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2.勇者の素質

新規投稿を祝して三話連続投稿します(二話目)

どうしても最初は世界感の説明が多くなるため、少しだらだらとした流れになるかとおもいますがどうぞお付き合いくださいませ。

本話では「勇者」についての説明になります。



 「勇者」


 それは職業(ジョブ)ではなく、国家から与えられる称号である。誰にでも与えられるものではなく、特定の条件が必須である。


・C級以上の冒険者であること

・固有スキルを有すること

・「心玉」を3つ以上有すること


 「心玉」とは、誰もが持っている魔力を蓄える器官であり、肉体の生存能力を飛躍的に高めるものである。これがあればたとえ心臓を一突きされても蓄えられた魔力で生命を維持できる。逆にこれを壊された場合、或いは魔力が尽きている状態で致命傷を負えば、あっという間に死に至る。この大陸で生きていくうえで最も重要な事項であり、多くの冒険者がこの「心玉」を鍛える努力を行っている。つまり蓄積できる魔力の増幅である。一般に「魔力が高い」というのはこの心玉に蓄積できる魔力量が多いことを表す。

 この「心玉」は通常体内に1つだけなのだが、稀に2つ以上持つ者が生まれる。当然高い魔力を有する事になり、上級の冒険者として活躍できるほどである。この「心玉」を3つ…。それは俗世的な言葉で表せば「激レア」となろうか。そんな条件を有していて「勇者」の称号が得られる。因みに魔族の王と相打ちとなった勇者は心玉を10以上有していたという。


 その勇者の条件をグライガは満たしているとヴァラスタは言ったのだ。アルメーナは驚かずには居られなかった。何故そんな事を知っているのだと聞こうとしてアルメーナは言葉を飲み込んだ。


「…教国に知られておるのか?」


「知られれば直ぐに国都へと連れて行かれるでしょう。できれば知られる前に何とかしたいと思っています。」


 アルメーナは黙り込んだ。勇者の条件を持つ人間は国家としても欲しがる人材だ。現に三カ国は数名の「勇者」を抱え込んでいる。大同盟が破棄され、国家間の緊張が高まっている現状では、勇者の力は貴重な戦力になり得るからだ。

 だが「何とかしたい」といはどういう意味か。アルメーナはこれも聞こうとして口を閉じた。

 ヴァラスタは、アルディック騎士王国、若しくはバスク魔導王国から放たれたスパイで勇者候補の人材を自国に連れ去るのかもしれない。或いは国家転覆を狙う反乱軍のメンバーで勇者候補を始末するのかもしれない。いずれにしても、彼の正体を示す証拠はなく、言えば今までのヴァラスタとの関係も終わってしまうかもしれない。それを危惧してアルメーナは何も聞き返さなかった。悪い男ではない。それだけを信じてヴァラスタに任せようと考えた。


「どうするかはアンタに任せるわ。だけど教国の介入が入られるような真似だけは止めておくれよ。」


 ヴァラスタはアルメーナに対してにこりと微笑んだ。


「承知しました。所長にはお世話になっていますからね。迷惑をお掛けするような真似は致しません。」


 ヴァラスタは微笑んだままゆっくりと歩きだし、アルメーナの横を通り過ぎた。


「……国家間の争いに「勇者」は必要ありません。」


 すれ違いざまに呟くと、魔力を全身に纏わせてギルドの正面出入り口から出て行った。彼の魔力を間近で触れたアルメーナは汗を流した。


「……全く綺麗な魔力だわねぇ。……一体どれほどの研鑽を積んだらあんな澄んだ魔力を纏えるのかしら。」


 頬を伝う汗を拭いながら感想じみた呟きを言うと自分も椅子から立ち上がった。そしてヴァラスタの出て行った出入口を見つめていた。


「願わくば…彼が私たちの味方である事を願おう。」



 翌日、ヴァラスタは早朝からギルドのカウンター前に座った。この日はカーナは午後出勤とし、アルメーナも所内に不在であった。ヴァラスタは無言でこの日の依頼を確認しながら此処に到着するであろう人物を待った。やがて彼の手が止まる。彼の感知の技能(スキル)が、揺らぎの多い魔力が村内に入った事を感じる。


