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001 ハワード・ヒューズとブロンコ

ちょっと思いついたアイデアがあったので、見切り発車気味に投稿します。


今回の舞台は砂漠に覆われた世界で、転々と旅するロボットモノです。

連載は不定期気味になると思います。

 砂埃が舞う「ノーマンズランド」の片隅、どこにでもあるようなサルーン「ラスト・チャンス」には、今日も酒と煙草の匂いが充満していた。薄暗い店内の一角では、カードゲームに興じる一団がいた。その中心に座る男、ハワード・ヒューズは、普段はだらしなく、どこか頼りない雰囲気をまとっている。金髪はいつもボサボサで、着古した赤いコートは埃まみれだ。だが、その目はカードの動きを鋭く追っていた。

 

「ストレートフラッシュ、だな」

 

 ハワードは自信満々に手札を開いた。正当に勝てる、完璧な役だ。テーブルに並べられたチップは、彼がこの夜の勝者であることを示している。しかし、向かいに座る男の顔には、微塵も動揺が見られない。

 

「へへ、悪いな、坊主。そいつは俺の勝ちだぜ」

 

 男がニヤリと笑い、手札を広げた。そこには、ハワードの役を上回る、ありえないほどの役が並んでいた。明らかにイカサマだ。ハワードの積み上げたチップは、あっという間に男たちの山に吸い込まれていく。

 

「ちっ、こんなんやってられねぇよ」

 

 吐き捨てるように言い、ハワードは席を立った。だが、その瞬間、テーブルを囲んでいた悪党どもが、一斉に銃をハワードに突きつけた。カチャリ、とリボルバーのハンマーが起きる音が響く。

 

「どこへ行くんだ、ヒューズ。負け金は払ってもらうぜ?」

 

 悪党の一人が嘲るように言った。ハワードはフッと鼻で笑うと、ゆっくりと右手にはめていた手袋を外した。現れたのは、皮膚に刻まれたような、複雑な幾何学模様。それは、この星で「デューンウォーカー」と呼ばれる作業用ロボットを操るための、生体インターフェースの証だった。

 

「こ、こいつデューンウォーカーだっ!」

 

 悪党の一人が、恐怖に顔を引きつらせて叫んだ。その声は、サルーン中に響き渡った。

 

「売られたケンカは、買うぜ?」

 

 ハワードの言葉が響くと同時に、彼の体は光の粒子となって瞬時に消え失せた。転送だ。次の瞬間、サルーンの外から、余裕綽々とした声が響いてくる。

 

「どうした、さっきの威勢はどこいったぁ?」

 

 サルーンの中の悪党どもは震え上がり、互いに顔を見合わせた。その時、奥の部屋から、大柄な男がゆっくりと姿を現した。悪党どもが雇っている用心棒だ。

 

「俺が出よう」

 

 男の言葉に、悪党どもは安堵の表情を見せた。

 

「頼みますよ、先生!」

 

 サルーンのドアが開き、用心棒が外に出る。そこには、体長3mの巨大なデューンウォーカーが立っていた。それは、ハワードの愛機「ブロンコ」。作業用デューンウォーカーを戦闘用に改造した、彼の相棒だ。ブロンコは、その右腕に備えられたロングレンジガトリングガンを構え、用心棒を見下ろした。

 

「お前が相手でいいのか?」

 

 ブロンコのスピーカーから、ハワードの声が響く。用心棒は何も答えず、サルーンの隣に停めてあった5mはあろうかというデューンウォーカーに転送され、巨大な拳銃を二丁抜き放った。そして、有無を言わさず連射を浴びせかける。

 

 ダダダダダッ!

 

 鉛玉の嵐がブロンコの装甲板に叩きつけられる。しかし、ブロンコは特殊な金属でできた装甲でそれを全て受け止め、致命傷には至らない。

 

「終わりか?」

 

 余裕のあるハワードの声が響く。用心棒が息を飲む間もなく、ブロンコのロングレンジガトリングガンが唸りを上げた。

 

 ガガガガガガッ!

