15. 僕と元カノとトラブルと
「え、いいじゃん。店員さん可愛いし、ピンスタとかやってないの?」
「そうだよIDくらい教えてくれたっていいじゃん」
テーブルの客は、男性の大学生ふたり。
四人席の空いた椅子に、それぞれ土足で足を伸ばしている。
「大丈夫だって、交換しても誰もわかんねーから」
テーブルに近づいた僕は、すぐ真後ろの空いたテーブルの清掃をするフリする。
「当店では連絡先の交換や店員の撮影は禁止されております。ご理解ください」
「え、まーじめー。可愛いじゃん、一生懸命で」
「バレねぇって、大丈夫だから。いざとなったら俺たちが店長? とかに説明してあげるからさ。ここで何もしないのは流石にノリ悪くなーい?」
あまり良心的な客とは言えなさそうだ。
スライドドアまで戻った僕は、静かにノックする。
「どうかしたか、柏」
「……すみません店長、楪のテーブルを見ておいて貰えませんか」
そう伝えてから、僕はエプロンに手を掛けて更衣室へ向かった。
「だからさ、連絡先交換するだけだって。何がそんなに嫌な訳?」
「それな。ほんとノリ悪いわぁ」
もう、こんな問答が十分以上続いている。
「ですから、当店では……」
「はい、チーズ!」
いきなりの焚かれた大学生のスマホによるフラッシュに、驚いた楪が硬直する。
しかしシャッター音がなる直前に、大きな影が間に入り込んだ。
「は? なにおっさん」
「…………すみません、店長」
店長の背の向こうから楪が小さく呟くと、店長は何も答えず掌を不良たちに差し出す。
「うちの店、店員の写真撮影とか連絡先交換とか禁止してるんです。こちらの店員から聞きませんでしたか?」
「あーはいはい、なんか言ってたかもね」
「俺はあんまり聞こえてなかったなー」
へらへらと誤魔化す大学生たちに、店長は鋭く睨みを利かせる。
「店員の撮影は禁止してるって言ったんだ。写真は消してもらおうか」
「ひぃ!」
ずいっと一歩踏み込む店長に、不良の一人が絞められた様な悲鳴を小さく上げる。
しかし、対岸に座るもう一人の不良は、片方の口端を大きく吊り上げた。
「はぁ? そっちの店員さんの写真撮れてねーじゃん。いらねーよ、あんたみてーなおっさんの写真なんて」
苛立ちを隠そうともせず、スマホを弄る不良。
店長は一歩も動かず、楪を背に壁が如く腕を組む。
「もういい。とにかく、この店からお引き取り頂こうか」
「はぁ? なに?こっちは客なんですけど?」
子馬鹿にした調子の不良はなんとか店長の背後の楪を覗き込むと、舐め回す様に全身を嘱目する。
「あれ、君なんかあの子に似てない?」
「あ、なんかわかる。あれでしょ? 一時期ドラマとか出てた、なんだだっけ」
調子づいたもう一人の不良が、人差しをユラユラと宙に揺らした。
同時に楪の背中が、大きく震える。
「あれだ、クールすぎる女子中学生!」
「そう、それそれ! メガネと帽子撮ったらもう本人じゃん!」
「やっぱ俺らとピンスタ撮ろうよ、ネットでバズるからさ!」
「おい、いい加減にしろ!」
店長がスマホを没収しようと一歩近づくと、不良はわざとらしく片手で耳を塞いでへらへらと撮影を続ける。
「細けーなおっさん、この店とか店員がバズるかもしれないんだからいいだろ」
大学生のスマホが、店長を回り込み楪に向く瞬間。
「あ、マジで? それじゃ僕もこれ、ネットにアップロードしようかな!」
不良たちの座る真後ろのテーブルで、立ち上がった僕はそう言った。




