幽霊になったつもりで歩いたら
すぐ読み終わります。
『すべてを投げ出したい』
順風満帆な私生活。これ以上何を望むのか。
もう一人の私が囁いている。この倦怠感は私のせいだと。
幽霊になったつもりで歩いたら。
『倦怠感 理由』
もしかして? 生活習慣の乱れからくる物 ストレス
「いやいや、生活習慣を整えるの、無理だって。」
朝八時。そう独り言ちながら、いじっていたスマホをベットへと落とした。元々不登校なのもあって、大学へ入学したら、真面目に勉学へ取り組もうと思った。そのお陰で、教授からも一目置かれるようになったし、人間関係も良好。大学三年生になった今、不安なのは就職先ぐらいだった。
「今日は、大学休もう……。」
だからなのであろうか。最近、ストレスからか胃腸炎になったり、頭痛がしたりすることが増えた。
『大学の私へのプレッシャー』
人間関係の闇、成績、出席日数……隙を見せたら足を救われるのに。
『何故、休んでしまったんだ』
もう一人の私から、後ろ指を指されている気持ちになる。同期に馬鹿にされたらどうしよう。教授から失望されたらどうしよう。内容がついていけなかったらどうしよう。
不安が言葉となり、私を責立てる。
水曜日。この日の授業を休むのは三回目だ。
学校に行けなくなるのは凝りている。だから、無事卒業させて欲しい。そう目に腕を宛てると、考えるのをやめた。
「やっば、もうこんな時間……」
よほど疲れが溜まっていたのだろうか。お昼ごはんを食べてから、四時間が経っていた。
目をこすりながら、日が柔らかくなった窓辺を眺める。ずっと寝ていたら昼夜逆転してしまうし、外に出よう。そう思い、いつも通り日焼け止めスプレーを全体に塗布し、外へと出た。
住んでいるのは閑静な住宅街。人気のない雨上がりの道を、一人で歩く。足取りは重い。誰もいない景色は、見慣れたものだ。
(もし、私が幽霊になったら、どんな感じだろう。)
向かい側から、一人の人が歩いてくる。その人は、私に反応を見せることなく、すれ違っていく。
誰も私に興味がない。そう思うと、少し気分が晴れた気がした。
(そうだ、もっと都心部へ行ってみよう。)
思い立ったが吉日。ポケットに入っていたICカードを握りしめ、駅へと歩を進めた。
(……はは、面白い。)
電車の中でも、今立っている土地も、色んな人が私を無視して去っていく。さながら、私が幽霊みたいだ。
意識しなければ何ともなかった風景が、演者のように役に没入すると、こんなに面白い世界になるなんて。
(……さっきまで、他の人の目線が気になっていたのが嘘みたい。)
足取りが軽い。一歩、一歩、歩を進めるごとに、まるで一人の世界に来たかのように。
(明日からまた、頑張れるなぁ)
人目を気にしたからといって、その人の気持ちはわからない。後ろ指を指していた私も、今は穏やかに笑っている。だって、今ココにいる大勢の人が私を見ることなんて、一度もない。大学の人が、私の人生を見続けるなんて、一生ない。
(お土産でも買って帰るか!)
青になった横断歩道で、すれ違う人達を横目にスキップして渡る。誰の目を気にしなくて良いのだ。何故なら私は、幽霊だから。
「幽霊になったつもりで歩いたら」