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第17話:彼氏のために頑張る女の子は可愛い

 一回目のコールが鳴り響く。


 緊張の一瞬だ。

 隣に居る東雲翼はそわそわしており、口元を手で隠している。


 二回目のコールが鳴り響く。


 まだか、まだか。

 あの女は一体何をしているんだ。


 三回目のコールが鳴り響く。


 苔ノ橋剛と東雲翼は顔を見合わせる。

 さっさと出ろと思うのだが——。


 結局、アイツは出なかった。

 何度も電話をかけ直してみたのだが、全く気づかないのだ。

 いつも出てくるなと思うときは出てくるのに。

 一番出て欲しいときには全く出ないなんて。


「本当に腹立つね、あの人」


 苔ノ橋の言葉を代弁する東雲翼。

 不満を漏らす彼女の姿は新鮮である。

 人様の悪口を言うタイプではないのに。


「苔ノ橋くんはさ、外出許可を出してもらえた?」

「安静にしていなさいと言われてるんだよね……今はまだ」

「そっか……」


 寂しそうな表情で呟く東雲翼。

 自分のことを心配して言ってくれたのだろう。

 少しでも早く元気にならなければならない。

 そう思いながら、苔ノ橋剛は言う。


「ごめん。僕に今まで付き合ってくれて」

「ううん。べ、別に何でもないよ。それに謝るほどのことじゃないよ」

「でもさ、僕のせいで……翼にいっぱい迷惑を掛けていると思うから」

「迷惑? そんなことあるわけないじゃん。これも幸せのひとつだよ」


 幸せのひとつと言われても、ピンと来ない。

 一体どんな意味なのだろうと首を傾げていると。


「好きな人のことを考えている時間も楽しいんだよ」

「僕も一緒だよ。夜になると、翼のことを思い出すんだ」

「ふぅ〜ん」


 東雲翼は口元を緩ませて、悪戯な笑みを浮かべて。


「もしかして、わたしのことを考えてエッチなことしてるのかなぁ〜?」


 からかい上手な彼女は苔ノ橋のほっぺたをぷにぷにと触っている。

 どうせ自分の身体をエッチで見ているんだろと、決め付けているかのように。

 ただ、苔ノ橋剛の場合は——。


「それは絶対にない!!」

「断言された!!」

「ここは曲がりなりにも病院だからね……ナースが見回りに来るから」


「だから、わたしじゃなくて……エッチなナースさんと楽しんでるってこと?」


「あるわけないでしょ!! 全人類の男性が一度は考えたことがあるシチュエーションだと思うけど……エッチなナースに誘惑されて、二人で楽しむ展開にならないからね!!」


 病院に入院したら、可愛いナースさんと一夜の関係を築けるかもしれない。

 そんな楽しい妄想を繰り広げていたものの、現実で起きることはない。

 今、考えれば——エロいかもと思えるのは。

 全く動けなかった頃に、医療行為の一環で尿道に管をぶっ刺されたことか。

 痛み大好きなドMの方々には、最高の調教——否、治療行為である。

 と言っても、当時は激痛のせいで、エロいことなんて全て忘れていたのだが。


「そうなんだぁ〜。何か残念だなぁ〜。病院はもっと夢がある場所だと思ってたよ」

「夢って……?」

「今日一日だけなら彼女だと思っていいからみたいな感じで、甘くとろけそうな感じかな?」

「どんな想像をしてるんだよ!!」

「えっ……? なら、苔ノ橋が想像するのはこっちかなぁ〜?」


 指先を口元に当て、小首を傾げながら。


「夜な夜なナースさんを調教する悪い医者の話? それともイジワルなナースさんにいじめられる特殊な病気持ちの患者の話かなぁ〜?」


(…………元ネタが分かる自分もどうかと思うが、それを知っている彼女もどうなんだ?)


「翼さん。本当に女性? 中身おじさんでは?」

「いやいやいや……どう考えても、わたしはピチピチの女子高校生だよ!!」

「ピチピチという単語自体が……もう……何かおじさんくさいんだけど……」


 東雲翼の前世は、エロいおじさんだったのではないか。

 そんな疑問を抱いている苔ノ橋のほっぺたを掴んで、東雲翼は言う。


「さっきから言葉の節々に、わたしに失礼なことを言ってるからね!!」

「いやぁ〜。だってさ、翼……頭の中はエロいことばっかり考えてるじゃん」

「…………………………」


 東雲翼は言葉を見失ってしまう。

 反論したくても、その反論が出てこないのだろう。

 白い肌を恥辱の色に染めながら。


「……エッチな作品は、淑女としての嗜みだよ」

「変な言い訳してる」

「エロゲと同人誌は男性心を奪う教科書(マニュアル)だから」

「商業作品ならまだしも、同人誌かよ!! 一番マニアックな部分を攻めてきたな!!」

「ボイス作品で……エッチな声の出し方を練習もしてるから」

「余計なことを言わなくていいから!! ていうか、さっきからキャラ変してませんか?」


 東雲翼に出会ってから、毎日のように彼女の新たな一面が見つかる。

 それが嬉しいはずなのに……。

 まさかのまさかで、エロ同人作品を嗜む女子高校生だったとは恐るべし。


「エッチな女の子は可愛いと思うの!! 苔ノ橋くんはどう思う?」

「彼氏に力説するのはどうかと思うなぁ〜。僕は、パンケーキの話とか聞きたいんだけど」


 そう乙女心をくすぐられるような可愛い話がさ。

 どうして同人誌に関して、彼女と熱く語らないといけないのだろうか。


「これも全部は……苔ノ橋くんのためなんだよ」

「僕のため……?」

「うん。苔ノ橋くんはエッチな女の子が大好きでしょ?」

「大好きでしょと聞かれて……はいそうですと答える男がいると思う?」

「ここにいると思う」

「うん。大好き!!」


(一体、何を……僕は言っているのだろうか?)


「だからね、わたし……少しでもエッチな女の子になろうと思って勉強中の身ってことだよ」

「……勉強中って」

「いやぁ〜。苔ノ橋くんってさ、色んなオタク文化に精通してるじゃない? だから、少しでもわたしも理解できるように、サブカルチャー関連にも手を出しているわけ!!」


(……翼の中で僕は……オタクという扱いなのか。いやぁ〜確かに、オタク文化には精通していると思うんだけど……。果たして、それを勉強するのはどうかと思うんだが……)


「つまり……翼はさ」

「うん」

「僕に少しでも気に入られようとして、エッチな本にも手を出したわけ?」

「うん。最初は何これぇ〜と思ってたけど……いつの間にか、沼ってた」


(うん……翼を変えてしまったのは僕なのか。僕が変えてしまったのか……)


 でも、意外とこれはこれでアリなのかもしれないな。

 普段は清楚な女の子なんだけど、本性は性に貪慾で淫らな女王様。


(この……ギャップ萌えが堪らん……最高すぎるだろ……)


「ねぇ、苔ノ橋くん」

「ん? どうしたの? その発情した表情は……」

「あのさ、溜まってるんじゃないの? もしかして……そのそれ」


 東雲翼が指差す方向は、苔ノ橋剛の股間。

 彼女は一体何を考えているのか、目元をハートマークに浮かべこちらを見ている。


「わたしがさ、気持ちよくしてあげよっか?」

10万文字ブーストって存在するの?

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