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 長い前説になりました。ここから本編のスタートです。大賢者アデル、勇者サミエル、聖女エバが登場します。なぜ勇者と大賢者が大罪人となったか、聖女は? お楽しみ頂ければ幸いです。

 尚、アインとセシルの冒険は続編で登場する予定です。

 僕はアイデン・カウフマンの日記を読み始めた。


 下級剣士のサミエルは農民出の三男だった。父親の農地を継げなくて冒険者になったサミエルは、歴史オタクだった。訪れた街に図書館があれば必ず立ち寄っていた。商人のアイデンも歴史オタクで図書館によく出かけていた。

 図書館好きのサミエルは、図書館の歴史書の場所をいつも訪れていた。

「よく一緒になりますね、僕はサミエル、冒険者です」

「アイデンです。僕は商人です」

「歴史が好きなんですか?」

「僕も歴史が大好きなんです」

「歴史オタクなんて珍しいですよね」

「確かに」

「サミエルさんは、どんな歴史が好きですか?」

「古代です」

「ほほう〜、それは何故ですか」

「僕は遺跡巡りが好きなんですが、古代文明のレベルは今よりも高いんじゃないかと思っています」

「僕もそう思っています」

「良かったら、食事に付き合いませんか?」

「いいですね〜」


 酒場でアルコールが回ってきた。

「アイデン、遺跡で地層を調べると、歴史が古いほど文明が進んでいるんだ。おかしいと思わないか?」

 アイデンがカバンから袋を出した。

「サミエル、これはなんだかわかるか?」

「お前、どこでこれを?」

「古い地層を掘り返したんだ。もう錆ているが、この引き金を引くと上の鉄が上がって落ちる。筒の前が穴になってるだろう。ここから鉄の球が出るんじゃないかと思うんだ」

「待てアイデン、部屋で話そう」



・・・・・・・

「なんだこれは、ただの日記じゃない。そもそも紙じゃない」

 おそらく超科学の記憶媒体なんだろう、とアインは思った。アイデンが実際に経験した体験、会話やその場の情景がアインの脳内に流れ込んできた。日記の数行の文字が数時間経過しているかもしれない。

「セシル?お兄ちゃんが日記を読み始めてどのくらい経った?」

「えっ、10秒くらい?」

「本当か?」

「だって読み始めたと思ったら、どのくらい経った?なんておかしいよ」

「悪い、気にしないでくれ」

 日記を読み始めと脳内の時間の流れと外部の時間の流れが違うのか。

「フ〜、読むのは疲れそうだ」




 サミエルの部屋で

「アイデン、ちょっと見せてくれ」

 サミエルがそおっと引き金を少し引くと撃鉄が少し動いた。

「確かに、ここを引くと上の鉄が上がる」

 サミエルがピストルを握って構えた。銃口の上に突起がある。

「ここに突起がある。構えてこの突起で照準をつけて撃つと、筒から鉄の球が発射される。そうとしか思えない」

「そうだサミエル、これが作られた時代は弓矢の時代じゃない。今の技術でこれは作れない」

「アイデン、物凄い物を持ってるんだな。尊敬するよ」

「サミエル、一緒に旅をしないか、遺跡を発掘するんだ」

「本当か?アイデン、よろしく頼む!」

 2人が固い握手を交わした。

 アイデンが商売、サミエルが食料調達と護衛をする旅が始まった。


 アイデンとサミエルの旅は海沿い、平地といった低い場所の歩きやすいルートではなくて、切り立った山脈、崖で地層の断面が見える場所があるルートを選択して旅を続けた。ゴツゴツした岩山の中腹に少し開けた場所があった。短い草が生えていて、そこだけ芝生の様になっていた。

「いい眺めだ。あそこ休憩しよう」サミエルが言った。

 サミエルが弓で獲ったうさぎを背中から降ろした。止め刺しをしてから内臓を取ってあるウサギの皮を剥いで、骨から肉を切り取った。先を尖らした枝で肉を刺した。

 アイデンは適当な大きさの石を周囲から拾ってきて円形に並べた。背中から縄で縛った太い枝の束を降ろした。細い枝と枯れ葉を火の魔法で燃やして、太い枝を燃やし始めた。サミエルから肉を受け取って炎の外側に刺した。


