第6話 王位継承レース
レイアは様々な混乱の中で、レースを観戦していた。
注目のレーサー二人が首位争いをしている。
現在はドアが前に出ている。ゲンブが着かず離れずの距離だ。
ゲンブの魔道具は、空飛ぶサーフボード。
ドアはラッパ状の口が三つ着いたものに乗っている。
ドアはラフなプレイが特徴の、レーサーのようだ。
積極的に魔法を使って、ライバルと妨害している。
対してゲンブは最低限の攻撃のみで、テクニックで勝負している。
対照的なプレイだが、どちらも理にかなった行動だ。
ライバルを妨害するのも、戦術の一つなのだから。
『何と激しい攻撃だ! 他の選手を寄せ付けない!』
ドアは背後に向けて、爆発する光弾を放っている。
爆発に巻き込まれない様、他のレーサーは回避に専念。
唯一ゲンブだけが、光弾の爆発より先に通り過ぎている。
『ゲンブ選手も食らいつく! これはどっちが勝つんだ!?』
「ゲンブ選手の勝ちね……」
レイアはほぼ確信していた。ドアも悪い選手ではないが。
ゲンブの技術は圧倒的だ。自分だけが狙われぬよう、敢えて後ろを走る。
最終コーナーで一気に抜くつもりだ。そうすれば攻撃が間に合わない。
レイアの予測通り、ゲンブは最終コーナーでブーストを発動した。
当然ドアもそれを警戒する。
インコースに入らせまいと、魔道具の口から火球弾を側面に飛ばす。
『おっと! 横一列に火球弾が飛ばされた! 流石のゲンブもこれは避けられないかぁ?』
ゲンブは減速することなく、カーブに接近した。
ギリギリまでインコースに入り、軽く飛び上がる。
カーブレーンに飛び乗り、そのままインコースの更に内側を走った。
驚愕の表情をしたドアの顔が、アップで映される。
レーサーの表情を見られるのも、水晶観戦の醍醐味だ。
『ゴール! やはり優勝は、この男! ゲンブだ!』
「凄い……。これで十八連勝だ……」
レイアはゲンブの圧倒的走りに、感激した。
彼はレースに参加してから、一度も敗北していない。
いつもエンターテインメント性のある走りを見せる。
覆面姿で正体を隠しているのも、人気の秘訣だ。
彼を打ち破るものが現れるのか。
魔道レース業界の注目が集まっている。
「凄いな……。彼の走り。素人の俺でも分かるくらい」
「ええ。圧倒的ですよ」
レイアが一度でも良いから勝ちたいと願った相手だ。
いくら練習すれど、レイアはゲンブのタイムに近寄れなかった。
「表彰者インタビューは、見ますか?」
「ああ。ドアの奴が何を言うか見ものだ」
ドア。セド王子の従弟であり、彼の暗殺を企てた者。
王子は少なくても、そう考えている。
王の座を狙っていたのだろう。なのに何故、レーサーになっているのだろうか?
『惜しかったですね。ドア選手』
レポーターが、ドアにインタビューをする。
ドアは照れ隠しに頭を掻きながら、さわやかに堪えた。
『いや~。出来れば重要な告知を優勝台で発表したかったのですが……。上手くいかないものでしたね』
レイアの印象は、爽やかさのある青年だった。
レーサーとしては謙虚に見える。とても暗殺なんて事を考える様には思えない。
隣のセド王子を、チラリと見つめる。彼の目には憎しみが写っていない。
「ドアはああ見えて小物だ。王子の暗殺なんて、誰かに諭されないとしない」
「誰かの差し金か……」
レイアは画面に見切れいている、一人の男性を見つめた。
コンド。彼は不気味な笑みを浮かべながら、ドアのインタビューを見つめている。
『実は我が王国主催で、レースをするんです』
『国が主催してレースを!?』
『優勝賞品は、次期国王の座です!』
大々的に発表された内容に、民衆が言葉を失った。
『魔道レースで、次の王を決めると言う事ですか?』
『はい。ご存じの通り。現在我が国は王子が継承権を放棄しました』
拳を握って、水晶を睨むセド王子。
『ですが、武力で権力争いを国は求めません。そこでレースで決定することにしました!』
ドアは人差し指を突き出した。
『参加資格は王族の血筋と。その従者から二名です! 開催時期は来月となっています!』
