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第7話 一歩前進

「カーブでの減速は最低限で!」


 レイアは仮想空間で、セド王子を特訓していた。

 自らもリハビリをしながら、コースを駆けていく。

 王子は呑み込みが早く、レイアの技を吸収していく。


 僅か一週間ほどで、通常速度を走れるようになったほどだ。

 レイアが支えながら、レクチャーを続ける。

 大事なのは感覚。まずはそれを掴むために、補助をつけて成功してもらう。


「レーンに激突する恐怖心はつきものです! 否定せず、乗り越える方向で!」


 レイアはレーサーとしての心構えも伝授する。

 カーブで恐怖心を抱くのは、生物として当たり前。

 それを認める事が、恐怖を乗り越えるスタートだと、彼女は考えいた。


 セド王子はまだ恐怖心が残っている。

 カーブを曲がる時、必要以上に体を曲げて減速している。

 それではレースに勝てない。インコースを走れない。


「私が良いって言うまで、速度を上げてください」


 レイアがセド王子の腰に、手を回した。

 的確な角度で体を曲げて、速度を調整する。

 

「もう少し……。ここです!」

「こ、これで曲がれるのか?」


 セド王子は不安になりつつ、レイアを信用した。

 速度を緩めず、カーブに入る。

 レイアは王子の重心を、すっと動かした。


「このタイミングで!」


 セド王子は加速しながら、カーブを曲がり切った。

 ギリギリインコースに入る。


「ま、曲がれた……!」


 王子は感動した表情で、加速した。

 現在彼女らが走っているコースは、カーブが多めである。

 レイアがセド王子の特訓用に用意したコースだ。


「今の感覚ですよ。王子」

「何か掴めそうな気がする……。次は一人でやってみるよ」


 王子は思ったより、レースに熱中しているようだ。

 上手くいかないと悔しがり、上手くいくと感激する。

 上達の喜び。それがあらゆるスポーツの醍醐味だとレイアは思っていた。


 王子はレイアの補助なしで、カーブの練習を行う。

 さっきの感覚を忘れないため。何度も微調整をしながら、体に覚えさせている。

 カーブはレースの基本だ。王子はまだ、基礎も出来ていない。


 ドアはブーストなしで、勝てる相手ではない。

 後三週間で、王子にはブーストとそれを超えるテクニックを覚えてもらう。


「一カ月か……」


 レーサーにとって長い様で、短い期間だ。

 自分の怪我も、レース開催日には完治しているだろう。

 出来る限り王子を支える、レースを心掛けるつもりだ。


「おっ!」


 王子は補助なしで、カーブを曲がり切った。

 他のカーブの同じように、インコースで曲がっている。

 既に感覚を掴み始めているようだ。


「はぁ……。はぁ……。出来たよ。レイア」

「はい。しっかりと見ていました」


 レイアは精神世界から帰還した。

 息切れしている王子に、水を入れる。


「よく頑張りましたね」

「ああ。教官の教えがからな」


 練習を始めてから、セド王子に変化が起きた。

 徐々にだが幻覚を見なくなり。会話に支障がなくなる。

 まだ心を開ききっていないが、以前より口数は増えている。


 心なしか、表情も爽やかになった。

 王子は魔道具で走るのが、気に入ったようだ。


「王子。頑張りましょう!」

「ああ!」


 王子はレースをやる気になっていた。

 王位なんて関係ない。純粋にレーサーとして、勝ちたいと思い始めている。


「王子。もし差し支えなければ……」


 レイアは慎重に言葉を選んだ。

 ここで間違えれば、王子は再び心を閉ざすかもしれない。

 それでも、一歩踏み込まなければならない事もある。


「外に出てみませんか?」


 これは危険な賭けだ。王子は外が怖くて、部屋に閉じこもっている。

 そんな彼を無理に連れ出せば、心が壊れるかもしれない。

 それでも、魔道レースの面白さを知った彼なら……。


「本物の風を味わってみませんか?」


 仮想空間の風はレイアが、作り出した記憶だ。

 彼女の感じたものを、疑似的再現している。

 本物の風はこんなものじゃないと、レイアは教えたかった。


「外か……」


 セド王子はカーテンを開けて、庭を見つめた。

 外の様子を見るだけで、体が震えている。

 でもいずれ殻から、出なければならない。


「きっとレイアがそれを言うのに、勇気を踏み出したんだよな……」


 セド王子は深呼吸をして、体の震えを止まらせた。