「アイデン、俺に見せてくれた古代の武器はどういう地層で見つけた?」

「山の崖地だ。山の上部に古代の皿や壺の破片が埋まっていた地層があった、その下に5mくらいの赤土があって、赤土の下の地層には錆びた金属の破片を含む地層があった。その下には今度は黒っぽい地層があって、その下には錆びた刀の破片が埋まっていた地層があった。出土品を含む地層と出土品含まない地層が交互に重なり合って、下の方の地層にそれが埋まっていたんだ。」

「長い歴史の中で何度も火山の噴火による溶岩や火山灰が堆積して、人間が生きていた証を覆い隠したんだと思う」

 アイデンが説明した。


「なあ、アイデン、高い山の中腹に見たことのない貝や魚の化石が埋まっていることがある。何億年かわからないが、はるか昔は海の中だったんだ。海だったところが隆起して山になり、平地だったところが深い海底に沈んだ、そういうことだと思う。はるか昔に文明があったとしたら、今はどこにあるんだろう?」


「海底には行けないから、古い地層の場所を探すしかないんじゃないか」


「オッ、肉がいい具合に焼けてるぞ」

 アイデンが枝に刺さった肉に齧り付いた。

「美味い、サミエルといると食事に困らないから助かるよ。ありがとう」

「お互い様だ。アイデンが商売してくれるから宿屋に泊まれれからな」

「サミエル、俺は前からこういう旅がしたかったんだ。お前に出会えて良かったよ」

「それは、俺も同じだ。恥ずかしいから、そんな事言うなよ」

「ハ、ハ、ハ、もう言わない」

「ハ、ハ、ハ、ハ」

 エンディングに出てくる映像だった。


 アインは日記を読むのを一時中断した。

「そうか、アイデンとサミエルは親友だったんだな」

「勇者と賢者にどうやってなったんだ?」

 アインはまた日記を読み始めた。アインは休み休み日記を読んだ。アイデンの人生を追体験している様だった。日記の読み方も段々わかってきた。早送りや停止、時間をジャンプしたり、巻き戻しができることがわかった。意識すれば、知りたいことだけ映像が出てくるのだ。


 ある日、

「ゴゴゴゴゴゴ」

「アイデン、地震だ、荷馬車を道の端に寄せろ」

「ガガガガ、ズシャ」

「地割れだ!」

 荷台の上のアイデンをサミエルが荷台に引っ張り込んだ。

「ガタガタ、ガッターン、バゴーン」

 地割れに馬車の荷台が落ちた。馬は吹っ飛んでいった。

 荷台は急斜面を滑るように落ちていった。多くの土砂の滝に乗ってどこまでも落ちていった。

 真っ暗な闇の中、2人は荷台にしがみついていた。

「アイデン、もうどのくらい落ちてるんだ」

「4、5日は落ちていると思う。もしかすると俺たちはもう死んでいるのかもな」

「普通死んでるだろう」


 それから何日も落ち続けた。

「サミエル、生きてるか?」

「アイデン、生きてるのか死んでるのか、わからん、でも喉が渇いた」

「何か飲みたいな」

 ズシャーー

「おい、止まったぞ」

 大きなカプセルの中で止まっていた。照明の光がついていた。カプセルから出て、階段を降りた。2人が天を見上げた。壮大な地下都市の空間にいた。上空は1000mくらいありそうで、300mくらいの高層ビルがいくつも建っていた。

 地面に矢印が光っていた。2人が這いずって矢印の上に乗ると、2人の周りに四角いスペースの光ができて、下から椅子が出現した。2人が椅子に座ると、2人を乗せて滑るように地面を移動していった。2人が進む道の両側が下からライトがついて、光の道を進んでいくようだった。壮大なビル群を走り、巨大な建物の中に導かれた。透明なガラスのチューブの中に入ると上昇していった。周りのビル、眼下にはいくつも光る道があった。

「俺達、死んで天国の門のところに向かっているのかもな」

「きっとそうだ。天国に行けるといいな」


 エレベーターが途中で止まり、光の地面は滑るように建物内部を進んで行った。いくつもの金属の大きな扉が自動で開かれて中に進んでいくと、両側を甲冑の騎士が立つ金属製の大きな扉が開いた。そこは光が明彩する機械に囲まれた大きな部屋だった。目の前に5mくらいの女神様が空中に浮かんでおられた。