「…到着したね。…相変わらず魔力の隠蔽ができないようだな。お陰で分かりやすい。」


 そう言うと書類を片付け、カウンターの前に立って出入り口の扉が開くのを待った。

 暫くして扉が開く。軽甲冑に身を包んだ女の子が入って来てヴァラスタに声を掛けた。


「あの…此処は、冒険者ギルドですか?」


「はい、そうですよ。いらっしゃいませ。」


 ヴァラスタの答えに安心した顔を見せると女の子は後ろを振り向いた。


「グライガ!この建物で合っていました!」


 彼女の声に応じる様に一人の若者が中に入って来た。ヴァラスタは表情を変えずその若者を見る。魔術師用のマントを羽織り、軽装備で長剣を腰に下げた姿にヴァラスタは軽くため息をついた。相変わらず統一性のない装備で二か月前と変わっていない。依然、彼女を盾役とした戦闘スタイルか。心の中で呟くと若者に笑顔を向けて話しかけた。


「いらっしゃいませ。…この村では見かけない方ですね。冒険者ですか?」


 若者は不機嫌そうな表情でヴァラスタに言葉を返した。


「見て判らんのか、お前は?」


 若者の尊大な態度に女の子の方が慌てて補足する。


「は、はい!バーデンバーグからやって来ました冒険者で、彼はグライガ、私はフェールと言います!」


「…はい、では冒険者証を見せて下さい。」


「名乗ったであろう!?そんな事より、迷宮の場所を教えろ!」


 上からの物言いにヴァラスタは動じる様子も見せず笑顔のまま言い返す。


「お名前は伺いました。私が知りたいのは、あなた方が冒険者かどうか、です。なので冒険者証を見せて下さい。」


 グライガは顔を真っ赤にして怒鳴りつけた。


「俺はグライガ・エントール様だ!貴様は只のギルド職員だろうが!黙って迷宮の場所を教えろ!」


 カウンターをどんと叩くもヴァラスタは表情を変えず冒険者証の提示を待った。フェールのほうが慌てて腰のポケットに手を入れる。


「直ぐに出します!…はい、これが彼と私の冒険者証です!」


 フェールは二枚の金属製のカードをヴァラスタの前に置いた。ヴァラスタはちらりとそれを見て少し不機嫌そうな顔をする。


「…冒険者証は本人が携帯する事を義務付けております。次からは御本人が持つようにお願い致します。」

 そう注意するとカードを手に取って確認した。魔力検知を行い、目の前の二人と波長が一致するかチェックする。それが終わると専用の計測器にセットして本物かどうかをチェックした。一通りの確認作業が終わるとカードを二人に返した。フェールの方は直ぐに受け取ったが、グライガはカードを取ろうとはしなかった。


「…冒険者証はご本人が携帯して下さい。」


 強めの口調で言うと、グライガは舌打ちしてヴァラスタの顔を睨みつけながらカードを奪い取る様に受け取った。


「お二人の身分を確認致しました。現在、バーデンバーグ支部の方に問い合わせ中ですので、暫くお待ちください。」


 そう言うと、フェールの顔が青ざめ、グライガはヴァラスタに詰め寄った。


「貴様!何時まで待たせやがる!冒険者だとわかったんなら、さっさと迷宮の場所を言いやがれ!」


「…あなた方はバーデンバーグで登録された冒険者ですので、このウッズには二人の実績情報が御座いません。この為、規定に則り登録先の支部に実績情報を取り寄せています。……それにあなた方の等級は“F級”です。本来ならば迷宮探索は不可、のはずですよ。」


 グライガはもう一度カウンターを叩いた。


「バーデンバーグでも迷宮探索をやっているわ!さっさと場所を言え!」


「そうですか。でも私はそれを知りません。確認する為にバーデンバーグに問い合わせているのです。」


 淡々と答えるとヴァラスタは二人に座って待つよう促した。フェールが更に吠えようとしていたグライガの腕を引っ張り椅子の方へと移動する。グライガは苛立ちを隠せぬ様子でヴァラスタを喧嘩腰で睨みつけながら椅子に座った。見るからにデカい態度である。F級とは思えない行動であった。ヴァラスタはフェールの気苦労に同情しつつも、通信回答を無言で待った。


 冒険者ギルドには支部間の情報伝達を行う特別な道具(アイテム)が設置されている。これを使う事で連絡伝達や情報収集が移動せずとも行えるものだ。ヴァラスタはこれを使って二人のバーデンバーグでの依頼達成実績を取り寄せていた。やがてブザーがなって二人の実績が紙に印字されていく。