ドアは詳しい日時や会場、参加人数の上限を説明した。
合計三十人で行われるレース。
従者が勝てば継承権は、その雇い主に決定する。
チームレースを、ドアは開催すると決めた。
レイアは国王が決めた事とは、到底思えない。
「やられたな。こんな堂々と発表されたら、国としては断れない」
「そんな……!」
ドアが勝手に決めた事でも、注目を集めた。
王族の言葉が発端だ。
国がそんな事実はないと否定すると、名誉にかかわる。
「武力を使わず、国を手に入れるために。手っ取り早い方法を選んだか……」
「ど、どうするのですか? 王子……」
さっきのレースでレイアは感じた。
ドアはレーサーとして、訓練されている。
このまま出場すれば、間違いなく優勝するだろう。
「どうするもないさ。俺は王位継承を放棄した身だから」
王子は水晶から離れて、窓の傍に。
「もう関係のない話だ。誰が王になろうとな……」
全てを諦めた様な口調で、王子は呟く。
レイアは立ち上がって、王子に接近した、
「自分の母を殺した相手が、王位になってもですか?」
「俺より優れている。繋がりを持つのが上手だ」
「王子……」
レイアはセド王子の感情を読み取る。
彼は恐れている。自分が責任を持つ事を。
恐怖から逃げるためなら、仇が上に立つことも厭わない。
彼が最も憎いのは、弱い判断をする自分だろう。
弱い自分を変えたくて、必死でもがいて。
それで諦めたものの目を、セド王子はしていた。
――それでも……。貴方は強くなろうとしたのでしょう?
レイアはロケットを握りしめて、王子の肩を掴んだ。
「王子。ここで逃げたら、貴方は一生弱い自分から逃げられませんよ?」
「弱くても良い……。俺はもう……」
「なら私が支えます! 怖いなら私が代わりに前に立ちます!」
レイアの言葉を聞いて、セド王子の瞳が微かに輝く。
光は直ぐに閉ざされるが、王子の表情が動いた。
「貴方は強くなれます! 私が強くしてみます! だから……!」
レイアは王子に手を差し伸べた。
カーテンから光が差し込み、彼女の顔を照らす。
「レースに出ましょう! そして勝ちましょう!」
「今の混乱は、元は俺が責任から逃げた事が原因だ……」
「その責任を取り戻しましょう! 本当の意味で、強くなるために!」
レイアは微笑みながら、グッと手を近づける。
王子は手を上げて、そっと近づけた。
「俺に……。そんな資格はあるのか?」
王子は手を握るのを、躊躇する。
「ないなら得れば良んです! まだ一カ月あります!」
「母さんは俺のせいで死んだ……。俺は幸福を求めて良いのか?」
「はい。貴方は幸せになって良いんです!」
レイアの力強い同意が、徐々に瞳の光を強めていく。
セド王子は引っ込めそうになった手を、再び差し出す。
震えながらレイアの手を、そっと握りしめた。
「レイア、俺は……!」
「レース……。出ましょう!」
~ビャッコ先生の解説教室~
やあ。物語が次のステージに進んだ、第六話は面白かったかな?
今日は魔道レースの歴史を解説しよう。
元々は小さな村で、誰が一番の馬乗りか決める争いがあったんですよね。
その際村起こしをついでに起こそうと、他の村から観客を集めたみたいなんです。
それがもう、迫力満点で! すっかり人の心を掴んじゃったんですね!
興味を持った国王が、国で一番の馬乗りを決める競争を提案したのが始まりですって。
長い事歴史があると、色んな事がありますね~。
最初は馬を使ってレースをしていたんだけど。段々観客が飽きてきて。
一人のエンターテーナーが、魔法を使って馬を加速させたんですよね。
そしたら思いのほか吹き飛んで、ぶっちぎりの優勝!
でも馬に魔力を込めると可哀そうだから、道具に込めようとみんなが提案した。
それが魔道レースの始まりだったんですね。
長い時間をかけて、世界を熱狂させるレースが誕生したわけですよ。
皆さんの知っているスポーツも。案外最初は軽いノリで生まれたりして。
それでは皆さん、ごきげんよう~。