「ようこそおいで下さいました。私はジンコウチノウのアテナです」

「神高知能のアテナ様」

「喉が渇いているので、何か頂けませんか?」

「かしこまりました」

 空中にプレートに載ったグラスが2人の前に飛んできた。2人が飲んだ。

「美味い」

「お二人ともお疲れのご様子なので、医療センターにお運びします」

 座っていた椅子がリクライニングシートになり、横たわると、透明のシールドが身体を包み安全ベルトで固定された。速いスピードでビルのフロアー、エレベーターを移動して、透明チューブの中を高速で移動した。医療センターらしきビルに吸い込まれるように入っていった。この都市にはエネルギーが供給されて様々な施設が稼働していたが、人間は1人もいなかった。フロアー内のナースステーションの前を過ぎると人間型のアンドロイドが立っていた。サミエル達の入った透明なケースが近づくと、全員が優雅な姿勢でお辞儀をした。2人が特別室に運ばれた。2人は急に眠たくなった。


「お気づきになられましたか?」

 サミエルとアイデンは何日も眠っていたと思った。急に覚醒した感覚だ。


 最初に訪れた女神のアテナが空中にいた。

「この都市は何なんですか?」

「何故地下にあるんですか?」

「都市の人達はどこにいるんですか?」

 サミエルとアイデンが次々に質問を浴びせた。


「この都市をご説明するにあたり、人類の歴史とこの都市の成り立ちをご説明します」

「後の人類が神代と呼ぶ時代、現在から約3億年前、この星に住む人類は高度な文明を築き、銀河系の他の星に資源を求めて勢力を拡大していました。しかし別の宇宙で高度な文明を築いた異星人の支配区域で、資源の獲得を巡り紛争状態になりました。数百年に及ぶ宇宙戦争で疲弊した人類の一部は、新たに居住する惑星を求めて移住船団を組織して旅立ちました。


 まるでスターウォーズのような戦闘シーンが立体映像に投影された。アンドロイドが操縦する戦闘機やAIにより自動操縦されている機体もあった。戦闘は、双方ともにAIによるものだった。新たな生存地を求めた移住船団が何代にも渡り組織されたが、ことごとく敵に破壊された。


 新天地を求めて宇宙を旅をする巨大なコロニーの映像が映された。直径数十キロの巨大な筒がゆっくり回転して重力を発生していた、筒の内部は人間と動物が生存する自然環境が整備されていた。この巨大なコロニーを護衛する戦闘艦の船団が幾重にも守りを固めていた。突然遠方から数十万の戦闘機が襲来した。鉄壁の防衛網だったが、敵の数が多すぎて撃ち漏らす戦闘機が防衛網を掻い潜って、戦闘艦の船団の内側に入り込んだ。戦闘機同士の戦いが繰り広げられた。遠方から敵の戦闘機の第二波が襲来した。船団の内側に敵戦闘機の数が増えていった。敵戦闘機の一機がコロニーを攻撃し始めた。防御シールドの外側に火花が散った。

 敵戦闘機の第三波が来た。戦闘艦隊の戦艦、巡洋艦に襲いかかった。戦艦の主砲は惑星攻撃用兵器だが、小さい戦闘機を攻撃する掃射砲の死角から敵戦闘機が執拗に攻撃を繰り返した。戦艦の防御シールドに数千発の核ミサイルが撃ち込まれた。爆発の衝撃波を防御シールドで防いでも数億度の熱線を防ぎきれなかった。戦艦が数千発の核ミサイルの一斉攻撃で太陽のように高温になり物凄い爆発を起こして消滅した。護衛戦闘艦の船団は核ミサイルの集中攻撃で消滅した。

 遠方から巨大な戦艦からなる船団が近づいてきた。主砲の一斉攻撃がコロニーに集中した。防御シールドは突破され、巨大コロニーは大爆発を起こして破壊された。爆発の後、コロニーの中の人類、動物、建物の残骸が宇宙に散らばった。


「我々人類が生誕したこの惑星に、敵は隕石爆弾を落としました。人類は地下に都市を建設してなんとか生存していました。しかし、核分裂の巨大な爆発で、この惑星は放射能に汚染されてしまいました。敵は惑星を消滅させるのではなく、罰として数億年の苦しみを与えるために惑星を汚染させた、と当時の科学者達は推測しました」


「大地、空気を汚染した放射能を、後の人類は「魔素」と呼びました。この魔素に侵された地上では人類は生存できません。残された人類のうち、支配者層と科学者達は他の星に移住する事を決定しました。しかし宇宙船で他の星に全員を移住させることができません。科学者達は当時の最先端の超テクノロジーを使い、異次元に空間を作り、生存するためのありとあらゆる物を異次元空間の貯蔵庫、「マジックボックス」に保管しました」


