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23. 先輩とのデートは蟹を添えて

 僕は茅野センパイに連れられるまま、あれよあれよと商店街を歩いていた。


 茅野センパイはいつものオーバーオールに着替え、白いスニーカーを履いている。


 まぁ最初からバイトの予定だったし、こんなのも悪くないか。


「茅野センパイ、買い出しってどこに行くんですか」

「ぜんぶ買いたいのあるから、デパートいくー」


 アパートまでの道中。

 蝶々を追いかける茅野センパイを追いかけたり。

 塀の上のネコを追いかける茅野センパイを追いかけたり。

 公園で小学生たちの鬼ごっこに混ざる茅野センパイを追いかけたりした。


「ぜぇ、はぁ」


 して、ようやく僕と茅野センパイはデパートに辿り着いた。


「こーたろ、なんか疲れてる?」

「ですね、不思議ですね」


 子供の体力は無尽蔵だと噂は本当らしい。

 いや待て。 14歳の高校2年生だよな、この先輩。


「おにぃはいつも、デパート着くとかたぐるましてくる」


 体力バケモンなんだ店長。


 そっか、あのガタイだしなぁ。


「……んー」


 ショッピングモールの電光掲示板を見上げる茅野センパイ。

 部屋の隅をジッと見るネコの様に、お店を端から順にジッとみている、


「あの、茅野センパイ」

「なにー、こーたろ」

「舌、しまい忘れてますよ」

「ん」


 ちろっと出てた小さな舌が、瞬時に小さな口に格納される。

 なにそれ、かわいい。


「それじゃ、さっそく目的の品を買いに行きますか」


 僕の体力が底をつく前に、手早く買い物は終わらせなければ。


「かいものめもー」


 某ロボットが如く、オーバーオールについたポケットからメモを取り出す茅野センパイ。


「まずはー、ちょーりきぐ」

「調理器具ですか」


 メモを覗き込むと、丁寧で綺麗な字でリストに箇条書きされていた。


 うわすげぇ、CMで見た事ある通信教育のお手本みたいだ。


「おにぃのメモ、上からお店ごとにかいてある」

「え、これ店長が書いたんですか」


 コクコクと人形の様に頷く茅野センパイ。


 マジか、人は見かけによらないんだなぁ。


「えっと、確か泡立て器と、ボウルと……」


 茅野センパイから見せてもらったメモを元に、調理器具の場所を探していく。


 機具にこだわりとかあるかもしれないから、茅野センパイにも確認してもらおう。


「こーたろ、みてみて」


 陳列棚から銀色の何かを手に取った茅野センパイが、得意げに見せつけてくる。


「なんですかそれ」

「かにー」


 かにー、蟹?


 見ると、確かに茅野センパイの持つ銀色の棒には中腹に蟹が彫られていた。


「あ、これ蟹甲殻類大腿部歩脚身取出器具じゃないですか。 売ってるんですね蟹甲殻類大腿部歩脚身取出器具」

「かにこうかくるいだいたいぶほきゃくみとりだしきぐ、いいずらいね」


 確かに、実際に売ってるのは初めて見たかもしれない。 蟹甲殻類大腿部歩脚身取出器具。


 いらない知識をありがとう、インターネット。


「蟹の足から身を取ったりする道具なので、流石にウチの喫茶店では使えないかもですね」

「でも、かっこいい。 これ」


 いや確かにちょっとカッコイイけれども。 蟹甲殻類大腿部歩脚身取出器具。


「うちのみせでも、かに。 メニューにしよう」

「………ダメもとで店長に相談してみますか」


 茅野センパイが言ったら、わんちゃんあるかもしれない。


「あっち、おもしろそ」


 もう興味が失せたのか、蟹甲殻類大腿部歩脚身取出器具を棚に戻す茅野センパイ。


 何か別の面白そうなものを見つけたらしく、ふんすと鼻を鳴らす。


「あっち見にいこ、こーたろー」

「あ、はい」


 ナチュラルに手を繋いでくる茅野センパイ。 かわいい。


 しかし、こうしていると……あれだな。

 まるで茅野センパイが僕の……。


「あれ、幸太郎じゃないですか」

「うわビックリした!」


 飛び跳ねて振り向くと、声を掛けてきたのは僕の元カノ、出雲崎 楪だった。


 私服であろう、トップスやレースは白で統一されたシンプルなコーディネート。

 楪がカムフラージュのためか付けている大きめのサングラスを、頭の上へクイっと上げる。


「なんでそんなに驚くんですか」

「いや、なんでも……」


 どこか不服そうにハイライトの薄い目を半分閉じる楪。


 うおぉ……焦った。 若干きしょい心の声でも読まれたのかと思った。


「幸太郎、私が話しかけると毎回悲鳴を上げるのは何なんですか? ちょっと失礼だと思うんですけど」


 だって、基本的にエンカウントしなさそうな場所でしか出会わないんだもの。


 学校の柱の影とか、バイト先の事務所とか、秘密基地とか。


 奇襲イベントエネミーだよ、もはや。


「楪と会うタイミングは、毎回ドキッとするからさ。 つい大きい声がね」

「わ、わたしと合うと、幸太郎は………ドキッとするんですか?」


 そりゃもちろん。

 よく思われていないであろう元カノと、不意に遭遇したら誰だって心臓に悪いだろう。


「うん、ドキドキするね」

「……………そ、そうですか」


 なに、今の間。

 え何で顔を逸らすんですか楪さん。


「今日は、茅野センパイと喫茶ハコニワの買い出しに来てたんだ」

「そ、そうなんですか。 それで、茅野先輩はどこに?」


 どこか顔を赤くした楪が、自分の手でパタパタと顔を仰ぐ。


「どこって、僕と一緒に……」


 と、振り向いた時、僕の手の先には誰もいなかった。


「あれ!? 茅野センパイ!?」


 冷汗と手汗が滝の様に流れるのを感じる……って、何焦ってるんだ僕は。


 あれでも、あの人はボクよりも先輩なんだ。

 子供が一人で迷子になった訳じゃないんだから。


 ――――ポーン。


 スピーカーから軽い効果音が鳴る。


 デパート全館にアナウンスが入る時のお知らせだ。


『長岡町からお越しの、柏 幸太郎さま。 お連れ様が迷子センターにてお待ちです』


 僕と楪は、無言で迷子センターを目指して歩き出した。


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