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16. 主人公とヒロイン(元カノ)

「あ、マジで? それじゃ僕もこれ、ネットにアップロードしようかな!」


 不良たちの座る真後ろのテーブルで、立ち上がった僕はそう言った。


 バイト用のエプロンは外し、制服も脱いだ一般客と同じワイシャツ姿である。


「は? 何お前、誰だよ」

「いつからそこ居たわけ?」


 まかせろ、影の薄さには定評があるんだ僕は。


「いやー実は僕、漫画家見習いでしてね? あんた達みたいな、ザ・チンピラキャラっぽい人はなかなか現実じゃみかけないから、参考になるなーって思って録画させてもらってたんですよ」


 無論、漫画家志望なんて真っ赤な嘘である。


「あ、この動画とかSNSとかにアップロードしたらバズるかな」


 僕が手元のスマホの動画を再生すると――――。


『やっぱ撮ろうよ、ネットでバズるからさ!』

『おい、いい加減にしろ!』

『細けーなおっさん、この店とか店員がバズるかもしれないんだからいいだろ』


 つい先ほどまで、目の前で行われていた行為がバッチリと再生される。


 しっかりと大学生ふたりの顔と、激高する店長の表情までも事細かに、だ。


「はぁ、なんだお前キッモ!」

「ふざけんな! お前、それ完全やってること――――」


 大学生の一人がブチギレながら、僕を指さす。


「盗撮魔だろうがっ!」


 よし、かかった。


「ええ。勝手に人を撮影するのは『盗撮魔』ですよね」


 局所的に力を込めてハッキリと告げる。


 僕は店長みたいに気迫がある訳でも、理屈で彼らを言い負かせる程に明哲でもない。


 だから、彼ら自身に楪の気持ちを追体験してもらうくらいしか思いつけなかった。


「…………」


 旗色が悪いことを悟ったのか、一人が苛立ちに任せてボリボリと頭を掻きむしる。


「あーあ、なんか冷めたわ。気分わりい」

「あ、ああもう帰ろぜ」


 乱暴にお札をテーブルに叩きつけ、店からズカズカと出ていく大学生たち。


「出雲崎さん、大丈夫?」

「いずもざき、からまれた?」


 藤宮さんと茅野センパイが駆け寄ってくる。

 そう、気が付けば店内中の視線がこのテーブルに集まっていたのだ。


 ……しまった、他のお客さんの事まで頭が回ってなかった!


「あの、お客様方! 大変申し訳……」


 パチパチパチ、と小さな拍手。


「お見事ね、追い詰める様子はまるで名探偵だわ」

「まるでドラマみたいでかっこよかったわぁ」


 あれは……藤宮さんが接客していたマダム達だ。


 なんか藤宮さんの視線が怖い。目がバッキバキ、何その感情。


「かっこよかったよ、男の子!」


 茅野センパイが接客していた女子大生も、両手を口に添えて囃し立てる。


 その他のお客さんも軽く拍手をするなど、不快そうなお客さんは一人も見えなかった。


「まぁ、他のお客さんもこう言ってるんだ。初日にしてお手柄だな」


 渇入れのつもりか、店長がバシンと僕の背中を叩く。


「ああああああああああああああああああああ怖かったああああああああああああ」


 店長から受けた衝撃のまま、僕は床にぺたりと溶けた。

 床の上で情けなくもにょもにょ芋虫みたいに動く。限界なのである、いろいろと。


「うわ、ちょっと動きキモいよ柏くん」

「こーたろ、その動きおもしろい。わたしもやる」


 無言で店長に羽交い絞めにされて止められる茅野センパイ。


 あー怖かったほんと。

 いや、怖いよ。めっちゃ怖かったよ。無理だよ何だアレ治安終わっとるよ。

 こっちは一般的なネトゲオタクなんだよ。おしっこ漏れそうだったよ普通に。




 かくして時間は過ぎてゆき、すっかり日も落ちた。


「さて、そろそろ店も閉めるぞ」

「はーい」


 店長の合図で、茅野センパイが店頭のOPENの看板をひっくり返す。


 結局、楪が絡まれた後は特段ハプニングは起きなかった。

 まぁ、これが普通なんだろうけど。


 各々が仕事に戻って、僕はそれを見て勉強したり、掃除や雑用をこなして閉店時間だ。


「………ふぅ」


 にしても、なんか超疲れたな。

 この先バイトを続けていく自信ないぞほんと。


「柏」


 野太い声が、スライドドアの奥から聞こえる。店長だ。


「なんですか?」

「お前、今日ちょっと店に残れ」


 え? 埋められる?


 辞世の句を書く時間は確保してもらえるかな。


「夕方の件でしたら、勝手な事をしまい誠に申し訳なく……」

「ちげぇよ、まあ悪くはしねぇから。取り合えず残れ」


 いや、怖すぎる。コンクリと共に海の底かな?


 店長から逃げ切れるビジョンが全くもって見えないし、ここは腹を括るしかないのか……。


 想定外の拘束が決定してしまった以上、不本意だが仕方がない。


「藤宮さん、ちょっと頼みたいことがあるんだけど」

「あの、幸太郎」


 あれ今、楪が言おうとした?


 振り返るも、楪は何も言わずにただ僕をじっと見ていた。


 なんだろう、気のせいかな。


「……なぁあにぃ……柏くん」


 ジト目の藤宮さんが歯ぎしりの混じったやる気のない返事と共に、壁から生えてくる。

 こいつ、僕が名探偵って褒められたことを根に持ってたのか。


「藤宮さん、よかったらなんだけど」


 ふと、再び楪と目が合う。


 本当は、仮にも男子である僕が送ってあげられればいんだけど。


「今日は楪と一緒に帰ってあげてくれないかな。危ないというか、きっとまだ不安だと思うし」


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