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身の上話は危険です(ドストライクイケメンに、つい同情してしまいました)

「あの……」

 きゅっと手の中の認識阻害薬を握りしめ、私は黒猫耳警ら騎士様に声をかけた。

「この人にこれを使ったら、その後はどうなりますか?」

 それには、黒猫耳警ら騎士様が答えをくれた。

「『国際番保護法』とは別に、貴女が傷害などの被害届をお出しになられた時点で、彼は国外追放となります。タン・アレス出身と言っていたので、そちらに強制送還になるでしょうか」

「え!? それは困る!」

「……え?」

 国外追放という単語に、それまでとは違い、青ざめ震えはじめたベルセさん。

 尻尾は垂れ下がり、耳はぺたんと頭に張り付いてしまっている。

 その様子にとりあえず声をかけると、彼は今にも泣き出しそうな顔で、悲痛な声を上げた。

「俺……俺、雇い主から逃げてて、だから、タン・アレスに戻されたら殺されるかもしれない……」

「え? 殺……なんで?」

 言ってることがぶっ飛びすぎて困惑する私の横で、黒猫耳警ら騎士様はあぁ、と腕を組んだ。

「タン・アレスは我が国と完全に国交を断絶しています。前皇帝がタン・アレスの現皇帝の従兄弟であったためなのですが」

「へ?」

「タン・アレスも以前のルフォート・フォーマと同じく、獣人至上主義です。そして大変な階級社会です。他種族が虐げられていることは先ほどお話しましたが、同じ獣人であってもそれは変わりません。おそらく彼は支配階級である主人から逃げたのでしょう」

「逃げたって、なんで……」

 意味が解らない、と聞いた言葉をそのまま繰り返すと、はぁっとため息が聞こえた。

「先ほど彼を拘束した際に、彼の『命運の腕輪』を確認しました。彼の生い立ちに関しては私共が語っていい事ではありませんので、現在の状況だけお話します。彼は雇用主から彼の身柄を借りている人間の元から逃走し、先日『保護申請、移住申請』を出しています。ですが、犯罪者となればその時点で国外退去。タン・アレスの国境に放り出されます。あちらに戻れば、彼はその身柄は雇用契約者の元に戻されるでしょう」

「……」

(う~ん、聞かなきゃよかったなぁ……)

 目の前でしょぼくれている彼を見て、深く息を吐いた。

 彼の様子を見ていれば、彼がどうして雇用契約者からどんな扱いを受け、どうして逃げ、帰ったらどうなるのか、なんとなくだが想像がついた。

「同情は無用ですよ。貴女は被害者なのですから」

「……はぁ……」

黒猫耳警ら騎士様はそう言ってくれるが、私はそれをそうですね、と頷けるほど冷徹に離れなかったらしい……そもそも傷害と言っても、確かにあちらこちらクンクン嗅がれて恥ずかしくはあったが、出来たのは小さな擦り傷ばかりなのだ。

「ち、ちなみに……被害届を出さなければどうなりますか?」

 その問いには、少しだけ目を大きく開いた黒猫耳警ら騎士様が、小さくため息をつく。

「その場合、彼はルフォート・フォーマにとどまる事を許されます。ただし、彼の出生や身の上、これまでの功績や経歴などを考慮の上、最低五年、『命運の腕輪』に行動監視が付与され、法に接触した場合には即刻国外追放という条件は出されますが。彼は『探究者(クエスタラー)』とのことですので、第一階層『交易層』にある『冒険者ギルド』で身柄を預かることになるでしょう。ただし、一般の移住者と違い、彼の衣食住に保証はありません」

 淡々と語られるそれに、ますます頭が痛くなる。

(こんなの聞かされたら、被害届なんか出せないじゃない……)

 は~と息を吐く。

「もう一度、彼と話をさせてください」

「……どうぞ」

 黒猫耳警ら騎士様の許可を得て檻の向こうを見ると、水牛警ら騎士様がぺしゃんこになった耳の傍で『聞かれたことにしか答えるな、今度彼女の恩情を無にして暴れたらお前のしっぽを丸裸にしてやるぞ』と言ったのは聞こえないふりをしながら、こちらを泣きそうな目で見たベルセさんに問いかける。

