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ベルセさんとの生活②(気になる事ばかりですよー!)

「おはようございます、キルシュさん」

「え? あ、おはようございます、アーシュラさん」

 玄関兼店舗の入り口となっている可愛いデザインの扉を開けると、そこには昨日、大変に! お世話になった黒猫耳警ら騎士様こと、黒猫族のアーシュラさんが立っていた。

「昨日はあれから大丈夫でしたか? 奴は貴方の優しさに付け込んで、何か不埒なことはしていませんか? 貴女の部屋に襲撃を掛けたり、貴女にグルーミングをねだったりしていないでしょうか!? あまつさええ、貴女に何か不当な取引を持ち掛けたりはしていないでしょうか!」

(ち、近い……)

 私よりも頭一個半、背の高いアーシュラさんが、グイグイと顔を近づけ、捲し立てるようにそう言う迫力に負けそうになりながら、私はうんうんと頷いた。

「だ、大丈夫です、何もありませんでした! というか、ここに帰ってきて夕飯の後、疲れてすぐ寝てしまったみたいで、全然! 何もありません! ご安心ください」

(本当は一緒に寝ようとかぐずってたけど、お部屋に入ったらすぐに寝ちゃったみたいなのよね)

 決して口が裂けても言ってはいけないことを思いだしながら、ぐっとこぶしを握ってそう言うと、彼女は心底ほっとしたような顔をして、それからにっこりと蠱惑的な笑顔を浮かべた。

「あぁ、それは良かった」

「御心配をおかけしました」

 ペコッと軽く頭を下げた後、私は首を傾げた。

「それにしても、随分早い時間ですが、今日はどうされたんですか? お店はまだ開店時間ではないのですが……」

「あぁ、それなのですが……」

 そう、まだ朝7時。お店が開くのは10時で、上得意様である子供たちは学校終わりの夕方にやって来るし、冒険者も同じような時間に翌日の準備として買いに来ることが多い。

 警ら騎士様たちは、巡回中によることが多く、特に時間が決まっていないのだが、それでも早すぎだ。

 そう思って首を傾げたところで、後ろからのんきな声が聞こえた。

「キルシュちゃん、大丈夫? もしかしてお客さん……? って、ゲッ! 昨日の女騎士!」

 心配そうに二階から降りたところで、来客の顔を見、瞬時に耳と尻尾を下げて私の後ろに隠れたベルセさんに、アーシュラさんは手を伸ばした。

「近いぞ! 離れろ!」

「キャイン!」

 むんず! と彼の獣の耳を掴んだアーシュラさんは、その耳元で少し大きな声を出した。

「そもそも女性に対し『げっ』とは何だ! 失礼だぞ! 私は君を迎えに来たに決まっているだろう!」

「へ? 迎え?」

「え!? やだ! オレ、キルシュちゃんのお店のお手伝いする!」

 私とベルセさんの声が被ったところで、みしっとアーシュラさんのこめかみに青筋が立った。

「やかましい!」

「きゃいぃん!」

「このままキルシュさんと一緒に暮らしたいなら、今すぐ昨日の汚い恰好に着替えて降りて来い! 早くしろ!」

「は、はいぃぃぃ~。」

 ぴゅ~っと二階に上がっていってしまったベルセさんの背中を見送ってから、私は首を傾げてアーシュラさんを見る。

「あ、あの……お迎えって?」

 そう聞くと、あぁ、そうでした、と背筋をただしたアーシュラさんは、至極真剣な顔で私を見た。

「彼の身元保証人になられた貴女にお話しするのが遅くなり申し訳ありません。実は、貴女が身元保証人になったおかげと言いますか、昨夜遅くに、彼のルフォート・フォーマでの居住申請、保護申請が無事通りました」

 その言葉には、私はほっと胸をなでおろした。

「あ、本当ですか? それは良かったです。でも、随分と早かったですね? 昨日の話ではあと半月はかかるのではと仰ってましたが」

「貴女が身元保証人になってくださったお陰です。しかし! 此方にずっと住むわけにはいきません! 住居が決まるまで居候しているにすぎません。しかも無職! このままではあなたのヒモです!」

