第5話:ツンデレの本音──レナの涙と東尾の坂道
今回は、ツンデレ代表・レナの回です。
強がりばかり言ってしまう彼女の奥には、ずっと隠してきた“本当の気持ち”がありました。
翔矢と過ごす“坂道のある町”で、その心が少しずつ動き始めます。
「ちょっと、どこまで歩くつもりよ、あんた!」
レナのツンとした声が背後から飛んでくる。
「んー、ちょっと風にあたりたくてさ。東尾の坂道、思い出したんだよ」
「は? なにそれ。知らないし」
翔矢はふと足を止めると、ぽつりとつぶやいた。
「……俺さ、東尾城跡の坂道にあるベンチ、好きなんだ。
小学校の頃、推しグッズ眺めて、将来アイドルのマネージャーになろうって夢見てたっけ」
「……ふーん。バカみたい」
そう言いつつも、レナは歩調を合わせて隣に立つ。
二人で並んで歩いた先、小高い丘の上にベンチがあった。
そこからは、どこか懐かしい東尾の街並みが広がって見えた。
「この世界、なんかリアルすぎて夢じゃないみたいだな」
「当たり前じゃない。痛いし、ムカつくし、恥ずかしいし……」
レナは言葉を濁したあと、小さくつぶやいた。
「……あんたに近づくと、ドキドキして苦しくなるのよ」
「え?」
「……べ、別に好きとか、そんなんじゃ……! ち、違うし!!」
「……いや、好きって言ってくれた方が俺は嬉しいかな」
「う、うるさいっ!!」
ぷいっと顔を背けるレナの横顔が、ほんのり赤く染まっていた。
その帰り道。
「……ねぇ翔矢」
レナが急に立ち止まった。
「私さ、本当は選ばれたいって思ってる。誰よりも、強く」
「……知ってるよ。俺、ちゃんと見てる」
レナの瞳に、涙が浮かんでいた。
「ずっと……怖かったの。
選ばれなかったら、私はなんのために存在してるのかって」
翔矢は何も言わず、そっとその手を握った。
「……ありがとう。こんな私でも、ちゃんと見てくれて」
その夜。
遠くの空に、黒い霧がゆらめいていた。
“選ばれない恐怖”が、ゆっくりとクローンたちを蝕んでいく──
お読みいただきありがとうございました!
レナが強くて不器用で、でもまっすぐだったこと、きっと伝わったと思います。
彼女の「選ばれたいけど、怖い」という想いは、最初に声を上げた勇気でした。
次回はクールなユイ。無感情の裏にある“ざわめき”が描かれます。