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第20話:ハートを射抜くのは

 とある日の昼休み。

 学校の空き教室にて——。


「広大くん、実は大事な話があるの」

「大事な話? 何だ、聞かせてみろ。リリカ」

「実はね……あの豚が何か嗅ぎつけたみたい」


 西方リリカは傲慢な女だ。

 自分へと降りかかる火の子は、全て他の人たちに任せている。

 悪い言い方をすれば、押し付けていると言ってもいいだろう。

 だが、彼女の判断は——組織の中では、最も正しい動きをしている。


「とりあえず、何があったのか全て話せ。オレがどうにかしてやるから」

「了解。実は昨日の夜に——」


 自分一人で解決できない問題は、他の人に任せる。

 他人に頼ることができない人間が多い中、西方リリカはそれが平然とできてしまう。男たちを捨て駒程度にしか思っていないからこそ、できるのだ。


「——というわけで、あのバチャ豚。あ、あたしたちの秘密を知ったみたい」

「なるほどな……それは困ったな」

「ちょちょちょちょちょっと、広大くん。何か軽くないぃ〜? もっと驚くべきところでしょ〜? それなのに、どうしてこんなに落ち着いていられるの?」


 意味が分からなかった。

 あの事件の真相がバレてしまったら、自分たちの身が危ないのに。

 即刻、警察が動き出し、裁きを受けることになるのに。


「決まってんだろ。全て——オレの手中ってわけだよ」

「ごめん。全然意味が分からないんだけど?」

「こうなることも、全てこのオレ様の計算通りってわけだ」

「計算通り……? ど、どういうこと……?」


 実はな、と上唇を歪めながら、自称カリスマ動画投稿者は言う。


「実はな、アイツが妙な真似ができないようにこっちも対策してるんだよ」

「た、対策……?」

「おいおい。リリカ。そこまで驚くことじゃねぇ〜だろ? あんな豚野郎が好き勝手動くのを見せられるのは腹立つだろ? あんな社会のゴミ人間がよ」


 やっぱり、正しかった。

 西方リリカはそう思い、口を緩めてしまう。

 勝ち馬に乗ってしまったと。

 一時はどうなるかと思っていたものの——。


「……むふふふふ、楽しくなってきたわ。アイツが泣き叫ぶ姿を見るのが」


 赤茶髪の少女は、口元から思わず唾液が出てきてしまう。

 生意気な態度を取る幼馴染みの豚を、自分の思い通りにできる。

 そう確信しているのだろう。


「豚❤︎ 豚❤︎ 豚❤︎ 豚❤︎ 豚❤︎ 豚❤︎ 豚❤︎ 豚❤︎ 豚❤︎ 豚❤︎ 豚❤︎ 豚❤︎」


◇◆◇◆◇◆


【苔ノ橋剛SIDE】


 廃進広大一味を地獄へと突き落とす計画は、証拠を集めるだけとなった。

 最もそれが難しいのだが。

 見つかれば、形勢は逆転し、苔ノ橋が圧倒的優位に立てるのだ。

 と言っても——現実は厳しかった。


 廃進広大一味が、何かしら事件に関与している。

 その事実を知ってから、もう既に一週間以上経過しているのだ。

 それにも関わらず、証拠は何も見つからず、手の打ちようがなくなっていた。

 さらに、苔ノ橋剛の前には、もう一つの壁が立ちはだかっていた。


「留年するか。退学するか。どっちか選べか……ははは」


 実は本日——。

 苔ノ橋の病室に意外な訪問者が現れたのだ。

 校長と学年主任だった。

 苔ノ橋の容態を見るなり、留年か退学かを選べと言われたのだ。

 半年間の入院を強いられている身だ。

 その選択を突きつけられても、何もおかしくないか。


「本当にこの世界は、僕をどこまで苦しめれば気が済むんだろ……?」


 学校側の意見としては——。

 退学を選択し、通信制高校への編入を薦められた。

 テレビのニュースでも報道され、学校側には迷惑をかけてしまっている。

 これ以上、問題児を引き留める必要はないと思っていることだろう。

 さっさと厄介払いしたいのだ。面倒な生徒はいち早くに。


 と言えども、苔ノ橋剛は、決意を固めることができなかった。

 だからこそ、苦し紛れに——。

 もう少しだけ考えさせてくださいと頼み、時間を頂けたのだが——。


(今後、僕はどうすればいいんだろうか?)

(そもそも、僕は今後も生き続けてもいいのだろうか?)

(僕みたいな存在が、今後も生きても許されるのだろうか?)

(誰かを傷付けてまで、僕を生きてもいいのだろうか……?)


「苔ノ橋くん。レントゲン写真を撮ります〜」


 頭を抱える苔ノ橋の元へ、南海春風が話しかけてきた。


「あ、その首にかけてるハートのは金属製だよね?」

「そうですけど……これダメですか?」

「ダメだよ。機械が壊れる原因になるからさ」


 東雲翼から受け取ったものだ。

 肌身離さず持っていろ。

 そう言われていたものの、病院側の迷惑になるなら仕方ないか。


「もしかして、それは翼ちゃんとお揃いなの?」

「……そ、そうですけど何かおかしいですか?」

「いやぁ〜。お二人さんはアツアツだなぁ〜と思ってね。お姉さんは」

「南海さんだって、彼氏ぐらいいるでしょ?」


 苔ノ橋剛の何気ない一言。

 それは別に嫌味で言ったわけではなかった。

 南海春風を客観的に見て、見た目も性格も悪くない。

 だから、彼氏の一人や二人ぐらい居てもおかしくない。

 そう判断して言ったのだが——。


「……苔ノ橋く〜ん。何気ないその一言が、お姉さんの心を傷付けることを覚えたほうがいいよぉ〜。翼ちゃんが言っていた通り、本当に乙女心が分かってないねぇ〜」

「自覚は全くないんですが……乙女心はどうやったら身に付くんですか?」

「それを私に聞くか!! このモテない私に!!」

「そうですよね……もう南海さんは、乙女という歳ではありませんよね」

「一旦、表に出ようか。この小僧!! テメェの骨をもっとグチャグチャにしたろうか?」


 二十代後半のガサツな独身女性。

 実家に帰ったら、両親から結婚を早くしろと強要される南海春風。

 彼女の心の声が漏れる中、苔ノ橋は全く声が聞こえなかったのか。


「これってここで外さないとダメですか?」

「外してください。できれば、独身女性の前でペアルックはやめてください。見ているだけで、致死量の血を吐くことになるので……あははははは」


(ん……? 最後の方は上手く聞き取れなかったなぁ〜)

(でも、とりあえず、翼からのプレゼントはここに置いていくしかないのか)


 ハートのアクセサリーを首から外し、苔ノ橋はテーブルの上に置く。

 十分もしない間に帰ってくるから、、翼を裏切ったわけじゃない。

 そう自分に言い聞かせて、苔ノ橋は病室を出るのであった。

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