「ヒ、ヒモって……」

 確かにそうかもしれないが、いや、もう少しオブラート……とおもっていると、アーシュラさんは少し表情を和らげた。

「昨日分かったのですが、彼は『探究者(クエスタラー)』としては大変有能なようですので、雇用を冒険者ギルドに頼み、試験を受けさせてくれると言ってもらえました。それで、早朝で申し訳なかったのですが、彼にその試験を受けさせるため、迎えに来たのです」

「……雇用試験、ですか?」

「はい」

 首を傾げた私に、アーシュラさんは頷いた。

「昨日もお話しした通り、彼の生い立ちは私共から言う事は出来ません。ですが、それに思う事があったのでしょう。ボルド警ら隊長……昨日彼の傍にいた水牛族の大男ですね。彼が、職業の斡旋を……実は、貴女が被害届を出さず、『番認識阻害薬』を使用した場合には、ボルド警ら隊長が彼の身柄を引き取るつもりだったようです」

(あれ? それなら私が言う前に申し出てほしかったなぁ!)

 そんな気持ちになりきゅっと口を真横にすると、察したのだろう。アーシュラさんが困ったように眉を下げた。

「彼の事を貴女に押し付けたような形になって申し訳ないのですが、しかし実は、隊長が彼の身柄を引き取ると越権行為になってしまうので、正直、貴女が言い出してくださってとても助かりました。」

「越権行為、ですか」

「はい。彼のような人間はたくさんいますからね……彼だけを特別扱いし、助けるわけにはいきません……ですが、隊長はどうにも放っておけなかったようで……貴女に感謝していました。というわけで、こちら、隊長からの感謝の贈り物、だそうです」

 そういうと、アーシュラさんは背負っていた大きな木箱をお店の中に入れてくれた。

「あの、これは?」

「燻製肉や野菜です。食い手が増えたでしょうが、金銭をお渡しすることが出来ないので、週に一度、現物支給させてくれ、とのことです」

「げ……現物支給……」

 箱の中を覗けば、それは見事な、一人では絶対手を出さないような立派な燻製肉の塊や、お野菜、それに瓶詰めの保存食やパンが入っている。

「あ、ありがとうございます……じゃあ、此方を。ちょっと待っててくださいね」

 アーシュラさんを扉の所に待たせ、私は携帯食料を一等大きな袋に詰め込んで渡す。

「これは?」

「私の作っている携帯食料です。甘いのも、辛いのも入っていますから、使ってください」

「ありがとうございます、助かります」

 抱える袋を覗きこんだアーシュラさんがにこっと人懐っこい笑顔で笑ったところで、上からバタバタと転がるように降りてきたベルセさん。

 先ほどまで、警ら隊の誰かのおさがりらしいシャツとパンツ姿だったが、言われたとおり、昨日来ていたテクスチャーな装備を身に着けてきたようだ。

「……貧相だな、まるで捨て犬だ」

(その意見は率直すぎます)

 上から下までベルセさんを何度か眺め、溜息をつきながらそう言ったアーシュラさんは、私の方を見て頭を下げた。

「それでは、彼の身柄を夕刻までお借りいたします。それと、今回の事で、もしかしたら少々ご不快な思いをすることがあるかもしれません。が、どうか貴方のままでいてください。何か困りごとがありましたら、必ず力になりますので」

「え? それは、どういう……」

「それでは、失礼いたします。おい、行くぞ」

「え? う、はい。キルシュちゃん、行ってきます! またね! すぐに帰ってくるからね!」

 耳と尻尾をペションと垂らしならが、ぶんぶんと手を振りアーシュラさんと共に転移門のある方に向かっていくベルセさんを見送りながら、私はアーシュラさんの言葉の意味を考えていた。


 そしてその真意を、私はすぐに知る事になった。

お読みいただきありがとうございます。

執筆に必要な『気合のもと』になりますので、いいね、評価、ブックマーク、感想等、していただけると、作者が小躍りで続きがかけます♪

誤字脱字報告、本当にありがとうございます!

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