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 僕の住む村の外れにある朽ち果てた廃墟に来た。一説では、この村は勇者の村ではないかと言われている。魔王を倒した勇者サミエルは、大恩ある王族に反旗を掲げ、王国から追放されて死んだ。歴史上の大罪人である。この廃墟はかつて勇者達一行を祀った教会だが、王国によって破壊されていた。

 僕は誰もこの廃墟に近づけないように、周囲にはシルバー、上空ではブラックに警戒させた。


「みーちゃん、行こうか」

 僕はポケットの中にいるみーちゃんに声をかけた。

 この教会の廃墟は物語の終盤になってから訪れることができる場所だが、今回は13歳の僕が踏み入れることができた。終盤のゲームでは、特別な宝を探して幾度となく訪れた場所だ。破壊されてはいるが地面は硬い岩盤でできていた。小高い丘の上の廃墟の横には便所だった場所がある。便所は風化はしているが破壊を免れた。糞尿があるので王族も破壊しなかったのだ。便所は倒れないように両側を岩で固定してあった。僕は大きな石で岩の一部を何度も叩いた。岩の表面が割れると長方形に白い石膏で固められていた。石で叩くとボロボロと石膏が崩れて鎖が現れた。僕は鎖を下に引いた。

「ゴゴゴゴゴゴ〜〜〜〜」


 教会の廃墟の場所に戻ると、岩盤でできた地面の一部が左右に開いて、下に続く石の階段が現れた。下に降りて行くと、左右の松明に魔法の炎が灯って明るくなった。階段の下まで来ると、また岩盤があって行き止まりだった。周りには何もないが、よく見ると天井に小さな穴があった。


「みーちゃん、天井の穴に入って中の紐を引いてくれる?」

「キュン」

 みーちゃんが紐を咥えて引いた。みーちゃんは小さいが身体強化で力が強くすることができるのだ。

「ゴゴゴゴゴゴ」

 岩盤が縦に光が走り、左右に開いた。みーちゃんが急いで戻ってきて、僕のポケットの中に入り込んだ。

「ありがとうな、みーちゃん」

 ゲームの世界ではヤモリのやっくんを連れてきていた。


 岩盤の扉を開けると玄関スペースになっていて、まるでステンレスでできているような金属製の扉があった。取手を回すと扉が開いた。

 扉の中は豪華な空間で、床に赤い絨毯が敷き詰められて、床の左右には金銀財宝が整然と置かれていた。普通の村人なら腰を抜かす場面だが、僕はゲームの世界で何回も来ているので、そのまま素通りした。

 奥まで歩くと木製らしき扉があり、中に入ると執務室になっていた。重厚で大きな机の上には宝石箱があり、ダイヤモンド、ルビー、サファイアでできた宝飾品が中に入っていた。机の引出しを開けると、中にも宝飾品がぎっしり入っていた。僕はゲームの記憶で、執務用のデスクの後ろに行って小さな引き出しを開けた。引き出しには宝石ケースの中に小さな鍵が入っていた。重厚なデスクの横にある馬鹿でかいダイヤル式の金庫がある。僕は記憶している番号に従ってダイヤルを左右に回した。勇者一行の大賢者兼商人、アイデン・カウフマンの妻の生年月日だ。

「カチャ」

 金庫の中身は金塊だが、僕の目的ではない。


 壁面の書棚の本の一部が光っていた。本を取り出してみると、奥に鍵穴のある縦長の扉があった。さっきの鍵を差し込んで回した。小さな扉を開けると、また鍵と名刺サイズの紙が入っていた。鍵にはマジック(magic)と文字があった。