 レイアに振り返り、小さなほほ笑みを見せる。


「だから俺も一歩踏み出してみるよ。俺は貴方の様になりたいから……」

「教える身としては、超えて欲しいですけどね」


 王子はドアの前に立った。ゆっくりとドアノブに、手を掛ける。

 腕が震えている。レイアはそっと、彼の手を握った。

 ただ部屋から出るだけだが。彼にとっては試練なのだ。


 ――乗り越えられない試練なんて、ないんですよ。

 レイアは支えながら、王子がドアを開けるのを待つ。

 ゆっくりと。着実にドアを捻り……。遂に扉を開く。


「っ……! くっ……!」


 王子は眉間にシワを寄せながら、それでもドアを開いてく。

 人が通れる隙間を作り。一歩外に踏み出した。

 過呼吸になりながらも、もう片方の足を外に出す。


「はぁ……。はぁ……」

「王子……。良く、頑張りましたね」


 レイアがそっと彼の肩に手を置くと。

 セド王子の呼吸が落ち着き始めた。


「王子……!」


 ドアの前ではゴートが、待機していた。

 王子が自分の意思で出てきた事に、驚いているようだ。


「ゴート……。随分心配をかけたな……。少しだけ持ち直したよ」


 セド王子はレイア以外と、久しぶりに会話をしている。

 ――大丈夫。ちゃんと話せている。

 王子は試練を乗り越えたのだ。小さな一歩だけど。大きな壁だった。


「まだ快調とはいかないが……。俺はもう一度、前を向いてみるよ」

「ええ……! どこまでも、お供いたしますぞ!」


 ゴートはレイアに深々と頭を下げた。


「レイア様……! ありがとうございます!」

「いえ。私は何もしていません。王子が、頑張っただけです」


 レイアは王子の隣で、微笑んだ。

 彼女にとって、彼の勇気こそ認められるべきと考えていた。


「王子。少し冷えますが、中庭に行きませんか?」

「ああ。レイアの言う、本物の風って奴を感じたい」


 レイアは王子と共に、中庭に向かった。

 ゴートは遠慮して、二人きりで向かうように伝える。

 この時期の中庭は人が少ない。今の王子にはここが精一杯だろう。


「肌寒い。太陽が温かい。この感じ、忘れていたな……」


 王子は風を浴びながら、感想を漏らした。

 久しぶりの外。彼は晴天を見上げていた。


「王子。傷ついた渡り鳥のお話をご存じですか?」

「ああ。渡り鳥は飛び始めた頃、空で翼を傷つけた」

「怪我をした恐怖で、飛べなくなりました。海を越える時になっても、巣立ちできませんでした」


 それはレイアが絵本で読んだ物語だ。

 子供向けによくある話だったが。

 何故か絵本と言うものは、記憶に残っている。


「渡り鳥が空を飛べるようになったきっかけは、最初の一歩を踏み出したからです」

「最初の一歩か……」

「踏み出すには、心の奥底で諦めない心があったからです」


 心の底から呆れめていたら、二度と飛ぼうとは思わないはずだ。

 

「諦めない心こそ強さであり。レーサーとして大事なものなんですよ」

「そうか……。俺も心のどこかで……」


 空を飛ぶ鳥を見上げながら、王子は頬を緩める。


「せめて心掛けだけは。レイアと同じように……」

「はい。その気持ちが大事です」


 セド王子と共に、レイアは鳥を見つめる。

 きっとあの渡り鳥も、海を渡って新たな物語があるのだろう。

 隣の渡り鳥は、どんな物語を紡ぐのだろうか? レイアは彼を見守った。


~ビャッコ先生の解説教室~


やあ。王子が一歩前に踏み出せた、第七話。面白かったかな?

今回はこの物語の世界観、解説しよう。


元々人界と呼ばれる、人族が暮らす一つの国だったんですけど。

人口増加と権力の腐敗防止のため、皇帝が国を三つに分けると言い出したんですよね。

アルヘイヤ帝国、モロヘイヤ王国、ヤケノハラ王国と、人族だけが三つ国を持っているんですよ。


レイアさん達が所属するのはモロヘイヤ王国ですね。

野山に囲まれた地域で、他の国に比べると人工物が少ないんですね。

だから都会でも、緑をよく目にするんです。


工業の発展はイマイチですが、人族のレーサーが、殆どここ出身。

やはり田舎で鍛えられたんでしょう? みんな坂道を駆け上りますからね~。


他にも魔法に長けた種族のエルフ族。

手先が器用で、開発に長けたドワーフ族。

不思議な力を持った魔物と色んな種族が存在するようですね。


実は世界観全部使いまわしだったりして……。

いえいえ! こちらの話ですよ!

それでは皆さん、ごきげんよ~。

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