第8話『癒しの笑顔に隠された過去──ノアと“あの日の花”』
今回は、癒し系・ノアの回です。
いつもやさしくて、誰かのために微笑んでいた彼女。
でも、本当は「選ばれなくても笑っていたい」と、自分を押し殺してきたのかもしれません。
笑顔の裏にあった“静かな本音”に、翔矢がどう向き合うのか。
心にじんわりしみる回です。
「翔矢くん、お花……好き?」
昼下がりの庭。ノアは、手に小さな花束を抱えて微笑んでいた。
「……まぁ、嫌いじゃないけど。
それ、どこから持ってきたの?」
「裏の原っぱにね、咲いてたの。薄紫の、すごくきれいなやつ」
彼女が差し出したのは、藤のような色をした可憐な花だった。
翔矢の目が一瞬だけ見開かれる。
──それは、幼い頃に母と訪れた公園で、初めて自分で摘んだ“思い出の花”だった。
“そのときの推し”が言った言葉──
「この花、翔矢くんに似合ってるね」
たった一言なのに、ずっと胸に残っていた。
翔矢は、そっとノアの隣に座る。
「なあ、ノア。
……いつも笑ってるけど、怖くないのか? 選ばれなかったらとか」
ノアはしばらく黙っていた。
「……怖いよ。
だって、選ばれなかったら……もう、翔矢くんに会えなくなるかもしれないから」
声は震えていた。
「でもね、悲しい顔を見せたくないの。
翔矢くんには、笑っててほしい。だから、わたしも笑うの」
「……それって、“強がり”ってやつだろ」
翔矢の言葉に、ノアは小さく首を振る。
「違うの。
わたしは、翔矢くんに“あったかい記憶”を残したいの。
例え、忘れられてもいいから」
涙が、ノアの頬を伝う。
翔矢は、そんな彼女を、そっと抱きしめた。
「忘れるわけないだろ。
こんなやつ、いるわけないだろ……」
空に、光の粒が舞う。
風が優しく吹き抜け、花びらがふわりと二人の肩に舞い降りた。
その花は──
確かに、翔矢の“記憶の中”と、同じ色をしていた。
読んでくれてありがとう。
ノアのやさしさは、優しすぎて、切なくなるやさしさでした。
次回はカナ回。
「守る」と「愛する」の違いに気づいてしまった、騎士の少女の本音が描かれます。