 

 凄まじい勢いで放たれる弾丸が、用心棒の乗るデューンウォーカーを襲う。装甲が剥がれ落ち、ワイヤーが千切れ、火花が散る。あっという間に、用心棒のデューンウォーカーはフレーム以外、全て破壊し尽くされた。

 

「参った!」

 

 丸腰同然になった用心棒が、両手を上げて叫んだ。ハワードはブロンコをゆっくりと用心棒に近づける。その時、ニヤリと笑うと用心棒は懐からグレネードを取り出し、ハワードに向かって投げつけた。

 

「やっぱり、悪党の仲間は悪党だねぇ。」

 

 ハワードは呆れたように言い、ブロンコの装甲でグレネードを受け止めた。爆発音と共に衝撃が伝わるが、ブロンコはびくともしない。

 

「な、まさかグレネードも効かねぇだと!?」

 

 用心棒は顔を青ざめさせ、後ずさりした。

 

「それじゃ、お終いだな。」

 

 ハワードはそう言って、ブロンコのガトリングガンを用心棒のコクピットに狙いを定めた。用心棒は観念したように両手を上げて降参した。

 

「さぁて、勝った取り分をもらうぜ。情報よこしな三下ども」

 

 ハワードの声が、荒野に響き渡った。


 

 ハワード・ヒューズ。彼は現在売り出し中の賞金稼ぎだが、その過去には元・賞金首という顔も持つ。4人の悪党を殺した罪で収監所に繋がれていたが、「オリジンライト」と呼ばれるあらゆるエネルギーの源となる鉱石を3つ見つけ出すという命令と引き換えに、シャバへと解放された。もっとも、期限は1年間。失敗すれば、収監所に逆戻りとなる。

 

 シャバに出て、情報に疎いハワードはサルーンのチンピラどもから情報を巻き上げようとしたが、なかなか上手くいかなかった。オリジンライトがあれば、この世の大抵のものは生成できる。それがあれば、街一つが興せる価値がある。そんなものの情報をそこらの三下チンピラが持っているわけもなかった。

 

「くそぅ、俺様の完璧な作戦だったが。粗があったか。」

 

 言ってる本人も、粗があることは理解しているが、それ以外のやり方を思いつかないのである。

 

 デューンウォーカーに乗りながら、別の街へと移動するか悩んでいると、目の前の路地から一人の女性が逃げ出してくるのが見えた。黒髪に黒目、肌は東洋系の美女で、ハワードの好みとは少し違ったが、間違いなく目を引く美しさだった。

 

「だれか、助けて!」

 

「待ちな、お嬢さん。俺で良ければ助けになりますよ。」

 

 もはや、脊髄反射の領域で助けに出るハワード。キザな伊達男を気取っているが、外には見えない。女性を追うのは、黒づくめのポンチョを被った男たちが3人。しかし、デューンウォーカーに乗っている相手となれば、男たちも慎重にならざるを得なかった。

 

「そこのデューンウォーカー乗り!その女は俺らガンパウダーファミリーから金をだまし取った悪女だ!てめえには関係ねぇ。すっこんでろ!!」

 

「えぇ、マジ?」

 

 途端にテンションが下がるハワード。意外に、順法意識は高いのだ。悪党が悪党を裁くだけなら、別にいいかなぁなどと考え始めている。

 

「助けてください!あいつらから金をとったのは本当。でも、病気の弟のためなんです。治療が終わったら返します!」

 

 女の必死の懇願に、ハワードは眉をひそめた。

 

「そういってるからさ、ここは引き上げてもらえない?俺からも頼むよ。」

 

「馬鹿いうな!ここで引き下がったらガンパウダーファミリーの名が廃るってもんだろうが。こいつが持ってったカネの3倍払えるなら、引き下がってやることも考えなくもないぜ」

 

「それ、マジでしょうね。渡した途端に嘘でしたー!はミンチ確定よ?」

 

 そういいつつ、ハワードはデューンウォーカーから降りてきた。その手にはかなりの額の金が握られていた。

 

「ほら、どんだけ持ってくのか知らんけれど、これで足りなかったら俺は知らん。」

 

「ほ、ほう。なら、これだけ持っていかせてもらおうか。これでチャラだ。その女は好きにしな。へっへっへ。」

 

