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第五話 いざライブラリアンへ1

 翌朝――

 シェンとリャンメイが目を覚ますと、村はすでに活気に満ちていた。

 外から聞こえてくるにぎやかな声に誘われ、二人は音のする方へと向かう。

 村の広場では簡単な宴が開かれていた。

 二人を見つけた村人たちは笑顔で、やってきた主役を囲み、あちこちから歓声が上がる。

「村を救ってくれて、本当にありがとう!」

「せめてものお礼です。たくさん食べていってください!」

 焼きたてのパンに、山菜たっぷりのスープ、炙られた肉の香ばしい匂いが広がる。

 リャンメイは「わぁ!」と目を輝かせ、さっそく料理に手を伸ばした。

 シェンも無言で勧められた食事を口に運ぶ。

 ひとしきり食事を楽しんだ後、村長が穏やかな笑みを浮かべながら二人に歩み寄った。

「旅の支度も整えておいたぞ。わずかばかりじゃが、食料や水も持っていくといい」

「助かる」

 シェンは簡潔に礼を述べ、手渡された荷を肩に担ぐ。

 リャンメイは村人たちに向かって元気よく頭を下げた。

「本当にお世話になりました!」

 村人たちは笑顔で手を振り返す。

「気をつけてな!」

「また、いつでも来てくれ!」

 リャンメイは振り返って軽く手を振り、シェンは無言のまま歩き出す。

 朝日が昇る道を踏みしめながら、二人は次なる目的地へと向かっていった。

 そして、村がすっかり見えなくなったころ。

「シェンさん。荷物、貸してください。私が持ちます」

「……は?」

 シェンは思わず怪訝な顔をする。

 無理もない。彼が担いでいるのは、村でもらった食料や旅の荷物一式。

 簡易的とはいえ、決して軽くはない。

 それを自分の半分にも満たない体躯の少女が『私が持つ』などと言い出したのだから。

「は? じゃないですよ。早く渡してください」

「いや、お前……持てるか? これを」

 シェンが半信半疑のまま尋ねると、リャンメイは得意げに胸を張った。

「ええ。もちろんです。これから一緒に旅をするのでシェンさんには教えてあげましょう――」

 そう言うと、リャンメイは両掌を胸の前で合わせ、ゆっくりと捻るような動作をする。

 まるで、手のひらにある何かをすりつぶすかのように。

「――私の魔法を」

 リャンメイの言葉に呼応するように、彼女の掌から淡い光が洩れ始めた。

 それは瞬く間に輝きを増し、次第に形を成していく。

 そして、手が開かれるとそこにあったのは――

「……扉?」

 シェンは思わず眉をひそめた。

 彼の目の前に扉が浮いていた。

 頭を入れることができる程度の、小さな扉が。

「これが私の魔法『異空間に繋がる者(アザーワールズドアー)』です」

 どうですか! と書いてある顔を、シェンはじっと見つめる。

「……これも魔術か?」

「いいえ。これは魔法です」

 リャンメイは即答する。

 その強い否定に、シェンは苦虫を噛み潰したような顔をした。

「何が違うんだ……」

 「全然違います! 魔術は魔法陣や詠唱を使って魔力に形を与える技術で、修練すれば誰でも身につけられます。でも魔法は、生まれつきその人に刻まれた力。訓練ではどうしようもない、完全に先天的なものなんです!」

 力説するリャンメイが、シェンの顔を覗き込む。

 「……わかった。で? お前のその魔法と荷物がどう関係あるんだ?」

 その問いに、待ってましたと言わんばかりの笑みをこぼし、リャンメイは扉に手を掛ける。

 扉がゆっくりと開かれると、その向こうには――

「……なんだこれは」

 扉の向こうを見たシェンが思わず言葉を漏らす。

 そこに広がっていたのは、この世のものとは思えない、禍々しいほどに混沌とした色をした空間だった。

「この中に荷物を入れます。空間の維持に魔力が消費されてしまいますが、これ位の荷物ならあまり問題にならないので」

 そう説明しながら、リャンメイはシェンから荷物を奪い取ると、次々と扉の向こうへと放り込んでいく。

「あっ、毛布もある! 助かる~」

「……そうか」

 シェンは理解することを諦め、ただ彼女の選択に従う事にした。

 だが、ふと疑問が浮かぶ。

「……一つ聞いていいか。なぜわざわざ村から離れてから魔法を使う?」

 シェンの問いに、リャンメイの動きが一瞬止まる。

 わずかに表情が曇るが――

「……魔法って、あまり人に知られたくないものなんです」

 そう言って、彼女はすぐに笑顔を取り戻した。

 全ての荷物を空間に収納し終えると、リャンメイは扉を閉じる。

 次の瞬間、扉がふわりと光を放ち、そのままスーッと消えていった。

「これで大丈夫です。さ、行きましょう!」

 そう言うなり、リャンメイは軽快な足取りで歩き始める。

 向かう先は、岩肌がそびえる険しい山道。

「……不思議なもんだな」

 シェンはボソリと呟き、彼女の後を追って山道へと足を踏み入れた。

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