 フェールの方はまともだな。定期的に収集依頼をこなしており、内容もまずまずだ。グライガのほうは…酷い有様だ。収集依頼を行わず、無許可で探索を行いモンスター討伐を繰り返している。討伐対象からD級くらいの実力は有りそうだが…如何せん、装備が貧弱だ。真面なのは、彼の武器くらいか。これでは低級と言えども迷宮の最奥になど無茶も良い所だ。


 ヴァラスタはグライガに視線を送った。若者は先ほどと変わらず喧嘩腰の視線をヴァラスタに送っていた。


「グライガ殿、貴方の実績を確認致しましたが、やはり迷宮探索のできるレベルでは御座いません。フェール殿も実践不足です。残念ですが、あなたたちを迷宮にご案内する事は出来ません。」


 ヴァラスタははっきりとした口調で二人の迷宮入りを断った。グライガは椅子から立ち上がりヴァラスタに詰め寄る。


「俺の実力も知らねえで何言ってやがる!低級迷宮など簡単に踏破できるわ!御託はいいから迷宮の場所を教えろよ!」


 胸倉を掴むようにグライガは手を伸ばしたが、ヴァラスタは流れるような動きでグライガの届く範囲から逃れた。


「納得いかないようですね。では、私と勝負しましょう。勝てば特例として迷宮探索の許可をお出ししますよ。」


 ヴァラスタの言葉にグライガの気色が替わった。腰に下げていた剣を持ち上げ大げさな仕草で肩に担いで、ヴァラスタを挑発的な態度で見返した。


「貴様なんぞ一撃で終わりだ!さっさと始めようぜ!」


 若者の血気盛んな態度にヴァラスタは軽く鼻で笑って二人をギルド裏に案内した。そこは防護用の壁で覆われた円形の場所で、冒険者たちからは“演習場”と呼ばれていた。そして演習場の隅には白髪の混じった赤髪の老女性が座っていた。


「…おや、活きのいい若造が来たねぇ。ヴァラスタ、訓練でもしてやるのかい?」


「はい…自分の実力が分っておられない様子でしたので、その身をもって理解して貰おうと。」


 ヴァラスタは老女の話に返事して演習場の中央に立つと剣を腰に下げたままグライガに向き直った。


「グライガ殿から仕掛けて下さい。貴方の剣技を見定めます。」


 そう言って少し腰を屈めると全身に魔力を纏った。白く密度の濃い魔力が薄く全身を覆っていく。その様子を見て老女は感嘆し、若者は嘲笑った。


「何だその薄っぺらい魔力膜(コート)は?魔力膜とはな…こんな風に纏うんだよ!」


 そう言ってグライガは全身に力を籠め、魔力を放出する様に纏った。その色は赤黒く、荒々しく揺らめいていた。


 グライガの魔力膜(コート)は魔力練度が低く変色しており、得意属性が丸見えだ。纏い切れない魔力が全身から噴き出してしまっていて、無駄の多すぎる纏い方だ。あれでは長時間の活動には耐えられない。彼は魔力膜の纏わせ方も習っていないようだ…ヴァラスタは彼の纏う魔力を見てそう結論付けた。


「…どのように学べば、そのような魔力の纏い方になるのですか?…正直、基礎的な事は何もできておりませんよ。」


「は?訳判らねえ事言ってんじゃねぇ!俺様はこの魔力で魔物を屠って来たんだ。貴様なんぞ一振りよ!」


 グライガが吼える様に言うと剣を構えた。


「え?実剣…?」


 フェールが驚きの声と共に顔を青ざめさせて震えた。だがグライガはフェールの悲鳴を気にも止めずに下半身に力を込めてヴァラスタめがけて飛び掛かった。


「死ねやー!」


 長剣を両手で握って渾身の力でヴァラスタめがけて振り下ろす。ヴァラスタは身動きせずにそれをじっと見つめていた。

 纏った魔力を効率よく身体強化に回せていないせいで勢いがない。それに剣に流れる魔力量が少なく強化も中途半端だ。これでは甲殻獣を倒すのも時間が掛かるであろう。

 瞬時に彼の技量を分析して結論を出すと、下半身は動かさず、上半身を軽くひねって左手でグライガの上段からの一撃をはじき返した。グライガはその威力に負け、長剣ごと跳ね返され無様な格好で地面に倒れ込んだ。あっと言う間の出来事に、フェールは呆然としており、グライガも面食らっていた。