 下卑た笑い声を上げながら、3人はそそくさと裏路地の奥へと帰っていく。

 

 残った美女とハワードは見合い、とりあえず自己紹介を始めた。

 

「俺の名はハワード。ハワード・ヒューズだ。デューンウォーカーに乗って、旅をしている。」

 

「私の名前はジア。近くのサルーンで働いてたけど、さっきの連中に連れていかれたから金だけ貰って逃げたところよ。」

 

「やっぱ、病気の弟は架空の存在ね。まぁ、そんなこったろうとは思ったけど。んじゃ、助かって良かったね。バイバイ」

 

 くるりと踵を返して、デューンウォーカーに乗り込もうとするところを黒髪の美女、ジアは腕にしがみついてとどめる。

 

「ちょっと、せっかく助けてくれたのに何もしないなんて野暮はなしよ。一晩ならサービスしてあげるわ。」

 

「え、マジで。やっぱ人助けしとくもんだな。」

 

 鼻の下をだらしなく伸ばすハワード。さっきのギャングに支払った額を考えれば順当、どころか全く足りてないのだがハワードはあまり気にしていない。

 

 近くの宿場に入り、一晩のお楽しみをする。お楽しみを終えたあと、気になることをジアに訊き出す。

 

「ところで、知ってたらで良いんだけどオリジンライトの埋まってそうな場所知らない?」

 

「オリジンライト?そんなもの探してるの?ここらにはないけれど、さっきのガンパウダーファミリーが牛耳ってるのなら知ってるわ。あいつら、法外な使用料を請求して、ここらで悪どく商売してるみたいだから。私はここに流れてきて1月だから、それ以上はあまり知らないけれどね。」

 

 情けは人の為ならず、ってどこのことわざだっけなと思いつつ、ガンパウダーファミリーから奪う算段を考えるハワード。

 

 とりあえず、キャリアカーに戻らないとそろそろ怒られるな、と思いここでジアと別れのキスをして去る。

 

「あなた、思ったよりもいい男だったわ。今度会ったらサービスしたげるわ。」

 

「そいつは嬉しいね。ぜひとも頼むよ」

 

 デューンウォーカーに乗りこみ、できるだけ静かに戻る。しょせん、駆動系が甲高い音を立て、動力源からは低い響き渡る音が出るので隠密行動にまったくむかないのがデューンウォーカーなのだが、そこは気持ちの問題である。

 

 キャリアカーに戻ると、案の定キレた男がいた。

 ヴィハン・メータ。インド系の見た目の男で、ハワードの友人でもある。ハワードが檻から抜け出せたのは、ヴィハンの恩恵も大きい。

 

 キャリアカーはデューンウォーカーの整備を一通りこなせる車両であり、文字通りにデューンウォーカーを運ぶこともできる。簡単なキャンピングカーの機能も付いており、基本的にはこれ1台で旅ができる。このキャリアカーはヴィハンの私物だ。

 

 ヴィハンは帰ってきたハワードをとっ捕まえると、捲し立て始めた。


「なにしてやがったんだ、おまえさん。今の今まで連絡にもでないで。まぁ、きちんとした理由があれば、不問にするがな。」

 

 ハワードはキャリアカーに戻るなり、ことの顛末をすべてヴィハンにぶちまけた。サルーンでのイカサマ騒動、デューンウォーカー戦、そして何より、病気の弟を装ったジアとの出会いと、病気の弟は嘘だった事、一晩のとても幸運な出会いがあった事を。


 ヴィハンは、ハワードの話を聞くにつれて、眉間の皺を深くしていった。

 

「馬鹿か、お前は!いや、お前は馬鹿だったよ!!」

 

 彼が吐き出した言葉は、まさに憤怒そのものだった。ハワードの無計画な行動、簡単に他人に金をくれてやる癖、そして何よりも、正体不明の女に引っかかったことへの苛立ちが、その声に滲む。ヴィハンは両腕を組み、頭を悩ませる仕草を見せた。


 ハワードはそのまま、ガンパウダーファミリーがオリジンライトの情報を握っている可能性について話した。

 

