第6話『クールの仮面──ユイが壊れる日』
感情を“バグ”と呼んでいたクール系ユイ。
でも、翔矢と過ごすうちに、自分の中で何かが揺れ始めていきます。
今回は、無表情だった彼女がはじめて見せる“涙”と、その理由に触れる回です。
「ここ、落ち着くでしょ」
リリィに案内されたのは、屋敷の離れにある、静かな和室だった。
障子から差し込む光、畳の匂い、木の床を打つ風の音。
どこか、懐かしい。あの“古い街”の喫茶の離れみたいな──
そこに、ユイはいた。
背を向けて、床に正座し、じっと湯呑みを見つめていた。
「……話しかけないで」
そう言うけれど、翔矢は黙って隣に腰を下ろす。
「抹茶、飲む?」
「飲む」
湯呑みを受け取る手は、少し震えていた。
しばらく、言葉はなかった。
でも、その沈黙が、心地よかった。
「ここに来てから、よく夢を見るの」
ユイがぽつりとつぶやいた。
「夢?」
「誰かに、手を引かれてるの。
坂道を登って、城跡みたいなところで、笑ってるの」
「……それ、たぶん俺だな」
「わかってる。だから、余計に腹が立つの。
そんなの、データにない。記憶にもないのに……“あった気がする”なんて、バグよ」
その声には、怒りでも悲しみでもない、戸惑いが混じっていた。
「……感情って、厄介ね。
好きかどうかなんて、数値で示せない。
それでも、どうして……私、こんなに、あなたのことが……」
言葉が詰まる。
ユイは顔を伏せ、唇をかみしめた。
その肩が、小さく震えていた。
翔矢はそっと、湯呑みを置き、彼女の手に自分の手を重ねた。
「大丈夫。バグじゃない。
それが“心”ってやつだから」
ユイの頬を、一粒の涙が伝った。
その夜。
縁側で一人、ユイは空を見上げていた。
「……好きよ。認めたくないけど。
でも、それでも、あなたが誰かを選ぶなら……」
彼女の影が、夜の霧にゆらりと揺れる。
──感情を知ったことで、クローンたちはさらに不安定になっていく。
最後まで読んでくれてありがとう!
涙を「必要ないもの」としてきたユイが、それでもこぼしてしまった涙。
感情は迷惑じゃない──その言葉が、彼女の救いになっていればいいなと思います。
次回はギャル・リオの回!明るさの裏にある“繊細さ”に触れていきます!