「あの、ベルセさん?」

 そういえば、彼は涙目になっていた顔をぱぁっと明るくさせ、椅子に縛られているために近づけないものの、何度も頭を縦に振り、尻尾をぶんぶんぶん回した。

「うん! 俺、ベルセ! 嬉しい! 名前呼んでくれた!」

「おい! 勝手なことを話すな」

「きゃいん!」

「あぁ、その辺で……」

 蕩けそうな笑顔で笑ったところで、腰縄を引っ張られ、頭に拳骨を食らって悲鳴を上げた彼がいっそ哀れで、水牛警ら騎士様を止めながら私は鉄格子越しに彼を見た。

「あの、ベルセさんはどうして私がわかったんですか?」

「甘い匂いをたどって来たんだ」

 すらっと通った少し高めのお鼻をスンスンとさせながら笑う。

「俺、『探究者(クエスタラー)』だって言ったでしょ? タン・アレスで雇用主から冒険者(アドベンチャー)に貸し出されて、その人と一緒にここに来た。最近この辺りにできた地下要塞(ダンジョン)先発隊(カナリア)してたけど、一緒にいた獣人たちがダンジョンのガスでどんどん倒れてって、俺、怖くて逃げたんだ。それからずっと逃げ回って、この辺りに着いた時、いい匂いがするなって。で、ここに入ってやっと、君を見て、やっと番の匂いなんだってわかって、俺、嬉しくて、気が付いたら、飛びついてたんだ」

「そっか。それで、あんなことに」

 自分で思うよりも、ずっとずっと低い声が出た。

 その声に、びくっと体を震わせたベルセさんは、パクパクと口を何度か開け閉めした後、尻尾と耳を思いきり下げて、小さく鳴いた。

「ごめん。……俺、それ飲むよ。本当は嫌だけど、絶対嫌だけど、君のこと諦める……その薬使っていい。だから、あの国に戻すのだけは……許して……俺、まだ、死にたくないんだ」

(それは卑怯だよぉ……)

 ボロボロと大粒の涙を流してそう懇願した彼に、私はさらに、深い溜息を吐くと、手に持っていた『番認識阻害薬』を握りしめ、隣に立つ黒猫耳警ら騎士様を見た。



「えぇと、一階が店舗で、二階が自宅です。ここが私の部屋です」

「なるほど、ではこちらにしっかり施錠魔法を掛けさせていただきましょう」

「はい。よろしくおねがいしま……」

「え?! 施錠魔法!? 部屋、別々!? 一緒に寝ないの?!」

「相互理解!」

「調子に乗るな!」

 ゴツンッ!

「キャインッ!」

 自宅兼店舗の二階。

私の寝室の目の前にある物置になっている部屋の扉を指さすと、背後から大きな声が聞こえ、その声に私と、私と一緒に扉の前にいた水牛獣人の警ら騎士様が叫び、同時にその後ろで腰をロープに縛られたままのジャッカル族のベルセの頭に、両手で抱えるほどの大きな金盥が落ちた。

 金盥は、彼の頭に落ちた後、床に落ちる前にふっと消えてしまった。魔法だとはわかっているが、それは一体どういう仕組みなんだろうと思いつつ、額に手を当ててベルセを見た。

「ベルセさん。私と貴方は今日会ったばかりです。一般的に出会ってすぐの人と同じ部屋で寝たりしません。貴方にとって私は番かもしれませんが、今、私と貴方の関係は、身元保証人と監視対象者という関係で、恋人関係ではありません。したがって、基本的に一緒のお部屋で過ごすことはありません! 貴方のお部屋はあっちです!」

 ぶんっ! と腕を振って、自分の部屋の前にある扉を指さすと、耳と尻尾を垂らしてしょげていたベルセさんのそれがぴんと立ち、それからプルプルと震え出した。

「部屋!? オレに部屋くれるの!? 本当に!? キルシュちゃん、天使! いや番! 愛してる――キャインッ!」

 破顔してそう叫び、私飛びついて来ようとしたベルセさんの頭に再び金盥が落ち、今度はそれと一緒に板張りの床に這いつくばる。

(~~~っ! 顔がいい! いやそれよりも)

床の上で伸びている彼の姿を見て、私は自分の行動を若干後悔した。

(いくら顔と外見とお耳と尻尾がドストライクで、身の上に同情したからって、彼を引き取ったの、早まったかもしれない……)

お読みいただきありがとうございます。

執筆に必要な『気合のもと』になりますので、いいね、評価、ブックマーク、感想等、していただけると、作者が小躍りで続きがかけます♪

誤字脱字報告、本当にありがとうございます!


絆されてしまいました~。明日からひとつ屋根の下ターンに入ります!

(一筋縄ではいきませんが)

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