25. 私は、君が好きだよ?
それから1時間と少し。
幸い専門店街は目的の店が集まっていたので、手早く買い物を済ませる事が出来た。
「ぐっ……こいつはなかなか……」
ものすごい量の紙袋とビニール袋を両手に、僕は一歩を踏みしめる。
両手の指が荷物の重さで締め付けられ、ボンレスハムみたいになってる。
正直、インドアネトゲオタクにこれは超キツイ。ほんとヤバい。
「こーたろ、だいじょーぶ?」
「だからわたしは何度も「持ちましょうか?」って言ってるじゃないですか、幸太郎」
心配そうに眉を八の字にした茅野センパイと、呆れた楪の声が背後から聞こえる。
「だ、ダイジョブだから」
嘘。
マジで大丈夫じゃない。さっきから左腕が変な音鳴らしてる。
けど、自分行けますみたいな雰囲気出しておいて、やっぱり重たいんで持ってくださいって女の子に言う勇気、僕には無い。いや絶対言った方がいいんだろうけどさ。
「あ、こーえん」
茅野センパイが、ととと、っと前に走って指さす。
「わたし、遊んでいきたい」
言い終わるがはやいか、軽い足取りで向かっていく茅野センパイを見送ると、ふと左手に掛かる負荷がずっと軽くなった。
「ほら、茅野先輩も行っちゃいましたし、公園で休憩していきましょう」
さっと楪が、荷物を僕の左手から受け取る。
そのまま公園入り口横のベンチへ腰かけた。
「何してるんですか、ほら座ってください」
「あ、うん」
言われるがまま、僕も隣に座る。
「ふぅ…………」
木漏れ日の温もりが、シャツを撫で去る。
遠くから、茅野センパイが小学生たちと遊ぶ声がやけに反響して聞こえる。
身体の芯に固く焦げ付いていた、疲労感。
「………………」
「……幸太郎?」
もしくは昨晩、いや早朝まで続いたネトゲの代償か。
「……う? ……すか、こ……う?」
溶け合い、揺れ合い。瞼の重さは、意識を微睡みへと溶かしていった。
「あれ?」
「目が覚めましたか? 幸太郎」
しまった、いつの間に。
すっかり寝落ちていたのか、視界には少し赤らんだ空が一面に映っていた。
身体を起こし瞼を擦る僕の横で、楪は毅然変わらない整った姿勢で座っている。
「もしかして僕、結構な時間寝てた?」
「1時間と少しくらいですかね」
マジか、1時間もこんなベンチで。
「にしては、首や頭が痛くないような……」
ベンチに横になってたら身体はバッキバキになりそうなものだけど。
それに、やけに頭の辺りは柔らかかった様な……。
違和感に首元に手を回していると、うら恥ずかしそうに楪がそっぽを向く。
「……か、茅野先輩を頭元に敷いてましたから」
先輩に対してなんてことするんだ、この人。
「こーたろ、のみものー」
少し先から、両手で清涼飲料を持った茅野センパイが駆けてくる。
森の妖精さんみたいで非常にかわいい。
「はい、どーぞー」
「ありがとうございます。茅野センパイ」
「んー」
手でわしゃわしゃと頭をなでると、茅野センパイが心地よさそうに両目を瞑る。
「ちょ、ちょっと幸太郎⁉ 何してるんですか!」
「あ」
乱れた髪で、わなわなと打ち震える楪。
やっべ。また愛犬マルへの手癖でやらかした。
「仮にも先輩ですよ、その人!」
僕の頭元に敷いてた人には言われたくないな、それ。
「わ、わたしだって! 付き合ってる時に撫でてもらった事もないのに!」
「待って楪、絶対に論点はそこじゃないと思う」
なんか楪さん壊れちゃった。
「こーたろ、元気になった?」
「はい、ベンチでゆっくり休めましたから。楪も、ありがとう」
気が抜けていたのか、はっと我に返った楪が毅然とした態度を取り繕う。
明らかに動きがドギマギだし、ぜんぜん取り繕えてないけど。
「べ、別に茅野先輩が遊びたがっていたので立ち寄っただけで……私は別に幸太郎の身を案じた訳じゃありませんし! 別に幸太郎が好きとかじゃありませんし!」
「あ、うん。何かゴメンね」
なにも、そんな典型的なツンデレみたいなセリフで否定しなくても。
まるで一周回って僕に好意がある様にすら……いや、ないな。僕と楪の関係だし。
「んしょ」
すると、僕と楪との間に茅野先輩がずいっと身体を入れ込んでくる。
視界にどアップの茅野センパイが、モチモチした顔を傾げた。
「わたしはこーたろ、好きだよ?」