「な、何が…?」


 グライガは渾身の一撃を弾かれた理由が判らず呆然としていたが、ヴァラスタが一歩進んだ事で我に返り、慌てて立ち上がって両腕を構えた。


「こ、これならどうだ!俺様の魔法を受けてみやがれ!」


 再び全身に力を籠める。纏っていた赤黒い魔力が両腕に集約され、より赤みを増していった。ヴァラスタはため息をつく。せっかく纏った魔力膜を腕に集中させれば、他の部位が無防備になるではないか。身体強化を行いつつ、魔法を発動させることもできないのか。そしてその魔力も無駄に放出しており、御世辞にも良いとは言えない。ヴァラスタは歩みを止め、彼の魔法を受ける体制に入った。


「食らえ!俺様の火球魔法(ファイアボール)!」


 雄叫びと共にグライガが両腕を振り下ろし、集中させていた赤い魔力を解き放った。瞬時に炎に立ち代わり轟音を上げて火球がヴァラスタに向かって飛んでいく。ヴァラスタは片手を前に出して念じる。かざした手に青白い魔力が集まり、薄い膜になった。火球がその膜に触れた瞬間、膜が火球を包み込み一気に収縮して火球諸共消滅した。

 一瞬の出来事にグライガは何が起こったのか理解できなかった。呆然とした表情でヴァラスタを見つめていた。そんな様子のグライガにヴァラスタは近づいて行った。


「な、何が起こった……?」


 渾身の火球魔法が一瞬にして消え去った事を理解できないグライガは、近づいて来るヴァラスタに震えながら訊ねる。


「…簡単な事です。火属性の魔法に対し、それ以上の魔力を込めた対極する水属性の魔法で打ち消しただけです。」


 今の青白い膜が自分の火球の魔力より上である。その事実が彼の自尊心を深く抉りつけた。


「グライガ殿、判ったでしょう。貴方の実力はギルド職員の私にも劣ると。貴方は剣技においても魔力操作においても、基礎ができておりません。それでは低級と言えども迷宮の低階層での活動もままならないでしょう。」


 グライガは歯ぎしりをした。剣技の基礎、魔力操作の基礎、それは自分の知識に有しておらず、これまで学んで来なかったのだ。地面の土を握り締め悔しさと苛立ちを募らせる。


「…グライガ殿、暫くこの村に留まり、私の指導を受ける気はありませんか?勿論フェール殿も一緒で構いません。」


 ヴァラスタの思いがけない言葉にグライガとフェールの表情が固まった。


「別に他意はありません。私としては迷宮探索できる冒険者が増える事自体、喜ばしい事と考えています。ただ、あなた方が迷宮討伐しないことを約束していただけるのであれば…ですがね。」


 事の成り行きを見ていた老女アルメーナはフッと笑った。ヴァラスタの意図は冒険者としての訓練を行う中で、彼の教育を施そうということのようだ。…うまくいくのか見ものだ。バーデンバーグでは誰の手にも負えずに見放された血統。地力はある。長じれば良い冒険者になるかもしれない。だが「勇者」としての素質はどうするつもりなのか。アルメーナはヴァラスタの言った言葉を思い出した。


 国家間の争いに「勇者」は必要ありません。


 ヴァラスタはどんな過去を経て、今の状況を憂いているのか。それを気にしながら目の前の事の成り行きを眺めていた。


「は!?俺様が貴様如きに指導を受けろだと!?ふざけんな!」


 グライガは握り締めていた砂を投げつけた。しかし砂はヴァラスタの纏う魔力によって塵と化した。その様子にムカついて、立ち上がって殴りかかった。ヴァラスタはその拳を難なく片手で受け止めた。


「基礎と心得を正しく学べば、君は冒険者として強くなる。…良い機会だと思うよ。」


「くっ……!」


 グライガはヴァラスタに握られた拳を振りほどこうとしたが、ヴァラスタの膂力の方が勝っており、振りほどく事ができずに慌てふためいていた。




グライガ・エントール

 元Aランク冒険者のアウグ・エントールとラスナ・エントールの子。両親は教国軍に志願し魔族との戦闘で命を落としており、強者の血統を受け継ぎながらも冒険者としての基礎を学ぶことなく冒険者となった。「心玉」を複数有する「勇者の条件」を満たす特別な身体でありながら、F級の位置に留まっており、かなり荒くれている。


フェール

 グライガの幼馴染。



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