 僕は目的を果たしたので、何も取らずに急いで外に出た。


 ゲームの世界で宝石を持ち出したことがあった。僕はお父さん達を廃墟に連れてきた。

「これは凄いな、勇者の宝があったんだな。よくやったアレン!」

 お父さんは宝石を街の宝石商に持ち込んだ。凄い大金になった。お父さんは村のみんなを呼んで、毎日どんちゃん騒ぎをした。

「みんな飲んでくれ、俺の奢りだ」

 毎日、宝石と金塊を街の宝石商、両替商に運びこむと、街でも大騒ぎになった。


 馬に乗った兵士の一団が僕の家に来た。

「お前がロダンか!」

「この者を捕えよ!」

 お父さんが大勢の兵士に張り倒されて縄で縛られてしまった。

「ロダン、お前は遺跡から発掘した宝石やら金塊を売り捌いているそうだな。しかしここは男爵家の所有地だ。遺跡も男爵様の所有地だ。男爵様の物を勝手に持ち出し、売り捌くとは、なんという罪を犯したのだ」

 お父さんは男爵様に捕えられ、牢屋に入れられた。

 そこで話は終わらない。教会と王家が横槍を入れてきた。王が男爵家に2000名の軍隊を派遣した。国の勅使が男爵の城に入城した。謁見の間で上座に勅使が座り、男爵は下で平伏した。勅使が男爵に言った。

「お前の領地は王が貸し与えた物である。その土地で発見された埋蔵物は王家に所有権がある」

「お前は王家に報告せず、埋蔵物の宝を自分の物として処分している。断じて許し難い」

「お前を死罪とし、男爵家を取り潰し放逐してもよいが、王にも慈悲の心がおありだ。お前が転地をして今後も王家に忠誠を尽くすならば助けてやりたい、そう申された」

「もったいないお言葉です。今後も王家に忠誠を捧げます」

「よろしい」

 勇者の廃墟を含むこの村は王家直轄領になった。僕たちと村人、街の宝石商もみんな牢屋に入れられて、持ち物を調査された。廃墟にあった宝石などの宝は全て王家に没収された。僕達家族は宝を発見して、王家に貢献したので命は助けられた。でも村や街の住民の目は冷たくなった。

「全くロダンの奴のせいで、とんだ迷惑だ。もう村から追放しよう」

「そうだ」

「そうだ」


 僕が宝石や金塊を持ち出したら、町中、国中で大騒ぎになって、結局最後には財産を王族に取られ、その後のストーリーがめちゃくちゃになって、僕だけじゃなくて家族全員が不幸になる未来しかない。

「ゴゴゴゴゴゴ」

「ゴゴゴゴゴゴ」

 何もなかった様に元に戻った。

「よし、ここからだ。勇者の商人”アイデン・カウフマン“の財宝を取りに行こう」


 僕はゲームの世界で大賢者兼商人の「アイデン・カウフマン」の財宝までたどり着いたことはない。勇者の廃墟の財宝が明るみに出たことで、僕達家族は村に居られなくなり、王都に行くことになる。ストーリーのどこかで既にセシルが死んでしまう。帝国が王国に侵攻して、僕達はその戦争に巻き込まれてしまう。僕は冒険者になって「アイデン・カウフマン」の財宝を探しに行こうとすると、ゲーム上の制限がかかって行く事ができなかった。


 ここは制限のあるゲームじゃない。ここから経験したことのない冒険をするんだ、そしてセシルを助けるんだ。勇者と聖女は、女神アテネから授かった勇者の宝玉と聖女の宝玉で不老不死になった、と言い伝えれれている。不老不死である勇者と聖女が亡くなったのは謎とされている。一説では王国を滅ぼし世界征服を企んだ勇者が女神アテネの天罰で死亡し、勇者の死を嘆き悲しんだ聖女が自害したとする説があるが、不自然なところがあり、世界の謎とされている。

 僕は勇者と聖女と行動を共にしたアイデン・カウフマンの財宝に手掛かりがあると思っている。聖女の宝玉を手に入れてセシルを聖女にする事ができれば、不老不死の聖女になったセシルが死ぬことはない。これが僕の目標だ。


