厳戒態勢での対面(やり過ぎなのでは!?)
「僕の運命の番! 良かった、もう二度と会えないかと思った!」
ガシャンッ!
「おい! 止めるんだ! 静かに座れ! 柵に触れるな! これは彼女の好意で叶っているんだ、お前がそんな態度をとるのなら、中断してもいいんだぞ!」
ガタガタ、ガタタタタタ……ッ
「そんな! 番! 僕の運命の人!」
ガシャン!
「近づくなと言っているだろう!」
ガシャガシャンッ!
「……あ、あの、乱暴はしなくても大丈夫です。貴方も、騎士様に迷惑をかけるのはやめて、大人しく座ってください」
「申し訳ございません、レディ」
「ごめん、君がそういうなら、大人しくするよ」
と、まぁ。
素敵なお耳に尻尾をお持ちの、現在『加害者』として騎士様たちから睨みを聞かされ、私達を隔てる鉄格子に飛びついては、見守りの役割を引き受けてくださっている猫のお耳に尻尾を持ちの小柄な警ら騎士様と、大きな角と小さなお耳、それから牛のような尻尾をお持ちの巨漢の警ら騎士様がそんな彼を引きはがすこと三回目。
前世でも最近はあまり見ない、何の茶番かお茶の間コント、みたいな大袈裟にも見えるやり取りを繰り返している方たちを宥めるように言った私は、ぶっとくて頑丈な鉄格子の向こうにお行儀良く、大きなお耳をぴんと立たせ、大きな尻尾をぶんぶんと振り回しながら椅子に座らされている獣人さんと向かい合った。
今回は道路どころか鉄格子しかないから!(と言っても危ないので手を伸ばしても届かない距離をとっています)
さっきよりも全然至近距離でっ!
大きな黒目勝ちの金の瞳はさらに瞳孔が開いた上にキラキラと潤んで輝き。
髪の毛と同じ、筋と黒の毛の入り混じった大きくてふさふさのしっぽを、扇風機の如くぶん回して。
これでもかっ! というくらいピカピカの笑顔で私を見つめて来るテライケメン。
太陽を直視してるのっ?! ってくらい、とっても眩しいっ!
(鉄格子のせいでイケメン度合いが半減してもこれだから、鉄格子がなかったら私、死ぬんじゃないかしら?)
死因、尊死。なんて、笑えない。
が、キラキラキラキラ、それはもう眩しいくらいのイケメン(ケモ耳ケモ尻尾付き)から、駄々洩れの好意を向けられ、期待値爆上がりです! みたいな満面の笑顔を向けられて、嫌な気持ちになる女はいるでしょうか!?
(少なくとも干物だった私には無理! 眩しすぎてごちそうさまです~!)
と心臓バクバク、胸キュンキュンになりながら、何とかそれを抑え込み(なぜなら周りの警ら騎士様たちが、滅茶苦茶怖い顔していて、何なら冷気のような殺気すら放ちながら彼を睨みつけていて、被害者と位置つけられている私が浮かれている場合ではないからです!)女性騎士様二人に挟まれる格好で彼に向かい合うための椅子に座った。
結構離れているはずなのに、ぶん回されている尻尾から送られる風によってふわふわと私の髪が揺れる。
(あぁ、あの尻尾、抱き着いたら気持ちいいんだろうなぁ)
なんて思いながら、私はコホンと一つ咳払いをする。
「……えっと」
私は少しだけ思案してから、腰を縄で縛られているにもかかわらず、ご機嫌な笑顔で尻尾をぶん回している彼に声をかけた。
「あの、貴方のお名前を伺っても?」
その短い問いかけに、彼は『可愛い! 番の声! 可愛い!』と叫び、立ち上がろうとして抑え込まれ、それでもなお嬉しそうに笑みを深めながら『私は貴方に敵意も悪意もありません!』という、この世界共通のジェスチャーである、彼の右手に嵌った『命運の腕輪』を見せてくれた。
「オレは、ジャッカル族のベルセ! 苗字はなくって、東の『タン・アレス』の辺境出身! 26歳で、仕事は探求者! 君は!? 名前は何!? 年齢は? お仕事は? 好きな物は何? 好きな食べ物は!?」
「おい! 調子に乗るなっ! お前は聞かれた事だけに答えろっ!」
「うわっ!」
飛びつきそうな勢いで椅子から腰を浮かし、私の方に身を乗り出してきた彼は、腰ひもを引っ張られて椅子に座らされる。
「あ、あ、そんなに乱暴には……」
そのあんまりの乱暴さに私が声をあげれば、私の隣にいた女性警ら騎士様が首を振った。
「番の前では獣人は『馬鹿』になります。これくらいではへこたれませんので大丈夫です! あぁなっているときの彼らに慈悲心は無用です」
(……馬鹿って……同じ獣人同士なのにそんな風に言っちゃうってことは、よっぽどなのか?)
確かに、警ら騎士様の言うとおり、椅子に引っ張られてもすぐに腰を浮かしてこちらに来ようとしている(鉄格子があるのに)不屈のガッツを見せている獣人のベルセ……? さん。
そんな彼に舌打ちした警ら騎士様は、力いっぱい縄を引っ張って彼を引き戻すと、反動で座ってしまった椅子に手に持っていた縄を彼ごと巻き始めた。
どうやら、ぐるぐる巻きにして拘束することにした様である。
「ちょっと待って、キツイキツイ!」
「何度注意しても同じことを繰り返すからだ!」
「だって! 番に会えたんだよ!? 傍に行きたい! 少しでも!」
「お前は自分がやったことが解ってないのか、馬鹿狼が!」
ごつん! と、拳が脳天を直撃する音がして、途端、悲鳴が上がった。
(辛辣~怒られてる~)
椅子をガタガタしながら、痛い痛いと訴えるベルセさんに、もう一発喰らいたいか! と罵声をあげる獣人警ら騎士様。
そんな光景を見ながら、私はこの状況、どうやって解決したらいいやらと首を傾げた。
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