第4話:黒い七瀬、襲来──クローンが暴走する夜
今回はミカ(ヤンデレ)回です。
翔矢に一途すぎるその想いは、時に怖く見えるかもしれません。
でもその裏には、“選ばれなければ壊れてしまうほどの愛情”が隠れています。
揺れる心の奥を、ぜひ覗いてみてください。
月明かりに照らされた庭先で、翔矢は立ち尽くしていた。
目の前に立つのは──“七瀬あかり”そっくりの少女。
だが、その表情は冷たい。まるで怒りと憎しみに満ちているような。
「あなたの優しさって、誰のためのものなの?
結局、誰も選べないってことは……私たちを捨てるってことよ」
「お前……誰なんだ」
「私は、“選ばれなかった七瀬”」
そう名乗った少女は、薄く笑うと、ふっと消えた。
次の日。
屋敷内に漂う、奇妙な空気。
食卓では誰も言葉を発しない。
「ミカが……部屋から出てこないの」
ノアが不安そうに囁いた。
翔矢はミカの部屋の扉をノックしたが、返事はない。
扉の前に置かれていたのは、東尾市の観光パンフレットと古びたお守り。
「……これ、俺が昔、七瀬のライブで配ってたやつ……」
5年前、七瀬あかりが東尾市の観光大使になった時の野外ライブ。
翔矢が初めて“現地”で会えた日。
そのとき、翔矢が自作して配った「推し守り」が、ミカの部屋にあった。
そっと部屋の扉を開けると──
そこにいたミカは、壁に背を向けて膝を抱えていた。
「……捨てるんでしょ、私のこと」
「そんなわけ──」
「……だって、他にも私と同じ顔がいる。
ツンデレとか、クールとか、お姉さんとか。
でも私は……ただの“怖い女”だもん」
翔矢は近づき、そっと彼女の肩に触れる。
「怖くなんかない。
むしろ一番、俺のこと見てくれてるの……お前だろ」
ミカの肩がびくりと震える。
「……うそ。
でも、それ……言ってくれて、うれしい」
ミカがゆっくり振り向いたその瞳には、涙が溢れていた。
その夜。
遠くから、またあの声が聞こえた。
「──甘い言葉を吐くだけで救えると思ったら、大間違いよ」
翔矢は、拳を握った。
「ちゃんと、向き合っていく。全員と。……必ずだ」
お読みいただきありがとうございます!
ミカの「全部欲しい」「ひとりじゃいやだ」という叫びは、
本気で誰かを想うことの裏返しでもあります。
次回はツンデレ系レナ。お楽しみに。