 ハワードがオリジンライトという言葉を口にした途端、ヴィハンの態度は一変した。それまでの怒りはどこへやら、その目に鋭い光が宿る。

 

「オリジンライト、だと?」

 

 ヴィハンの声には、明確な関心がこもっていた。

 

 ハワードは、ガンパウダーファミリーが悪辣なショバ代やシノギ、さらには薬や人身売買にまで手を出していることを説明した。その話を聞くヴィハンの表情は、次第に険しくなっていく。オリジンライトが彼らの手にあるのなら、どうにかしてそれを奪えないか。二人の頭の中では、同じ思惑が渦巻いていた。

 

 しかし、その道のりは決して平坦ではない。もしガンパウダーファミリーがオリジンライトを正当に所有していると主張すれば、法の目をかいくぐってそれを奪うことは極めて難しい。彼らは表向きは商売人であり、違法な手段に訴えれば、ハワードは再び牢屋送りに逆戻りだ。

 

「かといって、このままにしておくのも後味が悪い…」

 

 ハワードは独り言のように呟いた。街全体に漂う貧しさが、彼の胸に重くのしかかっていた。ガンパウダーファミリーによる富の独占が、この貧しさの一端を担っているとしたら、法を破ってでも彼らの悪事を止めるべきではないのか?ハワードの心の中で、正義感と、与えられた使命、そして彼の根底にある調和を求める気持ちが複雑に絡み合った。この街の現状を見る限り、彼の順法意識は揺らぎ始めていた

 

「何か、よほどの悪事の現場を押さえることが出来れば良いんだが……」

 

「ちょっと潜入してこようか?」

 

 ハワードの言葉に、ヴィハンはため息をついて言った。

 

「だが、デューンウォーカーを持っては入れまいよ。」

 

 さすがに悪党の家にデューンウォーカーに乗ってはいる事は出来はしまい。かといって、生身で行って無事出てこられる保証はない。

 

「そこはそこ、考えがあるから。」

 

 ハワードはニヤリと笑った。

 

 翌日、ハワードは「昨日、取られたカネを取り返しに来たー」といったらチンピラ10数人に囲まれてなすすべもなく縛り上げられて屋敷の中へと入っていくことに成功した。

 

 ハワードは潜入に成功した。少なくとも、ハワード視点では。

 ガンパウダーファミリーの屋敷は、外から見ればそれなりに立派な構えだったが、内部は想像していたよりもずっと平凡な悪党の巣窟だった。彼の頭の中にあったのは、もっと巧妙で、もっと裏があるような、複雑な悪の組織のイメージだったのだが、現実は違った。

 

 失望が胸をよぎる。

 

 不適切なショバ代の徴収、街の住民から搾取するシノギ、裏では薬物の取引にも手を染めている。そして、最悪なことに、人身売買まで行っていた。まさに、悪党がやるべき悪事の「全部盛り」だ。どこからどう見ても、絵に描いたような悪党っぷり。

 

「ちっ、思ったより普通じゃねぇか」

 

 ハワードは心の中で毒づいた。潜入の際に、手持ちの銃などは当然のように没収された。だが、それは織り込み済みだ。彼には、この状況をひっくり返すための、とっておきの「秘策」があった。

 

 彼は屋敷の奥へと進み、最も広々とした、おそらくファミリーの集会所か、あるいは私的な闘技場のような場所を見つけた。そこで、彼はポケットから通信機を取り出し、ヴィハンに連絡を入れる。

 

「ヴィハン、聞こえるか?作戦変更だ。今から言う座標に、ブロンコをぶち込んでくれ。豪快にな!」

 

 通信の向こうで、ヴィハンの呆れたような声が聞こえた気がしたが、ハワードは構わず通信を切った。彼は屋敷の中央へと進み、悪党どもに囲まれるようにして、自ら身を縛り付けさせた。悪党たちは彼の行動を嘲笑したが、ハワードの顔には不敵な笑みが浮かんでいた。

 

 そして、その瞬間は訪れた。

 