 紙に書いてある財宝の場所は「契約の地」とあった。史実では隊商を率いたアイデンが魔物に襲われていたところを勇者サミエルが助けて、意気投合した2人が生涯の友として契りを結んだ場所が有名だが、僕は違うと思う。ゲームのエンディングの回想シーンでサミエルとアイデンが小高い岩場で肉を焼いて楽しそうに笑っている場所。その岩場を角度を変えてみるとゴジラの顔に見える、僕の中では「ゴジラの岩場」の場所こそが「契約の地」だと思う。わざわざエンディングの回想シーンに出ないと思うのだ。


 翌日からブラックに調査に行かせた。僕はベッドに横になり、上空を飛ぶブラックの意識にリンクさせた。ゲームのエンディングに出てくる伝説の勇者一行は今から2000年前のものだ。森林の大きさ、木々の高さ、川の位置は変わっても、山々の位置は変わらない。

「ブラック、そこの丘に降りてくれ」

 ゲームにある広場のように開けた場所がなかった。

「ウィンドカッターで木を切って見晴らしをよくしてくれ」

「バババババババ」

 回りを見渡すと、ここから見える山の位置と形がそっくりだった。

「おそらく、ここだ」

 岩場は草木が生い茂り、土砂が岩場を覆い隠していた。

「ブラック、土砂を吹き飛ばしてくれ、山は壊さないように少しづつ吹き飛ばすんだ」

「はい、お父さん」

「今日はここまでにしょう」

 僕はシルバーに乗って家に向かった。

「ブラック、鹿を獲って家に帰ってくるんだぞ」

「はい」


 翌日から勇者の商人”アイデン・カウフマン“の財宝の場所に向かった。ブラックが先に行って場所の上空を舞っていた。僕はポケットにみーちゃんを入れて、シルバーの背に乗って急いだ。

「あの岩場の辺りだ」

 岩場といっても周囲が100mくらいの小高い丘だ。周辺を歩いてブラックに言って土砂を払い除けた。小高い丘を登り、周りを何回も歩いて目印を探した。

「ない、全くない」


 ゲームのエンディングの映像を思い出した。石の階段らしき先に小さな黒い点があったことを思い出した。

「階段を探すんだ。風化する前の階段を想像するんだ」

 人間が歩いてちょうどいい傾斜の場所は1箇所しかなかった。急勾配でも、緩やかでもない、適度な傾斜の場所だ。岩が欠けたり、崩れていて、階段の形になっていない。階段を2mくらい上がって、大人の身長の胸の位置にスイッチの場所があるはずだ。

 階段らしき斜面を2mくらい登ると地面がやや平たい場所になった。

「ブラック、ここの土砂を吹き飛ばしてくれ」

「ヒュウウ〜」

「やっぱりここだ」

 地面に石板が敷き詰めてあった。その先に垂直な岩の壁があった。縦3m、横4mのゴツゴツした岩の壁があった。スイッチの場所は僕の身長では届かない。

「ブラック、太い丸太を台にしたいから持ってきて」

 ブラックがウィンドカッターで丸太を切って、前足のかぎ爪で持ってきて僕の前に置いた。

 僕は丸太の上に乗って、スィッチがありそうな岩を石で叩いていった。


「あった」

 石で叩くと、薄い岩が割れて白い石灰がでてきた。お父さんから借りたナイフで石灰を掘ると金属のレバーが現れた。右90度の位置のレバーを下に回そうとしたが、固くて回らない。

「ブラック、そおっと回して」

「ギギギギ」

 ブラックがクチバシで回したけれども何も起こらなかった。元の位置に戻した。こういう場合は他にもスイッチがあるはずだ。平面の床の真ん中を中心点として右側のスィッチの対照の位置の左側にも行って岩を石で叩いた。

