4. 学生の怪盗団ってロマンあるよね
「《《シチュエーション》》?」
僕と藤宮さんは、手元のホットココアを軽くスプーンで混ぜる。
「そう、シチュエーション。あたしが名探偵っぽく大活躍するシチュエーションを作ってほしいの」
「つまり僕に何か事件を起こせと?」
やっぱり犯罪じゃないか。
「いやいや、事件なんて起こされたって困るよ? あたし」
「……僕の記憶では名探偵って、かっこよく推理するものだった気がするんだけど」
間抜けに口を開けたまま、藤宮さんは首を傾げる。
「推理なんて、あたしに出来る訳ないじゃん」
ご自身の実力を理解できている様で何よりだ。
それでいいのか名探偵。
「だから事件を起こさずに、イイ感じにかっこよく名探偵出来る状態を柏くんに作ってほしいんだよ」
世間では八百長と呼ぶんだ、それは。
「……事件を起こさなかったら、どうやって名探偵として活躍するシチュエーションを作るつもりなの?」
ホットココアをコクっと一口飲んだ藤宮さんは、キメ顔でカップを戻す。
鼻にミルクついてるよ。
「ちっちっち、甘いね柏くん。まるでホットココアみたいに甘いよ!」
かなりやかましい。
「名探偵の戦う相手は、事件だけではないのだよ!」
「というと?」
シュバっ! と大袈裟に動いて、両手で自身の顔を覆う藤宮さん。
その指の隙間から、さながらマスクの様に眼光を光らせる。
「怪盗団! 名探偵の最高の宿敵にして、探偵作品最高のアクセントっ!」
なるほど、確かにフィクションとかじゃよく見るかも。
ご長寿アニメの劇場版とか多いよね、怪盗VS名探偵みたいなやつ。
「つまり僕に、怪盗をやれと? そのうえ、名探偵藤宮さんに捕まれと?」
やっぱり犯罪じゃないか。そのうえ八百長だし。
「のんのん、正確にはちょっと違うよ」
「あれ、何か違った?」
「柏くんに怪盗になってほしいんじゃなくて、柏くんに怪盗団を作ってほしいんだよ! 相手は多い方が名探偵がかっこよくなるでしょ?」
なるほど、つまり悪に手を染める限りでは許されず、何人かを巻き込んだうえでポンコツ迷探偵藤宮さんに捕まるという恥辱の限りを受けろと。
「藤宮さん、さすがにあんまりだと思うんだけど」
「いーえ、コレがあたしのお願いですっ!」
その時、スマホが震えてソシャゲから通知がくる。
さっき藤宮さんが引いたキャラが、早速効力を出し始めたのだ。
このキャラ。正直、マジでめちゃくちゃ強い。
「あたし、めちゃめちゃ頑張って0.0001%を引いたんだけどなぁー」
「ぐっ……」
頭の中で「別に頑張ってはいないだろう」と「マジでありがとうクソ強い神」が響き合う。
とんでもない不協和音の中で、頭の中を制した答えは。
「……わかった、最善を尽くすよ」
「ぃやった!」
飛び跳ねてガッツポーズの藤宮さん。
対照的に机に頭を突っ伏す僕。
こうして、ポンコツ名探偵に捕まるために一つの怪盗団が結成された。
まだ団員は、まだ僕一人だけど。