「残された人類は「マジックボックス」を利用して生き延びていました。数百万年が経過し何世代も経つ内に、徐々に魔素に順応できる人類の個体が出現しました。その者達は地上を目指しました。しかし地上では魔素を体内に取り込んだ強力な生物が闊歩しておりました。魔素を体内に取り込み、魔素をエネルギーにした動物を魔物と称しました」

「地上で生活することを選んだ者達をサポートするために、都市に僅かに残った科学者達は、神代の超テクノロジーを使い、魔素を利用した究極のボディアーマーを作ることにしました。数世代にわたる研究の結果、勇者の宝玉と聖女の宝玉を製造することに成功しました」


「勇者の宝玉を肉体に宿すと、ほとんど不老不死の超人になります。宝玉が肉体のダメージのHPと魔力を自動回復させ、宝玉に記録された天災級の魔法攻撃などを行使することができます。また魔法を増幅させる勇者の剣、絶大な防御力を有する勇者の盾が作成されました」

「聖女の宝玉は治癒に特化した宝玉です。欠損した肉体の再生、例え死亡しても頭部さえ残っていれば、肉体を再生させ蘇生の魔法を行えることができます。勇者と同様にHPと魔力のMPを自動回復させることもできます。聖女の装備に魔法の効果を増幅させる女神の杖、絶対の防御力を誇る女神の羽衣も作成されました」


「科学者達は勇者の宝玉と聖女の宝玉を1個づつ作ることで精一杯でした。生き残った科学者が少なくなり、最後に生き残った科学者は、宝玉の力は後の人類の脅威になると危惧して、宝玉の製造に関するデータを都市の人工知能の全てから消去させました。また、以後作成してはならないように人工知能の設定の変更が行われました」


「神代から研究された人類の叡智の結晶といえる、マジックボックス、勇者の宝玉、聖女の宝玉は誰の手にも渡されす保管されたままです。最後の科学者は、この都市まで辿り着けることのできる人間がいれば、この宝玉を渡すように命令して生命を閉じました」