「あった」

 ナイフで掘ってみると右側にあったレバーと同じものが現れた。

「明日、セシルを連れてこよう。2人ならできるはずだ」

「シルバーこの場所に誰も近づけないでくれ。僕たちは明日また来るから、頼むね」

「分かりました。お父さん」

 僕はブラックの広い背中に乗ってしがみついた。遠くの景色の動くスピードから、かなり速い速度で飛んでいると思う。20分で家に着いた。


 翌日、革のベルトで固定した背もたれ付きの革のシートをブラックに装着した。シートは2つ前後にあって、僕とセシルが乗るのだ。お父さんが作ってくれた。

「俺の自信作だ。ブラックはよく働いてくれるからご褒美だ」

 ブラックが地面に伏せた。シートには縄梯子がついていて、子供lでもブラックのシートまで登れた。セシルを前に僕は後ろに乗った。ブラックはプライベートジェットくらいの大きさで、下半身はライオンで台座を付ければ6人は楽に乗せられる。

「わーい、わーい、僕がお父さんとお母さんを乗せるんだ。やったぞ〜!」

 ブラックが羽を震わせて喜んでいた。

「ブラック、初めてだからゆっくり飛んでね」

「うん、わかった」

 ブラックが羽を拡げてゆっくり羽ばたくと、スーーと浮かび上がって、あっという間に300mくらいの上空にいた。時速200kmくらいで飛んでいる。ブラックの魔力で前方にシールドが張られてあるから快適だ。

「セシル、怖くないか?」

「お兄ちゃんと一緒だから怖くない。死ぬのも一緒だからね」

「すごい理由だな。俺はセシルを絶対に死なせない。絶対にだ」

「うん、わかってる。ありがとう」


 財宝の地に着いた。ブラックがフワッと降り立った。離陸と着陸が実にスムーズだ。風防、温度も管理されて快適なフライトだった。

「ブラックはいいなぁ。僕もお父さんとお母さんを乗せたいなあ」

 シルバーが羨ましいそうに言った。

「へへへへ」ブラックが得意そうに笑った。


 岩の扉の両側に、右がセシル、左に僕がついた。

「セシル、イチ、ニー、のサン、このサンに合わせてレバーを下に降ろすんだ」

「うん、わかった」

「よし、イチ、ニー、のサン」

「ゴゴゴゴゴゴ」扉が開いた。

「やったぞ、開いたぞ」

 扉の中の入ると下に階段が続いていた。

「シルバーとブラックは誰も近づけないでくれ」

「はい、お父さん」

 階段は幅3m、高さ3mの大きさがあった。両側にライトが点いた。20mくらい下に降りると、ちょうど大きな岩の壁に着いた。右側に長方形の穴があった。僕は用意した折り畳みの脚立の上に乗った。長方形の穴の上部にライトが点灯して、底辺に色の違う金属が敷いてあった。僕はなんとなくわかった。

 廃墟で見つけた紙をその金属の上に乗せた。赤いレーザー光線の横線が紙をサーチした。淡く金色に紙が包まれると金属プレートになっていた。岩の壁に赤いレーザー光線の横線が移動すると、金色の光を放ち漆黒の金属の扉が現れて左右に開いた。長方形の部屋に入ると扉の横にボタンがあった。G、U1、U2、U3、U4とあった。ボタンの横に縦の切り込みがあった。

