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11.

 

 今更ながら。自分を閉じ込めた癖に、来いと言うミルフォードが気になってきた。もしかして体調が悪いのだろうか。神秘の力を使った副作用かもしれない……


 過去セシリアが回帰した時、確かミルフォードも力を使っていた。でも体調が悪くなるなんて、そんな話は聞いていない。セシリア自身も力を使ったところで体調に変化はない。

(でも……)

 神秘の力は時の神が齎したもの。

 未だ解明されていないものの方が多いのだ。


 時の神が与えたという力は、本来対価に時間を払うのだと考えれば、あの短時間で使用して、ミルフォードは対価に別の何かを取られたのかもしれない……


 セシリアは不慮の事故で命を、心を失ってしまった人を知っている。

 そんな不安が頭を過り、セシリアの歩調は自然と早くなっていく。


(ミルフォード。無事……無事よね?)


 祈るような気持ちでミルフォードの部屋の前に辿り着き、侍従が扉を開けるのを待つ。


「ミル──」

「兄上、大丈夫ですか?!」

 踏み出す一歩を挫くタイミングでデカイ手に押し退けられ、セシリアは抗議の声を張り上げた。

「っ、ちょっと!」

(こ、この男……なんて子供じみた嫌がらせをしてくるのかしらっ!)


 身体を傾ぎながら訴えるセシリアの非難めいた眼差しをチラと受け止めて、ルーサーはフッと鼻を鳴らした。

 声には出さなかったが、口の形はチンクシャと作られていたような気がする。いや、決して被害妄想などではない。


「……ああ、小さくて気が付かなかった。だからエスコートを承ると言ったのに。公女の器の小ささにこうして俺も迷惑を被ってしまったな。すまなかった、俺が大人になるべきだったのに」

 途端に繰り出される妄言にセシリアは一瞬目を丸くした。

「……っ、はあ? ぬぁんですってえ〜〜?」

(ふざけてんじゃないわよ!)

 それから唸るように吠える。


 あれだけ無礼な態度を取っておきながらよくも言えたものだ。流石ブラコン。兄の前では良い子アピールを欠かさないのだろう。現にこうしてミルフォードの前でしっかりと被害者アピールをしているのだから。

 ギリッと歯軋りをするセシリアに嘲笑を返し、ルーサーはミルフォードの枕元で恭しく跪いた。


 クッションに背を預けミルフォードはベッドに横たわったままだ。その姿にセシリアの身体が反射的に強張った。

(やっぱりミルフォードの身体に障りがあったんだわ……)


「兄上、体調は如何ですか? ご無事で何よりでした」

「ルーサー……言いたい事は色々あるけれど、取り敢えず大事ない。心配を掛けたようだね、すまなかった」

 ぱあっと顔を輝かせるルーサーにセシリアはケッと内心で悪態を吐きつつ……自身もミルフォードの休むベッドに近付いた。ルーサーと対峙するように反対側で足を止める。

 

(私だってミルフォードに言いたい事が色々あるのに……)

 少しだけ不貞腐れた気持ちになるも、こちらを向く眼差しにセシリアの胸がどくんと鳴った。


「わざわざすまないね、セシリア公女」

「……ええ」


 とんでもないという気はない。……けれどその通りだと言い返す力もない。

 そして何故かミルフォードはいつもと同じ笑顔なのに、その瞳は酷く冷ややかだった。

 おかげで普段の自分を取り繕うのがやっとのセシリアは、思わず口元がへの字になってしまう。

(……何よ、いつものように揶揄ってくれたらいいのに……っ)

 ぶすくれた気持ちでドレスを握りしめ、セシリアは顔を俯けた。


 こうしてベッドから出ずにいるのは、ミルフォードの具合が悪いから。そうなった原因は自分の浅慮であるからで……セシリアはへの字に曲げたまま奥歯を噛み締めた。


(王族である彼が他者に隙を見せるなんて……)

 そう考えれば益々言葉に詰まってしまう。

 ミルフォードの威厳を損なう程の失態を行ってしまった。

 後回しにしていた自責の念がセシリアの胸に積もっていく。

 言葉が続かないセシリアへと、先に声を掛けたのはミルフォードだった。


「まず、ルーサーの事だけれど。急にすまないね。元々ここへは彼が来る予定だったんだ」

「え……?」

 思わず顔を上げれば、ミルフォードはセシリアの様子を探るように眼差しを細め、視線を逸らした。

「……当然だろう? 王太子自ら竜の視察だなどと……それもわざわざ隣国まで……我が国はそれ程暇ではない」

 そう言うルーサーは呆れるような息を吐いている。


「……私ではお役に立てなかったようで、面目無いね」

「そんな……っ」

 軽やかな口調とは裏腹に、ミルフォードの目は変わらず笑っていない。

 ……自分はそんなにミルフォードを怒らせてしまったのだろうか。何を言っても気にせず受け流す普段のミルフォードとの違いに、セシリアに言いようの無い不安が込み上げる。

 

「何を仰います兄上、あなたがいなければ、このチンクシャ……いや、公女様は竜の餌食になっておりましたよ」

「……誰がチンクシャよ」

 本当にこの第二王子はブレない。

 思わず漏れる低い声が、セシリアを幾らか冷静にした。


「……そうね。あなたじゃなかったお陰で(﹅﹅﹅)私は命拾いしたのよね……だから、その……ありがとうミルフォード……殿下」

 セシリアはごほんと咳払いをしながら横を向いた。

「……迷惑を掛けて、ごめんなさい」


「……」

「……」

「……」


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