どこまでも、しらばっくれるのね
「やっぱり、違うの!! 私もそんな小説みたいなことで、魔法が使えるようになるはずないって思ったんだけど……、一応確認しとこうと思って」
「魔法って、あの時、俺は何もやっていないって!!」
「だよね。それがあなたのスタンス。形代さんがしていないんだったら、誰がしたんだろう? あの形代ゼミの人たち? それとも、神の御業かしらね」
「神の御業でいいんじゃねえの。実際、目の前で起こったことは自然現象だし、この世に存在してはいけないものに対して神罰が下ったんじゃないか?」
「どこまでも、しらばっくれるのね。神罰というのなら、じゃあ神についての話を一つ。
形代ゼミにいる5人のうち、瀬戸ミズエさんが神隠しに遭い発見された場所が函館の瀬戸神社だってことは聞いてる? うん、聞いているのね。
瀬戸神社に祀られているのは瀬織津姫ね。古事記にも日本書紀にも出てこない神様。天孫降臨した神々の系譜ではなく、元々いた土着の神と考えられています。アマテラスの荒魂であるとか、アマテラスの妻であるとかの伝承もあったようですが、記紀(※古事記と日本書紀のこと)が作成された当時に持統天皇が女性天皇を正当化するため、アマテラスを女性にしたため、瀬織津姫は完全に歴史から抹消された神ですね」
「そういう云われのある神社なんですね。初めて知りました。勝者が歴史を作るのは常識ですから、敗れて征服された方はそんなもんじゃないですか?」
「歴史から抹消されながらも、瀬織津姫の名前は神に捧げる祝詞には残っているんですよ。大祓詞という犯した罪や穢れを祓うために唱えられた祝詞です」
「花形さんってそんな話よく知ってますね」
おべんちゃらを言ってみたが、記紀の内容はあまりにも荒唐無稽で、考古学では参考程度でしかしない。だから、この時点では花形さんがなにを言いたいのか全然分からない。
「ええっ、アナウンサー志望で大学の時から大衆心理学を専攻していまして、当然、宗教も勉強しました。心の拠り所や行動の規範ですからね。
実は、開戸兄妹が神隠しに遭って発見された早秋津神社。祀られているのは速開都比売神でこの速開都比売神は双子の神で、表裏で祀られています。この神様も大祓祝詞に出てくる神様なんですよ。
さらに、吹戸君が神隠しに遭い発見された神社は奈良の息吹神社、祀られてるのはやっぱり気吹戸主神っていう大祓祝詞に出てくる神様。
最後に根戸さんは六甲の速佐須良神社、祀られているのは大祓祝詞に出てくる速佐須良比売神で、全員大祓祝詞に出てくる厄災を祓う神様の境内で発見されているんです。これも偶然ですか?」
「おいおい、それってマジですか?」
思わす花形さんに驚きの言葉を返してしまう。
「あなたを中心に祓い神が集い、あなたに力を貸したとか?」
俺は腕を組んで考え込む。あの時の力は俺がシュメールの王の末裔で元々持っていた力で、あのゼミの5人は関係ないはず……。だけど、厄災を祓う神々に縁があるって、あまりに偶然じゃないか? わけの分からない発掘チートを持っているし……。
「ちなみに、この四柱の祓いについてちゃんと役割が祝詞で述べられています。
瀬織津姫はもろもろ禍事、罪、穢れを川から海に流す役割。
速開都比売姫は、河口から海の底で待ち構えていて、もろもろの禍事・罪・穢れを飲み込む。
気吹戸主神は速開都比売神がもろもろの禍事・罪・穢れを飲み込んだのを確認して根の国・底の国に息吹を放つ。
速佐須良比売神は根の国・底の国に持ち込まれたもろもろの禍事・罪・穢れをさすらって失うとなっています」
「それが、大祓いの四柱の支配する領域ですか……」
そう反芻して、彼女たちの能力を当てはめていく。瀬戸は……、水にまつわるサイコメトラー。水の禍事を読む力なんだ。そして、開戸兄妹は、水に残された禍事を文字を通して掘り起こす力。吹戸の力はきっと禍事の流れを見通す力。そして根戸は根の国(地下の国)を見通す力か。
偶然じゃない証拠に、みんな力と関係ある姓を持っている。そして俺は形代だ。彼女らの能力と俺の力深い縁がありそうだけど……。
「形代先生?! どうですか? ゼミ生の方は? 私は先生と同様、只ものじゃないと睨んでいるんですけど」
さすが、ジャーナリストの勘だな。だからと言って馬鹿正直に云うつもりはない。
「どうだろう? まだ考古学の知識は素人さんだしな」
「そうなんですか? 貴重な人骨や骨盤なども彼らの協力があって発見されたって事前情報では聞いていたんですけど……」
「確かに……、石板も人骨もこないだのドラゴンの件で消えちゃいましたし、本当にまだまだ調査することが山積みだったんですけど……」
俺は少し残念そうな顔で花形さんの問いに答える。
「そうですか。それは残念です。そう云えば知ってました? 瀬織津姫の正体、竜神だっていう話しもあるんですよ。日本列島自身が龍体だっていう宗教だってあるんですよ。禍事は全て龍神が喰ってくれるといいんですけどね」
ちょっとした冗談のつもりだろうけど、それは俺にとって大きなヒントだ。龍神とは古代蛟龍を指している? 俺の中でピースがカチッと埋まった。表情にでてしまったんだろう。
「形代さん、なにか気付いたことが?!」
俺はプルプルと顔を横に振る。
「可愛くないですよ。髪を切ってすっきりして、その丸めがねもコンタクトに変えたら……、そうですね。魔法使いからイケメンになれるかも?」
「えっ、なにか?」
花形さんは何か大事なことを言ったようなんだけど、俺はさっきもらったヒントのおかげで、脳内のCPUがフル稼働していてフリーズ状態、聞き逃してしまった。
「もう、知りません。最後に、あのドラゴン竹節から出てきましたよね。竹と言えばかぐや姫。かぐや姫と言えば月の住人。竹は月と地球を繋ぐ扉の役割をしているかも? ドラゴンってどこから来たんでしょうね。だとしたら竹ってこれからのキーになるかも……、これって私の勘ですけどね。
もし、新たに何か気が付いたら連絡をください。私はこれからレポートを作成するので……、先生はお引き取りください」
なんか「お引き取りください」に力が漲っていた。どうやら、商談は決裂だったらしい。
ただし、こちらはこの上なき情報を得ることができた。その情報収集力と豊富な知識はこれから役に立ちそうだ。どこかで解説役をお願いすることになるかも?
実際、彼女が最後にピースをくみ上げたのだが、現時点では、そんなことを知るはずもない。
俺は、大学に帰るためにバス停に向かった。




