表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/20

第6話『クールの仮面──ユイが壊れる日』

感情を“バグ”と呼んでいたクール系ユイ。

でも、翔矢と過ごすうちに、自分の中で何かが揺れ始めていきます。

今回は、無表情だった彼女がはじめて見せる“涙”と、その理由に触れる回です。

「ここ、落ち着くでしょ」




リリィに案内されたのは、屋敷の離れにある、静かな和室だった。


障子から差し込む光、畳の匂い、木の床を打つ風の音。


どこか、懐かしい。あの“古い街”の喫茶の離れみたいな──




そこに、ユイはいた。


背を向けて、床に正座し、じっと湯呑みを見つめていた。




「……話しかけないで」




そう言うけれど、翔矢は黙って隣に腰を下ろす。




「抹茶、飲む?」




「飲む」




湯呑みを受け取る手は、少し震えていた。







しばらく、言葉はなかった。




でも、その沈黙が、心地よかった。




「ここに来てから、よく夢を見るの」


ユイがぽつりとつぶやいた。




「夢?」




「誰かに、手を引かれてるの。


坂道を登って、城跡みたいなところで、笑ってるの」




「……それ、たぶん俺だな」




「わかってる。だから、余計に腹が立つの。


そんなの、データにない。記憶にもないのに……“あった気がする”なんて、バグよ」




その声には、怒りでも悲しみでもない、戸惑いが混じっていた。







「……感情って、厄介ね。


好きかどうかなんて、数値で示せない。


それでも、どうして……私、こんなに、あなたのことが……」




言葉が詰まる。




ユイは顔を伏せ、唇をかみしめた。




その肩が、小さく震えていた。




翔矢はそっと、湯呑みを置き、彼女の手に自分の手を重ねた。




「大丈夫。バグじゃない。


それが“心”ってやつだから」




ユイの頬を、一粒の涙が伝った。







その夜。




縁側で一人、ユイは空を見上げていた。




「……好きよ。認めたくないけど。


でも、それでも、あなたが誰かを選ぶなら……」




彼女の影が、夜の霧にゆらりと揺れる。




──感情を知ったことで、クローンたちはさらに不安定になっていく。


最後まで読んでくれてありがとう!

涙を「必要ないもの」としてきたユイが、それでもこぼしてしまった涙。

感情は迷惑じゃない──その言葉が、彼女の救いになっていればいいなと思います。


次回はギャル・リオの回!明るさの裏にある“繊細さ”に触れていきます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