「これはエレベーターだな」

「エレベーター?」セシルが不思議そうにいった。

「夢で見たんだ」

 僕は金属プレートを縦の切り込みに刺すとボタンが発光した。

「順番に行ってみよう」

 僕はU1のボタンを押した。エレベーターの扉が閉まってU1で止まって扉が開いた。僕は金属プレートを抜いた。

 U1の中に入ると照明が点いた。広くてでかい空間だ。サッカーコートくらいの広さで、天井は30mくらいあった。

「お兄ちゃん、これは何かしら?」

「多分、空を飛ぶ乗り物だ。翼があるだろう?」

 想像だが、戦闘機と爆撃機だと思う。

「中を見てみよう」

「お兄ちゃん、大丈夫、あたし怖い」

「大丈夫だ、俺について来い」

 セシルが僕の手を握りしめた。

 爆撃機のタラップを上に上がって中に入った。ライトが点いた。

「まずい、エネルギーが入っている。操縦方法もわからずに動くとまずい、出よう」

 戦闘機も見たかったが、マニュアルがないとダメだ。


 U2のフロアーにきた。また照明が点いた。大量の武器庫だった。想像だがレーザー銃、レーザー砲、あとはわからない。奥に大型の武器が並んであるのが見えた。武器の種類ごとにラックの列が分かれていた。数千人以上が使う武器だと思う。誰と戦うのだ。


 U3のフロアーは大量の魔石の倉庫だった。大きさ、色ごとに区別された魔石が箱に入っている。箱は高さ3mくらいで10段の棚のラックが背中合わせに固定され、ラックの列が20列、奥行きが200mくらいズラッと並んでいた。僕の想像だけど、U1の飛行船の燃料、U2の武器のエネルギーに使うのだろう。


 最後にU4のフロアーに入った。ここはサッカーコートよりも広い、植物園になっていて、プールがあった。そこを歩いていくと、大きな扉があった。前に立つと自動で左右に開いた。広いロビーの空間があった。大人数のパーティが開けそうだ。入り口の近くの壁に建物の地図が貼ってあった。まるで現代のホテルだ。

 アイデン・カウフマンの居室と執務室に行くことにした。共用フロアーからプライベートフロアーに入るには透明な扉を開けなくてはならない。扉の横に大人の腰の位置に金属プレートをかざす台座に金属プレートを近づけると、「ピッツ」となって透明なドアが左右に開いた。

 プライベートの区域に入った。広い廊下の左右には銀色の金属の扉がいくつもあり、1番奥に漆黒の金属の扉があった。何となく執務室だと思った。また扉の前に認証の台座があり金属プレートをかざして内部に入った。金属プレートはセキュリティカードなのだろう。


 執務室の内部には、重厚な執務用の机に、来客用のソファー、開け離れた扉の向こうには会議室だろう。一旦執務室を出て銀色の扉に居室に入った。中は居室だった。広いリビング、ダイニング、バー、寝室、浴室、ここは来客用か、主人の物か、豪華すぎてわからなかった。執務室と居室の壁面を鑑定眼で見ていく、隠し部屋、隠し扉を探した。


「セシル、見つけたら呼ぶから、執務室のソファーに座って待ってていいよ」

「1人だと不安だから、一緒に行く」

「わかった」


 執務室が怪しかった。僕は重厚な執務用の机の椅子に座った。

「セシル、俺の後ろにいてくれ、机を調べるから、護身用の攻撃が発動するかもしれない」

 机の引出しを全部出して床に置いた。机の隠し引出し、二重底をチェックした。


「あった」

 分厚い天板の一部をスライドさせると、薄い金属プレートが隠されていた。金属プレートにはボタンがあった。↑、↓、→、←、開く、閉じるの絵のボタンがある。↓のボタンを押した。執務室全体が5mくらい下に降りた。4面ある扉を開けた。4つとも執務室だった。もう一段下の階の4部屋はカウフマンの趣味の部屋だった。空を飛ぶ乗り物の模型がある部屋、陸を走る乗り物の模型のある部屋、海の上や海中を進む模型の部屋、生物の模型の部屋だった。1番下の階層の4部屋はエッチな物がある部屋やエッチなプレーをする部屋だった。


 1番上の4部屋内の2部屋が禁術書の書庫、1番豪華な部屋には骸骨が2体あった。骸骨の執務室に入った。

 豪華な部屋だった。大きくて重厚な執務用のデスク、肘掛け付きの革張りの椅子に金の刺繍の衣装を纏った骸骨が座っていた。手首から先のない左手が机の上にあった。もう一つの骸骨はソファーに横になっていた。


 ふと気が付いた。

「ホコリやチリがない。家具が劣化していない。何故だ」

 勇者一行が活躍した時代は2000年くらい前のはずだ。この建物の外の景色は変わっていた。

「無菌なのか、それとも空気中の魔素の関係か?」

 僕の想像だけど、風雨等の物理的変化もあるけど、紙の劣化を考えると大気の微生物が食べたり、鉄が錆びるように酸化する変化もあるだろう。真空パックは微生物を遮断するが、太陽に当てると含まれる物質の化学反応が起こるんじゃないだろうか?