 サミエルとアイデンの前に3つの宝玉と勇者と聖女の装備品が空中に出現した。

「アイデンどうする?」

「俺は商人だからマジックボックスが欲しい」

「俺は勇者の宝玉でいいのか?不老不死になれるぞ、本当にいいのか?」

「勇者はサミエルの方が向いているよ、気にするな」

「ありがとう、アイデン」


 サミエルが勇者の宝玉を胸の中央に置いた。胸の中に入って発光すると、勇者の紋章が胸に刻まれていた。

 アイデンはマジックボックスを左手の甲に乗せると、発光して紋章が刻まれていた。

「サミエル、これを渡しておく。飛翔の指輪だ」

 早速マジックボックスから出現させた。

「アイデン、どうやったんだ?」

「意識をマジックボックスに向けると膨大な物資と知識が流れ込んでくるんだ。自分の欲しい物を思ったら、マジックボックスの中に存在したから取り出した」

「勇者と聖女の装備をマジックボックスに収納してくれ。目立ちすぎだ」

「わかった。代わりにこの剣を持っとけよ。オリハルコンの剣だ」

「アイデン、御伽話の神様みたいだな」

「なあアイデン、これからどうする?」

「神代の遺跡都市は他にもあるんじゃないか」

「アテナ様、この都市以外に神代の都市はありますか?」

「まだ存在するかはわかりませんが、存在した時の所在を表した地図ならばあります。これです」

 折り曲がる金属でできた地図が出現した。

「数億年前の物です。現在まで極移動が2回、大陸も移動しているので地図で探すのは非常に困難です」

「しかし、これをお渡しします。都市の通信施設が稼働していれば電波を発信しているはずです。これは発信元の場所を示すナビゲーションマップです」

 もう一枚の金属ペーパーを渡された。

「ありがとうございますl。アテネ様。私達は地上に戻ります」

「また、いつでもいらして下さい。お待ちしております」

「サミエル、冒険の続きをしようぜ」

「おう、お前が相棒でよかった」

「では、失礼します。アテネ様」


 サミエルとアイデンの2人は地上を目指して飛び続けた。

「サミエル、俺は眠くてたまらん」

「わかった。俺が背負ってやる」

「悪いな」

「気にするな」


「サミエル、小便がしたい」

「おい、俺の背中でするなよ。休憩できる場所を出せないか?」

「サミエル、縦10m、横30m、奥行50mの空間を作れるか?」

「ちょっと待ってくれ」

サミエルが右手を手刀の形で空間を切った。

「土砂はマジックボックスに収納する。下に落とすとアテナ様に悪いからな」

 アイデンが左手で空間の土砂を収納して、次に白い大きな四角い箱を出現させ、空いた空間に収めた。

 2人がデッキに降り立つと自動扉が開いた。アイデンが中に入ってサミエルが続いた。内部は豪華な空間だった。20人が座れるリビングルーム。10人が座れるダイニングルーム、バーカウンターがあった。

「部屋を案内するよ」

「このスペースをサミエルが使ってくれ」

 寝室、執務用の机、本革らしいリクライニングチャア、応接セットの前に娯楽用の立体映像システム、バーカウンター、浴室にはお湯が流れて、シャワー、乾燥室、トイレなどの設備をアイデンがサミエルに説明した。

「風呂に入ったら、食事と酒を飲もう」

「わかった」


 アイデンが風呂から上がってリビングに入ると、サミエルが先にソファーに座っていた。

「悪い、あんまり風呂が気持ちよくて、遅れちまった」

「ちょっと待ってな」

 アイデンが左手を前に出すと、2人の人間が出現した。

「執事のトムとメイドのアリスだ。2人とも生体アンドロイドだ。人間そっくりだろう。神代の知識を持っているから、色々用事を頼むのに都合がいいし、俺の護衛も兼ねている。普段の用事はトムがサミエルの担当だ」

「トム、来てくれ」

 サミエルがトムの顔を覗き込んだり、頬を突いたりした。

「本当だ。人間にしか見えない」


「腹が減った。食事にしよう」

 アイデンが言った。

「メニューを持ってきてくれ」

「かしこまりました。マスター」

 アリスがニコッと笑って、可愛い声で返事をした。

 メニューがアイデンとサミエルに渡された。

「俺はこれと、これと、冷えたビールだ」

「サミエルはどうする」

「じゃあ、俺は、これと、これと、ビールにしよう」


「では、乾杯〜い」

「乾杯〜い」

「プハ〜、風呂上がりの後の冷えたビールは格別だぜ」

 アイデンが言った。

 サミエルがビールジョッキを見つめて、顔が曇った。


「なあ、アイデン」

「勇者は不老不死だろう?」

「さっき風呂に入ったら、ぬるかったんだ」

「俺は数日間、眠くならないし、腹も減らないし、小便や大便のしたくならないし、このビールもぬるい」

「多分俺は、ドロドロの溶岩に落ちても、吹雪の中にいても、宝玉の力でダメージや苦痛を感じないんだ。一定レベル以上の感覚を中和してしまうんだと思う。多分ビールやウィスキーを飲んでもちっとも酔わないんだ。そんなのは拷問だろう」

「不老不死だから、永遠に人間としての喜びを感じられないんじゃないかと思うと、俺は耐えられるんだろうか?」

「なあアイデン、マジックボックスの力で、俺から勇者の宝玉を取り出せないか?」

「地上では勇者のままでアイデンを守るよ、でもこうして安全な場所では普通の人間でいたいんだ」

「試してみるか」

 アイデンが勇者の紋章の左手を置いた。

「収納!」

 サミエルも胸から勇者の紋章が消えた。

「収納できたぞ!」

「本当か、ありがとう、アイデン!」

「じゃあ、俺はもう一度風呂に入ってくる」

 サミエルは冷えたビールを味わいたくて、もう一回風呂に入りに行った。


「フウ〜、いい湯だった」

「アリスちゃん、ビールくれる?」

「はい、マスター」

「ゴクゴクゴク、プッハ〜、アア〜、ビールが美味い」

「アイデン、勇者を交代できないか?」

「マジックボックスは俺が死なないと、外に出ないんだ」

「そうか、まあ普通の人間に戻れるなら、勇者でもいいか」

「俺を普通の人間に戻せるのは世界でアイデンだけだ。アイデンだけが頼りだ。これからもよろしく頼むな」

「おう、いいんじゃないか!」

 2人は数日間、未来の住宅の生活を満喫した。

 

