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12. ロシアン鹿肉

 自室。すっかり夜闇に染まった窓ガラスに、僕が反射する。


 今夜は随分と暑いし、少し開けておこうかな。


「よいしょっと……」


 夜風に当たりながら、PCの起動を待っている間にふと思う。


 怪盗団を作ることになったり、茅野センパイと知り合ったり、楪とまた少し話したり。

 あげく、バイトまで始める事になるとは。先週の僕は考えもしなかった。


 なんか藤宮さんと出会ってから、ここ最近ずっと忙しいな……。


 いや、大体は藤宮さんのせいだな。


「お、起動した」


 ニューラグーンオンラインのIDとパスワードを入力すると、キュピーン! と鳴って僕のアバターは小さな魔法陣を超えていつものフィールドに出る。


 すると、一人のアカウントがペタペタと歩き出迎えてきた。

 そして珍しいことに、そのアカウントはいつもの屈強な鎧を被った戦士ナギではない。


『こんばんは、もちもち柏マンさん』

『イブキちゃん、こんばんはー』


 桜の花弁を纏った、巫女装束の桃色髪がフリフリと揺れる。


『今日はやることが早く終わったので、早めにログインしちゃいました』

『確かにイブキちゃんがこの時間は珍しいね』


 いつも、イブキちゃんが来るときには大体僕も戦士ナギもいるし。


 ……キョロキョロと周囲を見渡してみるも、今日は戦士ナギの姿はない。


『でも、今日に限ってナギさんいないんだね。あの人いつもいるのに珍しい』

『そうなんです。たまには一人でクエストでも回ろうかと思ってました』


 たまたまクエストで助けた初心者が、一人で素材を取りに行こうとしてるなんて。

 ……なんだか感慨深いなぁ。小学生の登校を見送る親とか、こんな気持ちなのかなぁ。


『なにか欲しい素材でもあるの?』

『はい、ダブルホーンラキアの鋭角が欲しくって』


 ダブルホーンラキア。通称、ロシアン鹿肉。


 和風の上位装備になると要求される、ヘラジカモデルのモンスターだ。

 確率即死攻撃を稀に放ってくるので、ラック補正アイテムを持ってないと地味にキツい。


 そして、ラック補正アイテムはイベント配布アイテムだからイブキちゃんは持ってない筈だ。


『よかったら、僕も周回付き合うよ』

『いいんですか? ありがとうございます、助かります』


 イブキちゃんから届いたクエストリクエストに、僕は参加をクリックした。




 

 そうして、数十分ほどクエスト周回を続ける。


 僕の予想通り、イブキちゃんは体力満タンにして稀にダブルホーンラキアの即死に倒れる状況が何回か発生していた。こればっかりは、運が悪かったとしか言えない。


『ダブルホーンラキアの即死攻撃、なかなかキツいですね……』

『ラックアイテムがあるとヌルゲーなんだけどね、イベント配布だから』


 困り顔なモーションのイブキちゃん。


『もうラック補正アイテムは配布されないんでしょうか……』

『いや、そのうち復刻されるかな。イベントボスの討伐で入手できるよ』

『そうなんですか。では、その時までに力をつけてないといけませんね』

『だね。その時は僕らも手伝うよ』

『ほんとですか』


 普段はキリッと凛とした目つきのイブキのアカウントが、あどけないモーションで笑う。


『ありがとうございます、頼りにさせてもらいますね』


 か、かわいいな……。


 流石は現役女子高校生(おそらく)だ。ぜひとも藤宮さんも見習ってほしい。


『おつおつ~、って今日は俺がラストか』


 聞き慣れたキュピーン! の音と同時に小さな魔法陣から現れた戦士ナギ。


『お疲れ様っすナギさん』

『こんばんは』


 助かった。正直、戦士ナギのいない戦場はきつかった。

 アサシンの俺が全線を張る必要があるし、イブキちゃんのカバーも同時に行っていたから。


『さぁ遅れた分、今日の俺は飛ばすぜぇー!』


 こうしてネトゲの世界と夜は更けていく。


 明日の朝が、どんどんキツくんなっていく……。

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