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5. ネカマじゃない。僕は詳しいんだ。

 風呂で火照った身体のまま、僕は自室のPCを起動する。


 慣れた手つきでデスクトップのショートカットを起動し、いつもの画面へ。

 40秒弱のローディングが終われば、もうそこは違う世界なのだ。


『クリティカル・シャドウ!』


 紫と緑の激しい稲妻がモニター上で激しく点滅し、派手なエフェクトと共に爆散する。


 次の瞬間、棍棒を持ったゴブリンの群れに次々とダメージカウントが突き刺さる。


「うん。やっぱ、周回には範囲攻撃だな」


 もちもち柏マン、レベル99(MAX)の職業アサシン。こどもの日イベント限定配布アイテム、柏餅に頭部を包んだ全身白タイツの屈強な男キャラ。


 それが大人気ネトゲ、ニューラグーンオンラインでの僕の姿だ。


 ピコン! ユーザーチャットが鳴る。


『あい、デイリー終わりっと。柏マンもおつかれ』

『お疲れ様っす。ナギさん、いつも前衛は任せっきりですみません』


 重厚な鎧に身を包んだキャラクターが、画面端から近づいてくる。


 アカウント名は戦士ナギ、レベル99(MAX)の職業ウォーリア。野性的な白髪のウルフカットに右目についた大きな傷は少年漫画の強キャラを思わせる。


 ネタ気味な僕の装備外見と違って、終末世界の世界観にあったガチガチの厳選装備だ。


『水臭いこというなよ、相棒。柏マンが居なきゃ勝てなかった高難易度クエストだって幾つもあっただろ?』

『そう言ってもらえると助かります。アサシン、高難易には必須ですけど。やっぱりソロだと周回が鬼ほどやりずらいんですよね』


 しかし、そこがイイ。

 なんというか、ロマンを感じるよね。秘密兵器みたいで。


『あ、そうそう見て柏マン。ふっふふふ』


 じゃじゃーん、と効果音と共に見せびらかしモーションで掲げられた一つの盾。


『って、シルバードライブ⁉ 最新ダンジョンのレジェンドレアドロップじゃないですか⁉』

『周回してゲットしちゃった☆』


 この装備、ドロップ率の低さとクエストの難易度がバカみたいな設定されてるせいで、運営が軽く炎上してた。


 というか、専用武器を最大強化するためにはウン十万円分のガチャが必要になるはずだ。


『で、ナギさん。今回はいくら課金したんですか?』

『なーいしょ☆』


 ドン引くくらい躊躇ない課金と、短すぎる非ログイン時間。

 おそらくリアルの戦士ナギは、アルバイトでもしている男子大学生なのだろう。ネトゲで身元を聞くのはNGだからしないけど。


「……あ、そうか!」


 ネトゲなら、相手は見ず知らずな上にそこそこ仲がいい!

 相手が大学生なら、僕の悩みも簡単に解決してくれるかもしれない!


『そういえばナギさん。これは、友達の話なんですけど』

『はいはい柏マンの話ね』

『違います』


 いや、全然違くないけども。


『例えばナギさん、初対面で「ふぅーん、おもしれー女」って言ってくる男子高校生が居たらどう思います?』

『え、やばい奴だろ。どう考えても』


 ですよねぇ。


『初対面の女の子に喫茶店で「名探偵になりたいから捕まえるために怪盗になってくれ」って言われたら断るべきだと思いますか?』

『え? ラノベかアニメの話してる? 今クールのやつ?』


 いやぁ、ですよねぇ。


 ………と、その時。

 キュピーン! と軽い音を立てて小さな魔法陣が現れた。


『すみません、遅くなりました』


 現れたのは、ピンクの髪を後ろで束ねた巫女装束の少女キャラクター。


『お、来たねイブキちゃん』

『イブキちゃん、お疲れさま』


 桜と和風のイメージを基調としたコスチュームがなんとも可愛らしい。

 アカウント名はイブキ。職業は白魔術師で、レベルは35と駆け出しの初心者だ。


 数カ月前に、イベントダンジョンで迷子になっているのを戦士ナギと僕が助けて知り合った。それからはゲームの基礎を教えたり、一緒に周回をしたりしている。


 ――――そして断言しよう。イブキちゃんはネカマではない。


 ネカマ、つまりネットゲーム上で他ユーザーからちやほやされるのを目的に、リアルの若い女の子を演じるおじさんプレイヤーには特有の癖がある。知ってる。僕は詳しいんだ。


 一方、イブキちゃんのネットゲーム初心者の初々しさに、非オタ特有のネタの伝わらなさがある。間違いない、イブキちゃんはネカマどころかインターネット初心者だ。


『それよりも、おふたりとも周回中でしたか?』

『いや、雑談中』

『ハコニワって喫茶店に行ったら、知り合いに怪盗になってくれないかって言われまして』

『ハコニワ! 行ってきたんですか、喫茶ハコニワ! ……ど、どうでした?』


 あ、食いつくのそっちなんだ。さすが現役女子高生(おそらく)だ。

 確かに、藤宮さんも女子高生に大人気って言ってた気がするし。


『その……もちもち柏マンさんは、また行きたいと思いますか?』

『そうっすね。めっちゃ美味しかったですし、暖かい場所でしたよ』


 あの注文取りに来てくれた小さな女の子、ほんとに可愛かったなぁ。


『そうですか。ありがとうございます』


 なぜお礼を言われたのか分からないけど、どういたしまして。


『さてさて、そろそろクエスト回しますかねー』

『うぃーっす』

『今日も、よろしくお願いします』


 もちもち柏マンをマウスとキーボードで操作しながら、ふと思う。


 今日の放課後、人気の喫茶店でタメのかわいい女子高生と二人でお茶をした。


 もしかして、これは……。


「デート、してたのか……僕?」


 いつもは女子どころか、同学年の生徒と話すタイミングすらないのに。


 藤宮さんのポンコツ振りに振り回されるあまり、すっかり緊張する事を忘れていた。

 そして、男女の関係にドキドキする事も忘れていた。どっちかっていうと……ぜんぜん言うこと聞かない犬に振り回されてる散歩みたいだったな。



 同時、机端に置いたスマホの着信が光る。


 名探偵シャーロック『柏くん、明日放課後に教室集合! 作戦会議するから!』


 あ、藤宮さんからだ。

 一瞬、誰かわからないなこの名前。


「そういえば、いつの間に連絡先を交換したんだろう」


 なんと……。

 思いがけず、女子高校生の連絡先を入手していた。


 レアドロップだこれ。

 フリマアプリで売ろうかな。誰か藤宮さんを引き取ってくれるかも。







閲覧ありがとうございます!


★★★★★の評価やブックマーク、コメントなどを頂けると嬉しいです!

モチベーションも爆上がりし、とても執筆の励みになるので是非ともお願いいいたします!


まだまだ続きますので、是非とも本作にお付き合いいただけると幸いです!

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