 チリヤホコリがないとうことは、もしかすると無菌なんだろう。

「この建物全体がクリーンルームになっているんだ」

 目の前の骸骨を見ると、ミイラだった。

「水分は蒸発するからミイラになったのか」

「でも、なんで左手を切断したんだろう?」


「お兄ちゃん、喉が渇いた」

 部屋の片隅にウォーターサーバーか自販機見たいのがある。ステンレスらしき長方形の箱に、コップの棚とコップを置く場所がある。その上部にボタンがあった。絵文字で水、お湯、ジュース、コーヒー、ミルク、氷となっている。

「飲めるかわからないから、俺がまず飲んでみる」

 コップを置いて氷のボタンを押した。

「カチャ、カチャ」

 氷が適度にコップに入った。次にジュースのボタンを押した。

「シュー」

 これもコップの8分目くらいのところまでジュースが入った。飲んでみた。

「美味い、凄く美味い」

 この世にない果物のジュースだ。色はオレンジとアップルの中間くらいだ。

「大丈夫、飲めるぞ、セシルは常温と冷たいのとどっちがいい?」

「お兄ちゃんと同じのがいい」

「わかった」

 同じのを作って渡した。

「美味しい。こんな美味しい飲み物、初めて!」

「何か食べる物、ある?」

 自販機らしき物、ウォーターサーバーらしき物がならんでいる。冷蔵庫らしき物もある。

「このサーバーはアルコール類だな、おそらくウィスキー、ブランデー、赤ワイン、白ワイン、日本酒はないな」

「こっちは麺類だ。おそらくミートソース、ホワイトソース、他にいくつもあるが実際に食べてみないとわからない」

「適当に出してみるぞ」

 ミートソースとピザだと思う物のボタンを押した。数分が経った。

「チンッ」

 透明なガラスを開けると、プラスチックに似た容器に入ったミートソースとお皿にピザらしき物ができた。

 食器棚らしきところから、フォークとスプーンを出した。

「できたぞ、2人で食べよう」

「このミートソース美味い。ピザも美味いぞ」

「美味しいね、お兄ちゃん」

「この設備は別の部屋にもあったぞ、各居室についていた。ここに住めるぞ」

「お父さんやお母さんも呼んで、一緒に住めるね」

・・・・・・

「いや、このことは俺とセシルだけの秘密だ」

「セシルはまだわからないだろうが、このことが周りに知られると、王家が軍隊を派遣して全て奪われてしまう。僕達家族は牢屋に入れられる、もしかすると殺されるだろう。僕とセシルが国の軍隊より強くなったら、家族で住もう。それまでは絶対に内緒だぞ」

「お兄ちゃんがそういうなら、わかった内緒にする」

「でもここはお兄ちゃんとあたしの家でしょう?」

「そうだ、俺とセシルだけの家だ」

「それならいいよ、お兄ちゃんと結婚するしね」

「必ずセシルをお嫁さんにする。必ずだ。(お前を絶対に死なせない)」

「食べたら宝探しだ」


 喉が渇いて水が飲みたくなった。コップを置いて水のボタンを押した。8分目のところで止まった。

「水も美味いな」

 もう1つのコップに水を入れた。残った水をコップに水面ギリギリまで入れて、所定の場所に置いた。

「カチャ」

 どこかで音がした。

「どこだ」

 鑑定眼で部屋の隅々まで探した。

「どこにもない」

 ミイラの持ち物、ミイラをひっくり返した。家具を隅々まで見た。壁に掛けてある絵画、美術品の中身までチェクした。

「どこだあ〜」

 僕は天を仰いだ。シャンデリアを見た。この建物のシャンデリアは頑丈そうな鎖で吊るされていた。でも僕の斜め上のシャンデリアは太い金属のチューブで天井から吊るされていた。

