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第5話 罪の意識


「セド王子。紅茶が入りました」


 セド王子と仮想空間で戯れた次の日。

 レイアはいつも通り、紅茶を入れていた。

 お世話係と言っても、やることは限られている。


 王子は外に出ない。レイアは紅茶を口実に、近づいている。

 彼はレイアの事を、いつも冷たくあしらっていた。


「……。後で飲む。テーブルの上に置いててくれ」

「! はい!」


 レイアは目を丸くしながらも、紅茶を置いた、

 現在のセド王子は、立ち上がって外を見ている。

 昨日まではベッドの傍で、座っていた。


 カーテンを少しだけ開けて、朝日を浴びている。

 何かを求めるかのように。手を伸ばしていた。


「太陽光か……。眩しいな……」


 ずっと暗闇に居た王子は、目が明るさに慣れていないようだ。

 少し瞳を閉じながら、太陽を見つめている。

 

 レイアはチラリと、置かれた魔道具を見る。

 レイアが最後に見た後に、使われた形跡がある。

 王子は魔道具が気に入ったようだ。こっそり練習をしているらしい。


「王子。魔道具のメンテナンスも、大事ですよ」


 レイアは魔道具を持った。セド王子が振り返る。


「どう……。やるんだ?」

「まずは魔力を込めなおしましょう。大事な相棒なんですから!」

「相棒か……」


 レイアはセド王子に、魔道具を渡す。

 王子は手を光らせて、魔力を込めた。

 魔道具が輝きを増して、元通りになる。


「次は傷のチェックです。どんな小さな傷も、見逃さない様に」


 レイアの言う通りに、セド王子は動いた。

 新品なので、傷があることはないが。

 それでも念入りに、調べている。


 余程大事にしているのか、魔道具は綺麗なままだった。

 レイアは嬉しく思い、思わず頬が緩む。


「大丈夫なようですね。傷があったなら磨いたりしますよ」

「そうか。魔道レーサーも、マメな仕事が大事なんだな」

「当然です! デリケートな物を扱いますから!」


 レイアは誇らしげに、胸を張った。

 王子が少しだけ。微笑みかけた気がした。


「俺はレーサーになる気はない」

「残念。王子筋が良いのに」

「そういう問題じゃない。俺は……。君達みたいに強くなれない……」



 レーサーに大事なのは、諦めない粘り強さだ。

 精神的な強さが、走りに影響する。

 王子はファンとして、そのことを理解していた。


「まあ、それ以前に。国の王子がレースに出たら、大事ですけど」

「分かっているなら、誘うなよ……」


 セド王子が呆れ半分で、紅茶に口をつけた。

 彼がここまで喋ったのを、レイアは初めて見た。


「貴方の言う通りだったのかもな……」


 呟く王子に、レイアは首を傾げた。


「俺は誰かに助けて欲しかったのかもしれない……。閉ざした心を開いて欲しかったのかもしれない」

「王子……」


 レイアは胸が痛くなった。その気持ちは良く分かる。

 母を亡くした時も、自分も同じ感情だった。

 だから王子が今何を言いたいのか、手に取る様に分かる。


「でもそう簡単に割り切れない。ですよね?」

「そうだな……。裏切りは。消失は心を深く抉る」


 大切なモノを失い悲しだ時。人はその痛みをもう感じたくないと思う。

 だったら大切なモノなんて、作らない方が良い。

 そうやって心を閉ざした経験が、レイアにもあった。


「これだけの事をしてもらいながら。俺は君を完全に信用できない」

「少しずつで良いんです。無理せず、自分のリズムで」


 王子は紅茶を飲み干した。

 彼が人前で動作を見せる事自体が、珍しい。


「なあ、レイア。俺は生きている意味があるのか?」


 王子がゆっくりと、カップを置く。

 顔を伏せながら、目を閉ざしている。


「従者も。母も。俺を残して逝った。だが俺は。彼らに守られる価値があったのか?」


 セド王子は机を叩いた。悔しそうに、腕を震えさせて。

 歯を食いしばりながら、眉間にしわを寄せる。


「俺が逝くべきだったんだ……! こんな、弱くて何も出来ない俺よりも……!」

「王子……」

「俺のせいでもみんな死んだ……! 俺が殺したんだ……!」


 頭痛がするのか、王子は頭に手を当てた。

 腰を折りながら、机にもたれかかる。


「俺はみんなが期待するような価値はないんだよ……。無価値な人間なんだ……!」


 何度も机を叩きながら、王子は無力感を嘆いた。

 そんな彼に、レイアはそっと手を差し伸べる。


「王子。コップやお皿に価値がありますか?」


 レイアの問いかけに、王子は目開けて、首を傾げる。