「サミエル、飛行艇で次の街まで行こう」

 アイデンが左手をかざすと未来の飛行艇が出現した。タラップを上がり、アイデンは宿泊施設を収納して、穴の空いた洞窟に土砂を戻した。

「トム、運転してくれ」

「かしこまりました。マスター」

 飛行艇が一気に加速してトンネル内を飛んだ。トンネルを抜けると雲の上まで到達した。月が明るく飛行艇を照らした。機内にモニターがあった。夜間なのに地上が明るく見えて、画像を動かしたり拡大もできた。

「トム、上空で停止してくれ」

 地下都市が表示されているマップを出した。トムが飛行艇のナビゲーションシステムにリンクさせた。

「トム、1番近い地下都市に向かってくれ」

 現在位置から1000km離れた場所を目指して飛行艇が飛んだ。10分少しで到着した。

「近くの街に行って、見つからない様に森に着陸するんだ」

 森に着陸した。シルバーメタルの服装のトムとアリスをマジックボックスに収納した。

「ここから街まで飛翔リングで飛んで行こう」

 街に入り、灯りのついている宿屋に入った。

「2部屋、空いてますか?」

「1番高い部屋なら空いてます」

「お願いします」

「1泊朝食付きで銀貨1枚です」

「では2泊を願いします」

「銀貨4枚です。こちらが部屋の鍵になります」

 部屋には風呂はなかった。アイデンの部屋に2人が入った。

「サミエル、トムとアリスを一緒に冒険者登録しないか?」

「そうだな、その方が都合がいいだろう」

「いや、ちょっと待ってくれ」

「俺もアリスちゃんみたいに可愛い子がいいな、頼むアイデン!」

「やっぱり、そう言うと思ったよ。それでどんな子が好みだ」

「知的な美人で、肌は白くて、金髪で、目はブルーがいい」

「ウウウ〜ン、この娘かな」

 金髪の女の娘が出現した。

「オオオオー、ス、ス、素晴らしい!アイデン、ありがとう。生きる希望が湧いて来たぞ〜!」

「名前はヘレンにしよう。よろしくなヘレン」

「はい、マスター」美しい笑顔でヘレンが答えた。

「よかったなサミエル、収納」

「えっ、もう収納するのか?」

「宿に入った時、ヘレンはいなかったろう。もう寝るぞ、サミエル警護を頼むな」

「はいはい、明日は4人で冒険者登録をするぞ。楽しみだなあ」

 翌日、アイデン、サミエル、アリス、ヘレンは冒険者登録をした。

 パーティリーダーがアイデン、パーティ名を「インフィニティ・フォース」(永遠の力)として、各地を旅をして地下都市発掘を続けることにした。


 どこの地下都市も地上から1000kmも地下にあるので、さすがのアイデンとサミエリでも1つの地下都市を発掘し、調査するには数年を要した。

 20年が経過した。2ヶ所の地下都市を発掘して、Eランクだった冒険者はAランクになっていた。

 酒場で夕食を取っていた。

「アイデン、頼む宝玉を収納してくれ」

 サミエルがアイデンに近づいた。アイデンの手の平がサミエルの胸をポンッツと叩いた。

「さあ、飲むぞ〜。ヘレンちゃん、俺を守ってな!」

「はい、もちろんです。サミエル様」

 ビールの後、ウィスキーを飲んだ。

「ヘレンも飲め」

「はい、頂きます」

 ヘレンが飲むと酔いが回ったようになり、エロい表情になってきた。

「サミエル様、今日も可愛がって下さいね。チュッ」

「サミエル、お前、ヘレンに色々教え込んでるな?」

「ヘレンちゃんは頭が良くて、文句も言わずに、すぐに覚えてくれる。感情もあるし、俺は人間の魂が入っているんじゃないかと思ってるんだ」

 アイデンはマジックボックスに収められている情報で、ヘレンが加速度的に自己学習している事を知っている。


「アイデン様、私もヘレンの様にした方がよろしいでしょうか?」

「そうだな、サミエルを見ていると幸せそうだから、そうしてくれ」

 アリスがヘレンに人差し指を出した。

「ヘレン、情報交換したいの、データをくれる?」

「ええ、いいわよ」

 アリスとヘレンの人差し指が触れた。5秒ほど過ぎて指が離れた。データの相互交換が終了した。


「サミエル様は変態なんですね?」アリスが言った。

「そんな事ないわよ。普通よ。アイデン様が堅物なのよ」

 ヘレンが反論した。