「あそこだ」

「みーちゃん、シャンデリアを調べてくれ」

「うん」

 みーちゃんが壁と天井をスルスルっと登っていった。天井から金属のチューブを伝ってシャンデリアまできた。

「お父さん、丸い穴が空いてるよ」

「中に入って調べてくれ」

「うん」

 チューブの中を登っていく、天井の上にもチューブが続いていた。

「お父さん、四角い箱があってボタンがあるから押すね!」

「プチッ」


 部屋の白い壁が少し窪んでダイヤルが現れた。みーちゃんが戻ってきた。

「みーちゃん、よくやった。ありがとう」

 

「またダイヤルか?」

 ソファーに横になっているミイラは勇者のサミエルとしか考えられない。僕はサミエルの生年月日の番号を回した。

「ガガガガー」

 サミエルの後ろの書棚が左右に開いて金庫が現れた。

「やっとだな、これが最後だろう」

 僕は鍵穴に廃墟で手に入れたマジック(manic)の鍵を刺して回した。

「カチャ」

 金庫の扉を開けると2段になって、1段目に金属の箱、2段目に3冊の本があった。


 応接セットのテーブルに置いて、金属の箱を開けた。中には分厚い布に包まれたミイラの左手と直径3cmくらいの虹色に光る球体が入っていた。左手を本来あるべき場所のカウフマンの切断された左腕に置いた。

 3冊の本の1冊は簡易マニュアル、2冊目はカウフマンの日記、3冊目は便利な魔法と道具、となっていた。

 僕は簡易マニュアルを熟読した。今、手元にある宝玉こそが神代から伝わる人類最大の宝珠となっていた。「マジックボックス」と名前は普通だが、中に入っているのは、勇者サミエルとカウフマンが世界中を旅して神代、古代の遺跡から発掘した神代の超テクノロジーの道具、武器、叡智、第2神代の究極の魔法の武器と道具、叡智、古代の叡智が入っている。人類の歴史は古いほど高い文明を持っていた。何度も滅んで文明が勃興している。


 勇者達が得た宝珠は、マジックボックスの宝珠、勇者の宝珠、聖女の宝珠の3つだ。

「勇者の宝珠と聖女の宝珠を体内の入れると紋章が現れて、ほとんど不老不死になる。不老不死になることはメリットとデメリットがある、よく考えることだ。詳しくは日記を読んでくれ」とカウフマンが注意していた。


 僕は数日かけてアイデン・カイフマンの日記を読んだ。人類の壮大な歴史と勇者達の内容だった。カウフマンの日記は単に紙で作られているのではない。ページを1枚捲ると膨大なデータが頭の中に流れて来た、1ページが数年分くらいの内容で、カウフマンの説明にあたかも実際に経験した様な鮮明な映像が頭に入って来た。カウフマンの日記を数日かけて読んだが、カウフマンの日記を読んでいる時の時間の流れと、周りの時間の流れが違った。僕は壮大なカウフマンの日記から、カウフマンが経験した歴史とカウフマンが知り得たこの惑星の歴史を知ることができた。


 僕はこのマジックボックスの宝珠を左手の甲に乗せた。ゆっくり入っていって紋章が浮かび上がった。


 僕はカウフマンの建物を再度、発見しにくい元の状態に戻した。この建物、廃墟の財宝はカウフマンの財宝のほんの一部に過ぎない。全てが僕の左手にあるマジックボックスの中にある。


 僕はアイデンとサミエルの冒険に思いを寄せた。

「僕とセシルにどんな冒険ができるだろう」



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