 けたたましい轟音と共に、屋敷の天井が砕け散る。砂塵と瓦礫が降り注ぐ中、巨大な影が空から舞い降りてきた。それは、ハワードの愛機、体長3mのデューンウォーカー「ブロンコ」だ。ヴィハンが操るキャリアカーから、文字通り「ぶち込まれた」のだ。ブロンコは、ハワードが縛られている場所から半径15m以内、まさに彼の転移射程圏内に着地した。

 

 悪党たちの驚愕の叫びが響き渡る中、ハワードの体は光の粒子となってブロンコのコクピットへと転送される。

 

「転送完了だ!悪党ども、かかってきやがれ!!」

 

 ガンパウダーファミリーにも、3体のデューンウォーカーがあった。屋敷の中という、通常では考えられない場所で、巨大なロボット同士の銃撃戦が始まった。ファミリーのデューンウォーカーがライフルやショットガンで攻撃を仕掛けるが、ブロンコの特殊金属装甲には軽い傷しか与えられない。逆に、ブロンコのロングバレルガトリングガンが唸りを上げ、順当に悪党のデューンウォーカーをなぎ倒していく。


 ロングバレルガトリングガンが弾を吐き尽くし、ハワードがあたりを見渡していると屋敷の奥から瓦礫を退けながら向かってくる一機のデューンウォーカーがいた。


「テメェ!よくもやってくれやがったな!どこの組みのもんだ!!ここがガンパウダーファミリーの屋敷だってわかってやってんのか!?」


 ハワードは涼しい顔で言ってのける


「知らん。というか、知っててもここは潰しに来たけどな。」


「な、なんだとぉぁ!?舐めやがって!!その獲物はもう弾切れだろう、この俺様、ブッチ様がこいつでテメェをミンチにしてやるぜ!」


 巨大なハンマーを持ち上げて走り寄ってくるブッチのデューンウォーカー。


「あ、そう。そろそろこっちも到着するはずなんだがな。そこ、いると思いっきり危ないから退いたほうがいいぜ。」


 そう言って、ブロンコに耳を澄ます仕草をとらせるハワード。つられて、外部マイクの収音率を上げると空と思わしき方向からヒュルルルルと何かが空を裂いてくる音が聞こえる。ブッチは反射的に走っているのを止めて、後ろに思いっきり跳躍させる。


 ドスンッ!


 超重量級の落下音をさせてブッチのデューンウォーカーがいたところに、彼が振り回そうとしているハンマーよりも遥かに巨大なものが地面へと突き刺さっていた。


「ナイスタイミングだぜ、ヴィハン。」


 コクピットの中で呟いたハワードはブロンコをその物体に近づけさせると、上部の握り込める部分を両手で握り、上へと引き抜いた。そこに現れたのは4mを超える長さの巨大な両手剣だった、途方もなく長く、分厚い刀身を持っている。その質量だけでも、ブッチの持っているハンマーに引けを取らないと思われた。


「な、なんだ、そいつは!いや、そんな獲物持って振り回せるわけがねぇ!!ハッタリでこの無法者の世界ノーマンズランドを渡り歩けると思ったら、大間違いだぜっ!」


「俺のロングバレルガトリングを見てから言ってるなら、大したもんだ。見て驚きな、俺の愛剣。重量1000kgを超えるハードブレイカーだ。」


 重量を感じさせながらも、それを縦横に振り回しながら近づいてくるブロンコ。対するブッチも己を奮い立たせてハンマーを両手で持つが、ハードブレイカーの前では、まるで普通のトンカチを両手で持っているような印象すらある。


 先手必勝とばかりに、デューンウォーカーを走り出させてブッチはハワードの乗るブロンコの方へと駆け寄る。ブッチは思いっきり振りかぶって、渾身の一撃をブロンコへと叩き込んだ。

 激しい金属同士のぶつかる音があたりに響く。


「へっへっへ、言うほどのことじゃ……。何ぃッ!?」


 フルスイングで叩いたのは、ブロンコの装甲ではなくいつの間にか機体の前に構えた刀身で防御をしていたハードブレイカーに叩きつけられた音だった。


「そらよ、とっつぁん。お返しだぜ!」


 一歩引くと、ブロンコは空いた空間にハードブレイカーを突き込んだ。咄嗟にハンマーで叩きつけて軌道を逸らそうとするが、その軌道はびくともせずにまっすぐに搭乗席へと突き込まれた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」