「アイデン様〜、私にもお酒を頂けますか?」

「そこにあるだろう、自分で飲め」

「そんな〜、アイデン様に注いで欲しいんです〜」

「しょうがないな」

「トクトクトク」

「アン〜、アリス嬉しい〜」

(サミエルの教育って、ある意味すごいな)とアイデンは思った。


 インフィニティ・フォースは遺跡発掘の旅をしながら、都市、街、村を巡った。訪れなかったのは、後の人類が魔大陸と呼んだ濃度の高い魔素に汚染され土地には行かなかった。数億年の昔の旧古代から汚染された魔素の大陸で独自の進化を遂げた魔人、限りなく不老不死になり強大な魔法を駆使できる様になった魔人から進化した魔神、魔物から進化して不死の再生力を持つ魔龍、魔大陸に行けばこれらの生物と戦うには勇者の剣、勇者の盾を使いこなす勇者の超絶な力を行使しなければならないだろう。そうすれば、魔大陸の生態系を損傷、破壊してしまう危険があった。元々は人間も魔人も祖先は同じ人類だ。一方を殺していい理由にはならない。

 さらに、魔大陸はこの惑星に魔素を供給している。この惑星に生きている人間も魔素を体内に吸収して魔法を使っている。生物が魔素をエネルギーとして使用している。この惑星にとって、魔素は必要不可欠な存在になっている。魔素の供給源である魔大陸を破壊し損傷してはならない。勇者の力を制限しなければならないので、あえて魔大陸には足を踏み入れなかったのである。


 勇者は不老不死だが、アイデンは老化する。

「アイデン、俺を残して死なないでくれ、勇者の宝珠を体内に入れてくれ。勇者はマジックボックスを体内の入れる事はできないが、マジックボックスの所有者ならできるじゃないか?」

 サミエルは老人化するアイデンに、勇者の宝玉を体内に埋め込む事を頼んだ。

「わかった」

 アイデンはサミエルから勇者の宝珠をマジックボックスに収納して、それからマジックボックスから取り出した。そして勇者の宝珠を自分の胸に置くと、ゆっくりアイデンの胸に入っていった。

 老人のアイデンがサミエルの目の前で若返っていった。白髪が黒髪に変わり。ハゲている頭頂部に黒髪が生えていった。白く濁った目が澄んだ目に変わり、緩んで深い皺の顔が若々しい青年の顔に代わっていった。曲がった腰が伸びて、縮んだ身長が伸びていった。

 若い青年の時のアイデンがサミエルの目の前にいた。サミエルはアイデンを抱きしめた。

「良かったアイデン、本当に良かった。死ぬなんて思うなよ」

「ああ、マジックボックスは取り出せない。でもマジックボックスは俺が死ねば体内から外に出る。もしも俺が死んだらマジックボックスを受け取ってくれ」

「嫌に決まってるだろう!」

「勇者の力とマジックボックスがあれば世界征服は簡単にできる。人類を支配できる。マジックボックスの中には未来の武器やアンドロイドの兵士がいるんだろう? マジックボックスには究極の快適な空間があって、俺たちには忠実なアンドロイド達がいる。これ以上ない物を手に入れているんだ。世界征服をして、その後の面倒な政治や統治を俺達はしたくないんだ。俺達は冒険をして、人助けをして、酒場で飲んだくれて、そういう生活に満足している。でもさあ、俺1人じゃつまんないんだ。わかるよな、アイデン」

「そうだ、その通りだ。サミエル! 俺もこの生活が気に入っている」

「ごめん、老人になると身体が不自由になって、最近生きてるのが面倒になってた。もう死なないから心配するな」


 数百年が過ぎた。インフィニティ・フォースの冒険者登録は世界で唯一のS級になっていた。その下はA級が2組あるだけだ。いつのまにか、サミエルは勇者、アイデンは大賢者、ヘレンとアリスは神の使徒になっていた。各地の教会に像が建てられた。


「なあアイデン、聖女の宝珠があるけどどうする?」

「ああ、人類愛のある、慈愛で博愛の精神を持つ女性がいればいいが、私利私欲に使ったり、教会を作って変な宗教をして欲しくないよな」

「博愛の精神か、そんな女性がいればいいけど、いるのか?」

「気長に探すしかない」


 アインはここまで日記を読むとベッドで眠った、

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