「コップがなくても水は飲めます。お皿がなくても、食べ物は食べられます」

「何を言って……」

「でもみんな、コップやお皿にお金を払いますよね? 価値があるものだと」


 レイアは王子の手を掴んだ。


「何にどんな価値を抱くか。それは個人の認識しだいなんですよ」

「っ!」

「皆にとって、貴方が生きている価値があったのです。だからみんな貴方を庇ったのです」


 セド王子は顔を上げた。その瞳を、レイアは真っすぐ見つめる。


「貴方が自分を無価値と思っても。他の人がそう思っているとは限りませんよ」


 レイアは王子から手を離した。

 王子は握られた手を、ジッと見つめている。


「貴方に今必要なのは、罪の意識を忘れる事です」


 レイアは微笑みながら、懐を探る。


「王子。今日は魔道レースの日です」


 レイアはマスターから借りた、水晶を取り出した。


「一緒に観戦しませんか? きっと、また勇気づけてくれますよ……」


 罪悪感。それが心を閉ざす、最大の鍵だ。

 こじ開けるには、罪の意識を忘れるほど、熱中してもらう。

 レイアは自分の経験から、王子をレースに誘った。


「それに。人の走りを見て勉強することも大事ですよ!」

「俺はもう……。魔道レースに熱く……」


 レイアは否定する王子の瞳に、僅かな迷いがあることを見抜いた。

 王子は先ほどの言葉を否定するように、首を振った。


「レイア選手の走りを見たら……。また元気と勇気がもらえるかな?」

「ええ。必ず与えて見せます。貴方が私に失望していなければ……」


 レイアは世話係になって、ファンには見せない一面も覗かせた。

 王子が本当の自分に失望していないか。不安になる。


「絶対に貴方が満足する走りを見せます。だから……。一緒に見ませんか?」


 レイアに答えようと、王子が口を開こうとする。

 無意識が否定しているのか。喉に声を詰まらせてるようだ。

 ――頑張って。あと一歩だよ。


 レイアは踏み出そうとする王子を、心の中で応援した。

 セド王子は深呼吸をして、ようやく口を開く。


「観戦するよ。また……。前みたいに熱くなれれば良いな……」


 王子は地面に座った。床の方が落ち着くらしいのだ。

 レイアは水晶に魔力を込めて、映像を映し出す。

 レース会場の映像と音声が、水晶を通して伝わる。


『さあ! 魔道レース! いよいよ開催です! 本日はどのようなレースになるのか!』


 実況が変わらず熱い声を出す。


『注目の的はやはりこの男! 覆面レーサー、ゲンブ!』


 水晶に覆面を被った、男性がアップで映される。

 レイアは息を飲み込んだ。

 ゲンブ。彼は唯一レイアが一度も勝てなかった、最強のレーサーだ。

 

『そしてもう一人! 王族の血筋でありながら! レーサーの道を選んだ! ドア・オリジン!』


 レイアも知らないレーサーが、画面に映された。

 その顔を見た途端。セド王子が目を丸くしている。

 

「王子……?」


 王子は立ち上がりながら、水晶を眺めている。

 拳を握り、映された男性を睨んでいる。


「ドア……!? 母の仇が何故レーサーに?」

「え!?」


 今度はレイアが目を丸くする。彼は王族のレーサーと紹介されていた。

 セド王子は身内から、暗殺されかけたと噂されている。

 ――まさか彼が、暗殺事件の黒幕だと言うの……? 


 レイアが再び水晶を覗き込むと、ドア・オリジンのピットが端に移る。

 ピットの中の人物を見て、レイアは三度息を飲み込んだ。


「コンド……! 何故貴方がそこに!?」


 二人が言葉を失っている間に、レース開始の合図が始まる。

 静まる部屋とは裏腹に、水晶から歓声が聞こえる。


「さあ! いよいよ! レース! スタートですぅ!」




~ビャッコ先生の解説教室~


やあ。いよいよ物語が後半戦に入る第五話は、面白かったかな?

今回はこの小説のスーパーヴィラン。コンドについて解説しよう。


一言で言えば、悪い奴なんだ。この小説で一番悪人で、最も外道な奴!

コイツはもぅ~、根性最低で、冷酷で残忍で極悪非道なクズ男ですよ!

いつもニヤニヤしているし! 笑みから邪悪さがにじみ出していますよ!


大体ね! ちょっと見てくれが良くて、お金持ちだからって、人を見下し過ぎですよ!

好きなものは、激辛料理と温泉巡りですって! クズの癖に!

スキンケアとおしゃれに気を付けっているんですって! クズの癖に!


それでは、皆さん。ごきげんよう~。

いつかこの手で潰して……。

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