 ブッチが意味不明な叫び声を上げる。紙一重で、搭乗席の上部のみを貫き、デューンウォーカーの上半身フレームごと破壊していく。ブッチは自分の頭の真上を通り過ぎていく巨大な金属塊の風圧を浴びて、恐怖した。両目がぐるりと周り、そのまま意識を失う。


「あ、もったいないことしたな。まぁ、いいか。どうせ、他のデューンウォーカーのフレームもバラバラにしちまったしな。」


 ハワードが言って、周りを見渡す。先のガトリングガンによる破壊の爪痕は散々たるものだったが、あちこちから呻き声が聞こえてくる。どうやら、奇跡的なまでに死んだものはいないようだった。

 ブッチの乗っていたデューンウォーカーも上半身が飛び散り、コクピットから青空が見える状態になっていたが、ブッチ本人はあまりの恐怖に泡を噴きながら気絶をしているだけだった。


 とりあえず、終わったとばかりにハワードがキャリアカーで待っているヴィハンへ向けて連絡をよこした。


「ヴィハン、聞こえるかー?とりあえず、悪党どもはとっちめた。あとは上手くやってくれ。」


 その声に、疲れた声色を滲ませてヴィハンが応答する。


「また、雑に解決したな。了解した、あとはこちらに任せろ。お前は面倒ごとを起こす前にキャリアカーに戻ってこい。ガトリングを拾ってくるのを忘れるなよ。」


「アレェー?俺様、何か問題児っぽく扱われてませんー?」


「問題児の自覚がなかったとは言わせん。現地に連邦保安官を向かわせるように手配した。オリジンライトの所有権だが、競りに賭けられるだろうが、こちらの背後にいるものが何か分かれば、他の連中が競り落とすのを放棄してくれるだろうよ。仕事は終わりだ。とりあえず、一つ目だな。それじゃ、早く戻ってこいよ。」


 そう言って、通信を終えるヴィハン。キャリアカーの中では彼がタブレットを操作して、保安官の応答の途中で用は済んだとばかりに切った。思ったよりもオリジンライトの発見が遅い。このままでは、期限の1年間の中で残り2つを見つけることができるかどうか。【連帯保証人】になっているヴィハンはこめかみを揉んだ。こればかりは、自分たちの運しだいだ。


 ヴィハンが考え事をしていると、キャリアカーにハワードがブロンコをドッキングさせた合図が点灯した。ヴィハンはキャリアカーのコンソールを操作し、デューンウォーカーをロックさせると、ハワードがキャリアカーに入ってくる。


「とりあえず、ようやく一つ目ってところか。」


「ようやく一つ目だ。」


 そう言いながら、キャリアカーを発進させる。長居して連邦保安官に目をつけられると面倒だ。通りすがりの正義の味方が、悪党退治した。という体で行った方が面倒ごとがなくていい。今回のような悪党だが、賞金がかかってない相手にやったことは、明らかな違法行為だ。それに一応、釈放されているとはいえ、4人殺しているハワードは痛くもない腹を探られることになる。そう、面倒ごとはない方がいいのであった。


 自分がしたことは分かっているハワードも、ここでとやかく言うことはない。何気ない調子で、いつも通りにヴィハンへと尋ねた。


「次はどこいくよ?」


「とりあえず、西側だな。あちらには手付かずのオリジンライトがあるかもしれん。とりあえず、近くの街へ寄って食料と水の補給だな。この間みたく、面倒ごとは起こすなよ?」


 釘を刺すようにヴィヘンはハワードへ言った。


「分かってるって。大丈夫、大丈夫。次は問題ないって。」


 気安い返事を返すハワードに対し、懐疑的な視線を向けながらヴィヘンはキャリアカーのハンドルを切り、荒野を西へと走らせていった。


今回の話を読んで、何か思ったことや感じたことがあれば是非ともコメントや感想を残してください。


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