばらくここに泊まってもらう方がいいですね」


「わかっている。ただ、泊まれる場所は限られているから、俺とガブリエルはジウメイさんの工房で泊まり、ハワードとホイザーはキャリアカーで寝てくれ」


 ヴィハンはそう言って、ジウメイの工房へとハワードたちを案内するために歩き出した。


「いや!?ハッ!?いきなり何を言い出すんだお前はっ!?」


「仕方ないだろう。ジウメイさんの工房はそこまで広くないんだ。ガブリエルも久々に広い場所で眠りたいだろうし」


 ガブリエルはキャリアカーの中には泊まらず、ジャガーノートのコクピットの中で寝泊まりをしていた。キャリアカーが手狭になったことで元々、大型で単独運用を想定されたジャガーノートには広めのスペースがあり、大柄なガブリエルでも苦にならず寝られる空間があった。


「いや、俺のことは気にしないでくれ。それよりも、二人はいいのか?」


 ガブリエルがハワードとホイザーのことを慮って話すが、ヴィハンは意に介さない。


「今までも同じ屋根の下だったんだ、何も問題はなかろう」


「そう言われると、そうかもしれんが!そうじゃないんだよ!?」


 焦るハワードを横に、ホイザーは赤らめた顔でモジモジとしている。その姿を見て、さらにヒートアップするハワードだが、結局そのまま話が進んでしまうのであった。その光景を見たジウメイはヴィハンに問いかけた。


「あの二人は、その、そう言う関係なんですか?」


「いや、違う。だが、そう言うわけでもなさそうでな」


 そう答えた後、ジウメイは何かを理解したような顔でハワードとホイザーの顔をみてにんまりと笑顔を作った。



 その後、皆で夕食を近くの料理屋で食べた後、今までの旅の話をハワードがしたり、ヴィハンが時々補足を入れたりなどして夜がふけていった。最後にジウメイから修理は明日から始めると言うことでお開きになり、解散となった。


 その日の夜、キャリアカーに戻ったハワードとホイザーは、二人きりで静かな時間を過ごしていた。ホイザーは、どことなく落ち着かない様子でハワードに話しかける。


「あの…ハワードさん、私、本当に役に立ってますか?」


「どうしたん、急に?」


「街では、私は力仕事しかできなくて、おまけにケモだからって馬鹿にされることも多かったんです。ハワードさんたちの旅に、私がいて、本当に良かったのかなって…」


 ホイザーは耳を垂らし、不安そうな表情を浮かべる。ハワードはハンモックから降りて、そんな彼女の頭に優しく手を置いた。


「馬鹿言うなよ、ホイザーちゃん。俺は、ホイザーちゃんがいてくれるだけで嬉しいんだぜ。ホイザーちゃんは、俺たちの仲間だ。それで十分だ」


 ハワードの優しい言葉に、ホイザーは目から大粒の涙をこぼした。


「ハワードさん…ありがとう…」


 ホイザーはそのまま、安堵したようにハワードの胸に顔をうずめ、やがて静かに寝息を立て始めた。ハワードはそんな彼女の頭を撫でながら、静かに夜空を見上げていた。



 翌朝から改修作業が始まった。

 まずは、ハワードの愛機のロングバレルガトリングをキャリアカーの車体に取り付け、運転席から直接操作できるように改造した。これで移動中も、襲い来る敵に対応できるようになった。火器管制システムは安物の量産品だが、デューンウォーカーのものを流用した。


 次に、大破しているジャガーノートの修理、改造だ。ジウメイはまずは、ジャガーノートの元々のパイロットであるガブリエルから、どういったデューンウォーカーに乗っていたかをヒアリングする。


「元々は重量型の近接系で、敵に突っ込んでいって殴る、みたいな戦い方をしていた。だが、別にそれにこだわってもらう必要はないな。好きなようにやってくれ、それに合わせよう」


 ガブリエルがそう答えると、ヴィハンはうなづいた。


「ハワードの乗るブロンコも近距離系の機体だ。同じような機体が二体あっても、役割が被るだけだ。ジャガーノートは、射撃系の機体にする方がいいだろう」


「賛成です!それに、私ならもっととんでもないものが作れるわ!」


 ジウメイはそう言って、目を輝かせた。それを聞き、「とんでもないもの?」と呟いたハワードの言葉はその場で流されていった。


 ジウメイは、ジャガーノートを4本の足を持つ機体に変更し、全体的に分厚い装甲を配置した。さらに、4つの砲塔を作り、二つはマシンガンを取り付け、近距離向けの仕様に。残り二つは長距離用のミサイルポッドを装備させた。


「ヴィハンさん、ウェポンラックに余ってる両手剣がありましたよね?あれを改造して、パイルバンカー仕様にしたわ!」


 ジャガーノートのボディの下側にハードブレイカーの切先が見えた。いざという時に体当たりの要領でぶつかり、撃ち放つことができることらしい。


「何それずるいって!俺のブロンコも改造してくれよ!」


「はいはい、わかってます。大丈夫ですよ。」


 ジウメイはそう言いながら、家に余っていた余剰品を使って、ブロンコの出力向上と大鎌の改造を行った。特にサイズの刃部分からエネルギーを放出して刀身を形成する、より強力な近接機へと生まれ変わらせた。


 完成した機体を見て、感動に震えるガブリエルがいた。5mを超える大きさの軍用機をベースに、攻撃的な装備と強固な装甲で身を固めた姿は、再びデューンウォーカーに乗れる日が来たことに対し、感動を禁じえなかったようだ。


「ジャガーノートの名は捨てよう。恐れを知らないもの、と言う意味を込めてこれからはドレッドノートと呼ばせてもらう」


 ジャガーノートの修理が完了し、新たな機体は圧倒的な破壊力から、恐れを知らないものへと意味を込めてドレッドノートと名付けられた。

 ガブリエルは、新しく生まれ変わったドレッドノートを見て、感慨深げに語る。


「ジウメイ、ありがとう。ドレッドノート、これからは、僕の相棒だ」


 ジウメイとヴィハンは顔を見合わせ、満足そうに頷いた。ハワードもリーパーのコックピットからドレッドノートを眺め、新たな仲間、そして新たな機体の誕生を喜んでいた。


 旅の準備は順調に進み、スヴァルニム・ジャーハーズも大幅にパワーアップした。特に本体の出力を上げて、トレーラーをさらに大型化しリーパーとドレッドノートを同時に運べるようにした。上下に分かれていて、下にドレッドノート、上にリーパーを格納している。


「よし、これで旅の準備は万端だ!ヴィハン、次は何をする?」


 ハワードの問いかけに、ヴィハンは地図を広げた。


「賞金首となる異常生命体が、ここにいる。腕慣らしにはちょうどいいだろう。ガブリエル、お前も準備はいいか?」


「ああ!いつでも行ける!」


 ガブリエルは力強く返事をした。ホイザーも、この新しい仲間たちとの旅に期待を膨らませていた。


「ハワードさん、今度はどんな場所なんでしょうか?」


「どんな場所でも、俺が君を必ず守るからな!安心してくれ!」


「私も微力ながら、お手伝いしますね!」

今回の話を読んで、何か思ったことや感じたことがあれば是非ともコメントや感想を残してください。

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